第2話

2日目、目が覚める。朝食を作り、食べる。相変わらず、美味しさがわからない。味はわかるが、感想が湧かない。

食器を洗い、魔術で乾かし片付ける。制服に着替え、家を出る。鍵を閉め、エレベーターに乗って下に降りる。同じクラスの男子と鉢合わせたが、チラチラと見られるだけで会話はない。

そのまま下の階に行き、アパートを出て学校に向かう。

学校に向かう通学路、様々な人がこちらを見ている。それもそうか、今の俺は絶世の美少女だ。注目されないほうがおかしい。

はぁ、面倒だが気配を消すか。

気配を消すとあれだけこちらを見ていた視線が一つもなくなった。

それから特に何事もなく学校に着く。自分のクラスに入り、指定された席に着く。朝のホームルームまで読書をしながら待つ。

ガヤガヤと他のクラスメイトが集まってくる。どうやらもうグループができているようだ。たしか昨日、カラオケ行こうとか誰かが言っていたな。

興味ないから気配消してそのまま帰ったが。別に、羨ましくなんてないし、心底どうでもいいんだが。

あ、そうだ。そろそろ俺の好きなゲームのアップデートじゃないか。ガチャ石貯めて、新キャラ狙わないとな。こうしてゲームの事を考えていると、気持ちが楽になる。

そうだ、どうせならアニメも見よう。放送されているのは前世と同じ内容だけど、前世はあまり見ていなかったから良作がたくさんあるだろう。

Vtuberとかもいいな。今世では俺が根絶したからあの感染症も広がらなかったし、気に入らなかった事を全て改変したから新しい子達も出ているかもしれない。

趣味のことを考えていると、ようやく先生が入って来て、ホームルームが始まった。今日から授業が始まるのでそのお知らせだったり、部活のことについての話もあった。

部活か……前世では入っていたが、今世ではいいかな。

部活なんて、めんどくさいだけで特にする意味もない。前世は入った方がいいと親に言われたから入ったが、今世では俺の好きな事をするつもりなのでいいだろ。

そうしていたら、授業が始まった。この体のおかげで余裕で付いて行ける。一応ノートはとっておくが、あまり意味はないな。そもそも、俺はこの世の事象全てを理解しているため、知っている事をそのまま説かれているに過ぎない。

こんなの、本当に時間の無駄だ。他の人も退屈そうに……してないな。

みんな真面目に授業受けてるな。エリート校も案外普通なんだな。

ん?

なんか、視線を感じる。視線の感じた方を向いてみると、そこにはなにやら俺を熱心に見つめる女の子がいた。俺に目が合うと逸らしてしまった。何かついてるのか?

いや、顔も洗ったし鏡でちゃんと確認したし、そもそも蓮華には汚れが付かない設定にしてたからそれはないか。

じゃあなぜ?

………考えても仕方ない。神でも理解できないことはあるし、スルーしておこう。

つまらない授業が終わり、もう昼休憩だ。食堂もあるが、俺は持ってきているので行かない。

とりあえず持って来たチョコを開ける。そう、これが俺の昼ごはんだ。この体は別に食べなくても生きれるが、流石に食べないのは不自然に思わられるし、かと言って進んで食べたいとも思わない。

だからチョコにしたというわけだ。

俺は別に食にこだわりがあるわけではない。いつからか腹が膨れたらなんでもいいと思うようになってしまった。

多分、普通の人から見ればそれは異常で、哀れな物なのかもしれない。でも、もう何もかも、興味がなくなってしまったんだ。

自分の人生も、夢も、周りも。だから、食にだって興味がない。食べられたらなんでもいい。こんなだから、前世で人生を諦めていたんだ。

今世では前向きに生きようと決めた。でも、やはり中身を変えるのは難しい。

はぁ、どうしてチョコからこんな話題になったのだろうか……。

最近ずっと憂鬱な気分が続くな。何か面白いことでも起きないだろうか。

そんなこと、起きる訳がないと自覚しながら、食べ終わったチョコのゴミを片付ける。片付けると言っても、握りつぶして魔力に変換するだけなんだがな。この魔力変換のおかげで、ゴミを出さなくていいから楽なんだ。ここは屋上なので、誰かに見られなくても済む。

前世では学校の屋上には入らなかったが、俺が改変して入れるようにした。

みんな食堂や教室で昼を過ごすから、屋上に来る人は少ない。だから気兼ねなく魔術を使うことができる。

まぁ、誰かに見られたとしても記憶を消せば済む話だがな。

しばらくぼーっと過ごしていると、屋上の扉が開かれた。屋上に来たのは、授業中に俺を見つめていた女の子だった。

彼女は俺を見つけると、びっくりして扉の影に隠れてしまった。

なぜ?


