第3話 不法侵入って犯罪だよね?

(やっぱり、俺の平和な日常は壊れちまったんだな。)


 蒼がこうつぶやいた理由は単純明白

 校舎裏に呼び出されている現状にある。

 遡ること30分前


 …………………………………………………………………………………………………


「今日は巻けたみたいだな。」


 下駄箱前で少し息を切らしながらガッツポーズをして自身の下駄箱をあけて蒼は何かが入っていることに気づく。


(紙切れ?いや、これは。)


{授業後校舎裏に来い。神楽 澪音(かぐら れいん)}


(果たし状?嘘だろ。)


 そこに書いてあったのは授業後校舎裏に来るように伝えるための文章と

 カーストの最上位、陽炎が転校する前までは男子からの人気が圧倒的にあった学校の女王様の名前が書いてあった。


(本当に、なんでこうなったんだろうな。)


 …………………………………………………………………………………………………


「あんたが星乃 蒼?」


「ああ、そうだが。」


 蒼に声をかけた人物は少し短めの黒い髪に赤色の瞳

 自信に満ちた表情で腕を組む神楽 澪音その人だった。


「早速で悪いんだけどあんたは何で呼び出されたかわかる?」


(いや、わかるわけないじゃん。)


「わかんないですけど。」


「はぁ、これだから陰キャは困るのよ。察しが悪いから私の手間が増えるじゃない。」


(なんだこいつ。相当性格悪いじゃねぇか、なんで男どもはこんな奴のことを好きになるんだ?)


 蒼が心の中で悪態をついているとはつゆ知らず澪音は語り続ける


「まあ、いいわ。あんたを呼び出した理由は簡単よ。星乃 蒼あんた私と付き合いなさい!」


「無理です。ごめんなさい。では、さようなら。」


 蒼は振り向きながら立ち去ろうとする

 その腕を澪音はつかむ。


「ちょっと待ちなさい。なんであんた私の告白を断ってんのよ。」


「いや、だってあんたは俺のこと別に好きじゃないでしょ?」


「な、そんなことないわよ!」


「嘘だな。どうせ自分より人気のある陽炎の好きな男だから取ってやろうと考えてるとかそんなとこだろ。」


 蒼がそういうと澪音はその場に固まり動かなくなった。


(なんだ図星か)


「今度こそさよならだ。あばよ腹黒女。」


 蒼はそういって腕を振りほどくと今度こそ校舎裏から立ち去った。

 勿論一人で。


「はぁ。」


(やっぱり、俺の平和な日常は壊れちまったんだな)


 蒼はため息をついて一人で家に帰るのだった。


 …………………………………………………………………………………………………


「ただいま。」


 蒼はいつものように誰もいない自室にただいまと言う

 蒼も誰もいないことは知っているが実家にいたときの癖がなかなか抜けないため一年たった今も言い続けている。


(あれ、なんで電気がついてんだ?消し忘れてたっけ?)


 蒼は呑気なことを言いながら靴を脱いで家に入る

 何気ない、いつもの行動

 前から足音が聞こえる以外は、


「お帰り!私にする?私にする?それとも私?」


(は????)


「いや、ちょっと待てなんでお前がここにいる?」


 蒼は純粋な疑問を口にする

 蒼は月に合鍵の類を渡した覚えはない

 勿論家の鍵をしっかり閉めて学校に向かった記憶も蒼にはあった。


「え?いや私の部屋のベランダから頑張ってわたってきたんだけど?」


「何を当たり前みたいに言ってんだ。普通に不法侵入で犯罪だぞ?」


「愛の前では法なんて無力なんだよ?」


(何言ってんだこいつ)


「もういいや。好きなようにしろよ。でも、俺のグッズを傷つけたり、推し活を邪魔したら問答無用で警察に突き出すからな。」


 実際蒼は推し活さえできたら他のことは大抵どうでもいいのである。

 平和なほうがいいが平和でないならないで別に構わないと思っている。


「うん!わかった。」


「あと、今度から不法侵入はやめろ。普通にチャイム鳴らしたらあけてやるから。」


(勝手に変なことされるよりはある程度こっちが制御できたほうが安全だろう)


「わかった!絶対あけてよね。」


「はいはい。じゃあ、俺は推しの配信見てくるから邪魔するなよ!」


「りょ~」


(まあ、家にいる人間が一人くらい増えたところで変わらないか、)


 蒼はそう思い自室にこもって配信を見ることにした。


 …………………………………………………………………………………………………


 蒼が部屋に籠ってから一時間が経過していた。

 推しの配信を見終わり夕飯にでもしようかとリビングに向かう。


(今日冷蔵庫に食材ってあったっけ?)


