暇つぶし 〜ようかんの謎〜
「暇ですね」
そう呟いたのは探偵みならいの橘 楓である。探偵事務所のソファーで、あらぬ姿でくつろいでいた。
「じゃあ、少し昔話でもしようか」
探偵である猫啼 家康は口を軽快に弾ませた。
「僕はとある依頼を受け、最終的には謎を作ることになった。その謎を君には解いてもらうことにしよう。そのときは、ヒントを合わせて作ったけれど、ヒントをつかうとあまりにも簡単だ。君にはウミガメのスープの要領でこの謎に取り組んで貰いたい」
「はいかいいえで答えられる質問をすれば良いんですね」
「質問の答え方は、はい、いいえ、意外にも幅を持たせることにする」
「上等です」
ようかんからはひめいがきこえます。しかし、まわりのひとは、それをふしんにおもいません。なぜでしょう。
問題文を確かに猫啼は言った。
「うーん。その悲鳴は、男性のものですか」
「男の場合も、女の場合もあります」
「洋館の場所はどこですか」
「北海道のとある町にあります」
「周りの人はその悲鳴が、誰のものか、分かっていますか」
「はい」
「周りの人はその洋館の関係者ですか」
「いいえ」
「周りの人は洋館の主を知っていますか」
「はい」
「悲鳴を不審に思わないのは理由がありますか」
「はい」
「その理由は悲鳴にありますか」
「はい」
「悲鳴は恐れからくるものですか」
「分かりません」
「悲鳴に鍵がありそうですね。その悲鳴は大人のものですか」
「大人の時もあれば、子供の時もあります」
「分かってきた気がします。悲鳴が子どもの時もまわりが不審に思わないということは、その悲鳴は人のものではありませんね」
「はい」
「分かった‼︎つまり、その悲鳴は動物、中でも羊ですか?」
「はい」
「ようかんとは、すなわち洋館ではなく羊館ということですね」
「見事、正解だ。ここでいう悲鳴は、羊の鳴き声。ようかんは羊の館という意味で、周りが不審に思わないのは当然ということだね」
「それで、この問題はどんな依頼に対して作ったんですか?」
「あぁ、それは北海道の町おこしの依頼だよ。その時は、音声とヒントのイラストを添えてね」
「イラストはどんなものを」
「地図にまず、駅を書く。問題文だけでは、どこの町に行けばいいか分からないだろう。駅名と路線の名前を添える。それに、羊飼いを表す羊の絵、近くのスープカレー屋をあらわすカレーの絵、ケーキ屋さんを示すケーキの絵、バウムクーヘンが有名な焼き菓子屋を示す、バウムクーヘンの絵を書いてもらったよ」
「ヒントがあったら簡単ですね」
「簡単でいいんだよ。町おこしだからね。答えの分かった人は確認をしに町へ、分からなかった人も絵のスポットを回っていけば嫌でも答えに辿り着くという訳だ。ついでに、ようかんのようはひつじという暗号を言うと、良いことがあるみたいな特典をつけた」
「どんな特典を」
「答えの店では羊羹を、他の店では暗号を言うと値引きになると言う特典だ」
「町おこしはうまくいったんですか?」
「そりゃもう。ミステリーツアーなんて言われて、記事に取り上げられてうまくいったらしいよ。羊館では羊羹を流し込むために羊ミルクがよく売れたらしい」
「謎を作る探偵もいるんですね」
「いい暇つぶしにもなっただろう」
そとでは夕日がそらを綺麗なオレンジ色に染め上げていた。
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