第3話
どうやら雪は俺と同じマンションに住んでいるようだ。登校するときに俺の姿が見えたから知っているみたいだ。
二人でエレベーターに乗り、自分の部屋を教え合って別れる。俺が5階で、雪が3階らしい。こんな偶然あるんだな……。
現実は不思議だ。
風呂に入り、ご飯を食べる。
今日のご飯はハンバーグだ。この体は一つで十分なのでこれ以上は作らない。
一口食べる。………うまい。
久しぶりに、料理の美味しさがわかる。俺は今、自分でも驚くほど、喜んでいる。前に進むと決めたからなのか、物事に興味が出たからか、すごく心が軽い。
食べ終わり、食器を洗って乾かし片付ける。
スマホをつけ、動画サイトで今やっているVtuberの配信を探す。
あ、この子知らないな。見よう。
それは、登録者数100万人超えの人気Vtuberだった。俺が知らない事務所に所属していて、一つの事務所のVtuberしか見ていない俺でも気になる子だった。
ボーイッシュな髪型をした長身美女なのだが、顔に似合わず、怯えた表情をしている。それが雪にそっくりで、見ようと思った訳だ。
『みんな、お待たせ。メグマグ二期生、
:きたーー!
:影ちゃーーーん!
:影様ーーーー!!!
:コミュ障ーーー!!!!
:待ってたぜ
待機中の画面が変わり、雪成影が姿を現した。雪のような髪に、蒼い目が生えるボーイッシュな女の子。それが雪成影。だが……俺はこの子を知っている。
……名前、もう少し考えたらいいと思う。
『みんなに話したいことがあったんだ!』
突然興奮した様子で声を荒げる影。満面の笑みを浮かべながら彼女は話し始めた。
『実は今日、僕に友達ができたんだ!』
:なん、だと……
:影に友達……?
:嘘はよくないよ?
:うん、影に友達なんてできるはずが……
『ほんとだからね! 友達の方から友達になろうって、言ってくれたんだよ!!』
:と、友達から!?
:とうとう影ちゃんも貰われたか
:俺が貰おうと思ったのに……
:その話詳しく!
:詳細を!!
影の配信は視聴者との距離が近くて、面白い。画面の中の友達みたいな感じで、まぁ俺からしたら実際そうだが、実際に話しているような錯覚に陥れる。
『今日、昨日言ってた通り高校の授業が始まってね。それで気になる子がいて』
:授業始まったのか
:気になる子って……あぁ昨日言ってた
:たしかめちゃくちゃ可愛い子がいたとか
:絶世の美少女って話だったな
:まさか……!?
:もしやその子と!?
『うん。友達になったんだ。実は僕から一緒に帰ろうって誘って、いいよって言ってくれたんだ』
:まさかの影君からだったのか!?
:影君が自分で話しかけた、だと!?
:成長したなぁ……
『それで一緒に帰ってる間に友達になったんだ』
:へぇ……
:よく頑張った、今夜は宴だ!
:どんな子だったの?
:コメ欄みんな知ってるみたいだけど俺知らない
:詳細を!
『いいよ。教えてあげる。友達は女の子で、すっごくかわいいんだ。小柄で声も可愛くて。何もかもが可愛いと思えるほど可愛い。でも話してみたら、性格はクールなんだ。静かで冷静で、それでいて他人を気遣える、まさに女神だよ』
:お、おう
:怒涛の親友語り、これはきてますね
:キマシター建てるか
:こいつ……ww
:オタク出てますよー
『だって仕方ないでしょ。可愛いんだから。あ、あと友達になってって言われた時の笑顔はすごかった。クールな子の満面の笑みは耐えられなかった』
………なんか、顔が熱いな。
こんなに褒められることなんて前世も含めて一回もなかったから反応に困る。
可愛いと言われるのに抵抗はないのかと思われるだろうが俺にはない。俺は別に生きるのに男も女も関係ないものだと思っているし、死ねば同じだとも思っている。だから、抵抗はないのだが、こう真っ直ぐ言われると顔が熱くなる。
……明日絶対やり返す。
:クーデレはいいぞ
:限界オタクになってるじゃないか!
:影君がここまでオタクを見せるとは珍しい
:友達ちゃん、君もVtuberにならないか?
:Vになるにはトーク力とか色々いるけどそこんとこどうなんだろ
『Vtuberかー。多分あの子ならできると思うよ。入学式に主席の挨拶してたから。その挨拶もすごくてね。即興なのに聞いてて飽きない挨拶してたから』
:声よし成績よしで無茶振りにも答えれる。よし、Vtuberになろう
:天才で草
:配信一緒にしてもろて
:ここまでVtuber適正高い子なんていないよ
『あはは……。友達誘うのもいいかもしれないけど、僕のさっきの発言を聞かれるかと思うと、怖いからやめておくよ』
:たしかにw
:これで嫌われたら嫌だしな
:友達ちゃん、影を嫌わないでくれ!
:どうか、うちの子を拾ってあげてください!
:この子ずっと一人だったんです!
『なんで僕の親が湧いてるの!?』
俺は最後まで、雪成影の配信を見た。
配信が終了したので動画サイトを落とす。
はぁ……顔が熱い。あいつ、配信終了までぶっ続けで俺のことを話してた。しかも何か言うたびにかわいいを連発してくるんだ。
もう何回可愛いと言われたのかわからない。よし決めた。絶対明日仕返しする。
覚悟しておけ、雪。
俺は明日を楽しみにしながら歯磨きをして寝た。
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