 時刻はすでに7時を回っているため今から外に出るのは少々気が重い。

 だが、リビングの扉をあけるとそこにはとてもおいしそうな夕飯が並べられていた。

 丁寧に二人分。


「お前が作ったのか?」


「うん!まずは胃袋から掴もうかと思ってね!」


「なんか悪いな。」


「なんで星乃君が罪悪感感じてるの?私がやりたくてやったことなんだから気にしないでよ。」


 一瞬、蒼は月が見せた笑顔に見とれそうになったが頭を振ってそんな考えを吹き飛ばす。


「そうか、まあ確かにそうだな。それにお前も食べてるわけだしな。」


「そうそう。気にしないでね~」


「じゃあ、いただきます。」


「いただきます。」


 二人して手を合わせて月が用意した夕飯を食べ始める。


(うまい!!)


 蒼が真っ先に感じたのは自分が作る料理とは比べ物にならないほどにおいしいという事だった。


「マジでうまい!」


「そう?ならよかった。」


(こいつ、ストーカーとかしてくるやばい奴だけど生活能力高めなんだな)


「やっぱ聞きたいんだけど、なんで陽炎はそんなに俺のことが好きなんだ?今までお前に告白してきた男子生徒の中には俺なんかよりもいい奴はいただろ?」


「私が誰をどう思うかは私の自由じゃん。それになんで星乃君のことが好きかはまだ言うつもりはないよ。」


「なんだそれ。」


「逆になんで星乃君はこんなに可愛い女の子に告白されてるのに断るの?」


 心底訳がわからんと言った様子で月は蒼の問いをなげる。


「自分で可愛いとか言うなよ。ナルシストかお前?」


「じゃあ、星乃君は自分のことが可愛いって自覚してるのにそんなことないですよ~っていう女の子のほうが好みってこと?」


「いや、そもそも俺は女に興味ない。」


「星乃君、まさかそっちの気があるの?」


「いや、三次元の女に興味ない。」


「根っこからのオタクだねぇ~」


「オタクで何が悪いんだよ。」


「悪いなんて言ってないじゃん。それに一つのことにそんなに熱心になれるのはすごいことだよ!」


(驚いた。オタクに優しいギャルって実在したんだ。)


「ありがとな。お前は何か夢中になるもんはないのか?」


「星乃君のこと!」


「即答かよ。」


(なんでこいつはこんなに俺のことが好きなんだ?ほんとに面識ないはずなんだが。)


「まあ、いいや。ご馳走様。すげぇうまかった。」


「お粗末様でした。」


「ああ、食器は俺が洗っとくから置いといてくれ。」


「いや、食器も私が、」


「いや、飯まで作ってもらって食器まで洗ってもらったら申し訳なさすぎるから。」


「そう?星乃君は私が思ってたよりも優しいんだね。」


「普通だろこんなの。」


「じゃあ、お願いしようかな。」


「ああ。任せとけ。」


 蒼はすぐに食器を洗い始める。

 流し場が汚いのが我慢ならないのだ。


「ふう。てか、お前はいつ帰るんだよ?」


 蒼が食器を洗い終えても月は家にいたため蒼は聞いてみることにした。


「うん。そろそろ帰ろうかな?」


「そうか。とっとと帰れ。」


「ひどくない?」


「いや、不法侵入者にはこれくらいがいいだろ。」


「それはごめんって。」


「じゃあ、明日も行くからね~」


 月はそういうと元気に家を出て行った。


(明日も来るのかよ。)


 月が家に帰りやっと一人になれた蒼はそんなことを思うのだった。

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