「ど、どどど、どうも!」


挨拶されたので軽くお辞儀をして返す。なんか、すごく背が高いイケメン女子なのに小説でよく見るコミュ障なんだが……。

しかもボーイッシュな声できょどってるし……何人か性癖捩れるぞこれ。

イケメン女子はキョロキョロと辺りを見回して、俺の反対側のベンチに座った。少し距離があるが、お互いの顔が見えないほどではない。

あまり見るのもアレなので、スマホを取り出す。この学校は授業中以外ではスマホを使ってもいいのでみんな使っている。俺はこの気まずさを紛らわせるためにとりあえず音ゲーをする。

今世では音楽関連に触れることが多くなった。趣味でバイオリンを弾き、電子ピアノで曲を作ったりもした。全知全能の神なので、これくらいは余裕なのだ。

何曲かプレイして、いい時間になったので終わる。全部オールパーフェクトでフルコンできたのでいいだろう。

そろそろ授業が始まりそうだ。降りないと。さっきの女の子は……まだいるな。何故かこっちを見ている。


「先、降りる」

「は、ははは、はい!!」


……なんか、微笑ましいな。

扉を開け階段を降り、教室に帰った。 しばらくすると女の子も帰ってきて、授業が再開した。



授業が終わり家に帰る時間。俺は教室から出ようと立ち上がった。すると、先ほどの女の子が俺の所まで歩いてきた。


「あ、あの、一緒に帰りません…か?」

「………いいよ」


なぜか、一緒に帰ることになった。

だが、一つ問題がある。それは、会話がない事だ。本当にない。一緒に帰っているというよりも帰り道に偶然会って、仕方なく一緒に帰っているという状況に近い。

どうしたら、この最悪な空気を終わらせるのだろう。生まれてから友達もできた事ないし、わからない。俺が困っていると、女の子が話しかけて来てくれた。


「あ、あの、突然すみません。私、影野雪……です。気持ち、悪かった、ですよね。会話も対してした事ない他人が一緒に帰ろうなんて……」

「……いや別に。不思議には思ったけど、気持ち悪いとは思ってない」


そう答えると、雪ははにかみながら嬉しそうに呟いた。


「そ、そうなんですね……よかった。木下さんに嫌われたら、どうしようかと」

「名前、知ってたんだ」

「はい。木下さんは、クラスでも人気ですから……。わ、私も、林さんと仲良くなれたらって、思いまして……」


………誰かからそんなこと言われたのは、初めてだな。

この子は、眩しすぎる。少ない会話でわかるほど、真っ直ぐと自分を持っていて、目標に向けて努力のできる人間だ。

掴みたい物は自分で掴み取れる、力のある人間。

思えば俺は、いつも待っていた。自分が救われるのを、ただ何もせず、ぼーっと。そんなんじゃ、救われないに決まっているのに。

……そうか、俺は救われたかったのか。あの憂鬱な、虚無で何もない日々から。

でも、救われるのを待っていたらまたあの人生と同じだ。自分から、救われに行かなければならない。目の前の女の子を見る。

この子なら、俺を救ってくれるのだろうか?

一縷いちるの望みを持って、一歩踏み出す。


「……じゃあ、友達になってくれる?」

「え?」

「私は、友達、できたことない。だから、君が、最初の友達になって欲しい。どう?」


言った。言ってしまった。これで断られたら目も当てられない。でも、俺は前に進まないといけないんだ。人の好意を待っていたら、できることもできなくなってしまう。


「わ、私なんかが木下さんの、初めての友達で、いいの?」

「君がいい」

「そ、そそそそ、そうなんだ。私がいいんだ、そっかー!! じゃあ、これから、よろしくね!!」

「ありがとう」


今俺は、久しぶりに笑えている気がする。

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