第3話 或る人
「真実を明らかにするのが探偵の仕事であるように、また、真実を秘密にしておくのも探偵の重要な義務だよ」
その日は、とても晴れていて、コーヒーを飲みながら事務所仕事を進めていた。僕の名前は猫啼 家康、超常現象専門の探偵をしている。カランコロンと扉を開ける音が鳴る。また、依頼だろうか。
「先生、事件です。人が屋上から消えたんです」
汗にまみれて、急いでここに向かってきたような制服姿で現れたのは、最近この事務所に通っている探偵見習いの女子高生橘 楓である。
「まあ、落ち着いて」
僕は冷やしてあった、ペットボトルのレモンティーをティーカップに入れ、差し出す。
「落ち着けません。さっそくいきましょう」
レモンティーをぐいと飲み干し、さっそく事務所を出ていく。僕は急いでトレンチコートを着て、彼女に着いて行く。
「ここが、現場です」
とあるマンションの管理人に声をかけた。
「ああ今朝の」
老人は屋上のカギを取り出して、僕たちをそのマンションの屋上へエレベータが運んだ。
屋上へ行くと、そこには庭園があった。
「素敵な屋上ですね」
僕がそういうと管理人の老人は
「こだわりましたから」
と照れ笑いをしながら嬉しそうに老人は笑った。
「真向いにあるあのマンションが私の家です」
超高層マンションを指さして彼女は言った。
「私の家はこの屋上のちょうど真正面にあります。今日はなんだか目が覚めてしまって、朝の4時にカーテンを開けたんです。ちょうどこの屋上のここから禿げ頭の外国人の男の人が私に何か言ったんです」
最も間近に超高層マンションが見える位置に移動して、彼女は言った。
「その人が助けを求めてるように見えたので向かったんですが屋上には一人も人がいませんでした。私と管理人さんが屋上に向かうまで十分に時間もありましたし、実際はただ帰っただけかもしれませんが、私はその人がなんて言ってたか気になるんです」
「お嬢ちゃん、そういえばこのマンションには外国人は住んでないんだ。今朝、確認したんだけど」
「でも、私見ましたよ。ここ一般解放はされてるんでしたっけ」
「今朝君が来たときは、一般解放前の時間だった。このマンションに住んでる誰かの知り合いの可能性ならあるかもね」
「探偵さん。あの人はなんていってたんでしょうか?」
「僕にまかせてくれ、解き明かしてみせるよ」
僕はそういった。
世界がまだ寝ぼけている午前四時、僕はその外国人を召還した男を見つけた。
「この屋上に外国人が知りませんか?」
僕がそう聞くと細身の男は踵を返す。
「待ってください。私は探偵をしているものです」
「そうですか。話すことなら何一つありませんよ」
「知っているなら話してくれたっていいんじゃありませんか?」
「タバコを吸いに来たんですよ。ライターを忘れてしまってね」
「なら、貸しますよ」
「家で吸いますから」
「僕は探偵をしています。でも、推理がほとんどできないんですよ。探偵小説を読んでても犯人が分かったことがないんです。僕には何もわからないんですよ。だから、あなたが何者であるとか、外国人が誰なのか、皆目見当がつかないんです。そして最も見当がつかないのは、なぜ依頼主が、その外国人のことが気になったのかです。是非、真相を話してくれませんか。依頼主もちょうど来たとこですし」
急いで駆け付けた橘 楓が屋上に参上した。細身の男は電子タバコふかし、口を開く
「私は一度大きな裏切りにあったことがあるんです。だから、あなた達には本当は話したくないんです。でも、しつこそうなので」
「もしあなたが秘密を秘密のままにしておきたいのなら、私たちはあなたにこの件を内密にしておく契約を結ばせてください。保証はあなたの言い値でうけますよ」
僕は契約書を取り出す。
「あなたが人の命に係わる犯罪に手をだしていなければこの契約書にサインをしてください。その後に、僕たちがサインをします。」
「話したくない理由は犯罪だからではないです。でも、是非ともこの契約書は使わせていただきます。保証金は一千万円で」
「ああ、分かったよ。楓ちゃん、真実を明らかにするのが探偵の仕事であるように、また、真実を秘密にしておくのも探偵の重要な義務だよ」
「分かりました」
契約書にサインをした後に細身の男は喋りだした。
「私はホログラムの研究者です。これは社長の姿です」
そこには彼女の言っていた外国人の姿が映る。禿げ頭が、くっきりと映し出されていてる。外国人の男はまるでそこにいるようで驚いてしまった。
「現在秘密裏に進めている研究をしていて、こうやって強い光が当たってもホログラムが影響を受けないように毎朝調整しているんです」
「私は昨日たまたま、この人をみたんですね。この人は昨日なんていってたんでしょうか?」
「I'm here.」
「そうですか。ところで、目のクマが凄いですね、研究者さん。あなたは寝る間も惜しんで研究をしているのではないですか。そして、あなたは自分を見失ってしまいそうになって、それでこの社長にI'm here.と言わせていたんじゃないんですか」
「私を救ってくれたのは社長だけでした。だから、どれだけボロボロになってもいいんです。社長のために死ねるなら、本望ですよ」
「社長さんはそうは思っていませんよ。だから、私に助けを求めたんだと思います。あなたはきっとホログラムの技術を完成させます。でも、それと同じぐらいあなたに幸せになってっほしいんですよ」
「勘違いしていたのかもしれません」
細身の男はタバコを吸う手を止めた。
「じゃあ、私は眠らなければならないので」
そう言って男は自分の部屋に戻る。少しだけ、誇らしそうに。
「君は僕なんかより立派な探偵かもね」
「いえいえ、そんなことはありませんよ」
「或る男は無かったが、そこには在る男がいたね」
「そうですね」
「君が何故、禿げ頭の外国人の男にこだわっていたか、ようやくわかったよ」
「良かったです」
「睡眠は大事だね」
「探偵さんはいつも寝てますもんね」
「そんなことはない」
「いや。そんなことは在りますよ、有すぎるくらいにね」
こうして、ただ外国人が屋上にいただけの事件は無事に解決した。
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