中華料理はいけるかい(2 食事)
お兄ちゃんもさあ、食えるうちに食っといた方がいいぞ。
あっという間に食えなくなるから……俺なんかが言っても笑うだろうし、俺だって兄ちゃんぐらいのときは笑ったよ。若さの特権だからな、食いたいもんを食いたい時に食いたいだけ食えるの。
若いってだけで何でもできるような気分になれるし、実際大体なんとかなるからな。思いつきで通学往路の三十キロを自転車でぶっ走っても案外いけるし、オールで飲んで歌って騒いだって翌日風呂一発入れば元気に出勤できる。
それに怖いもんなんかないからね、行くなって言われた場所に突っ込んでげらげら笑いながら逃げ帰ってこれるし、やるなって言われたことは軒並み試して飲み会のネタにできるし、見るなって言われたらどうにかして見てやろうって頑張っちゃうもんだからさ。
別にさ、それでどうなったって惜しいもんでもないっていうか、それでもどうにかなっちゃうって思い込めるからね。俺も若い頃は色々やらかしたしそれなりに生まれたことを後悔するような目にもあったし今こんなザマだけど、でもこうやってまだこの店でうまい飯が食えてるからね。じゃあまあ、とんとんってとこでいい。物が見えて聞けて口が動くんだからな。
このままいけりゃあ上等な終わり方だと思うんだよ──あのね、俺のおすすめあんのよ。この店の小籠包ね、マジで美味いから。あれ食う前と後で人生観が変わるくらいの代物だから。店汚ねえしボロいし店主は愛想悪いけど、あの小籠包食えるんなら諸々我慢してもいいかなみたいなレベルだから。
本当よ、おっちゃんの言うこと一回だけ、一回だけ信じて食べてみてよ小籠包。
***
外食でもしようと駅前を彷徨い、初めて入った町中華でいつの間にかテーブルの向かいに乗っていた首はひたすら俺の若さと自分の胃の弱さにここの店の小籠包の美味さについて語ってきたので、確かに身近に喋る生首は雨の日の合羽着用者ぐらいの割合でいるのかもしれないと家に置いてきた兄を名乗る生首の物言いを思い出しながら、点けっぱなしのテレビから流れるやたらと騒々しいバラエティの音声を背後に荒れ声でよく分からない話を続ける生首に生返事を返しつつ、辣子鶏定食をもそもそと食べている。
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