第16話 エゴウェポン【リーレ】起動

 数分前だ。


 ティナもとへ駆けつけるべく、音がするほうへ向かうと大型タクトがティナを襲っているところを見つけた。


 すぐにその場に駆け付けティナを抱えこみ、大型タクトからの攻撃を避けて、すぐにその場から離れ現在に至る。


 ギリギリだった。もしあと少し助けるが遅れていたら、今頃…………。


 すると大型タクトはこっちをとらえ、ドロドロした粘液を射出した。



「アクト、後ろ!!」


「んっ!?」



 とっさにアブソーブを盾代わりにし、液状のものを体に触れさせないように防いだ。



「これは」



 アブソーブの刀身に液状ものが触れるとそこがドロドロと溶け出し、すぐに俺は手放した。


 ミルウェポンが溶けた!?そんなことがありえるのか。


 俺はすぐにその場で着地した。


 ミルウェポンが溶けるなんて聞いたことがないが…………いや、今はそんなことはどうでもいい。


 このまま逃げるか、時間を稼ぐかだが、ほっておけば被害が拡大するのは確実だし、もし逃がしてしまったら、それこそ一番最悪だ。


 なら、ここは俺が対処するしかない。



「ティナ、お前は物陰に隠れてろ。俺があいつを倒す」


「ミルウェポンがないのに、どうやって?」


「心配はいらない、俺は教官だからな…………奥の手の一つや二つぐらいあるってもんだ」



 俺は右ポケットから棒状をものを取り出した。



「これって、ミルウェポン?でも、少しだけ違うよな」


「秘密だ」



 ズルズルっと姿を現す大型タクト。


 やっぱり追いかけてきたか。結構、距離を離したつもりだったんだけどな。


 今の俺の体でどこまでエゴウェポンに耐えられるのか。正直、わからない。だって、ミルウェポンだけでもギリギリ使えるぐらいだ。


 鎮まる静けさの中からエゴウェポン【リーレ】を強く右手で握りしめ、一呼吸おいたあと、唱えた。



「…………【リーレ】起動」



 すると、エゴウェポン【リーレ】は強い輝きを放ち、剣型へと変形し、そして全身が激痛に襲われる。



「うぅ…………ああああああああああああああああ!!」


「アクト!?」



 全身を焦がすような痛み、魔力回路同士がつなごうとする際に生じる痛みだ。


 まさか、ここまで痛いなんてな。


 無理やり自身の魔力回路と【リーレ】の魔力回路をつなごうと常に処理し続け、ついに接合が完了する。



「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ」



 常に全身から痛みが走る。普通の人ならとっくに気絶するぐらいの痛みだ。


 真っ黒な瞳は紅に染まり、右こぶしから頬まで魔力回路がむき出しになっており、ゆっくりと顔を上げる。



「…………ティナ、この戦い方はマネするなよ」



 エゴウェポン【リーレ】を構えると、大型タクトは警戒したのか、近づこうとせず液状のものを射出する。



「アクト、危ない!?」



 俺はよけることなくただリーレを盾に一歩ずつ前に進む。


 ミルウェポンとは違い、液状のものが刀身に触れても溶けることなくむしろ蒸発した。


 さすがに、エゴウェポンまでは溶かせないか。


 一歩近づいていく中で大型タクトがさらに勢いよく射出するも一振りで薙ぎ払った。



「大したことないな」



 射出される液状のものさえ対処できれば、そこまで厄介ではない。


 一定の距離まで近づくと、魔力回路がフル回転し凄まじい魔力が周辺に嵐を発生させ、それに触れた大型タクトの装甲は一瞬のうちに破壊された。



「終わりだ」



 瞬く間に振り上げた一撃は一筋の光の線を描き、大型タクトを真っ二つに切り裂いた。防御とかよけると戦術とか、すべてを無視した一撃。


 ティナは思う。これは誰にもまねできない戦い方だと。



「ふぅ…………」



 想像以上の燃費の悪さだな。


 全身をめぐる激痛に常に漏れ続ける魔力、一振りするだけ筋肉がメキメキっと悲鳴を上げる。


 これはもう、二度とエゴウェポンは使えないな。


 終わったと確信した俺はティナのほうへと体を向けた。



「まだ、終わってない!」



 ティナの叫ぶ声、とっさに後ろへ振り返ると、液状ものが俺の首をつかみ上げる。



「うぅ」



 じゅう~~と、溶ける音が鳴り響きながら強く首を締め上げてくる。


 心臓の位置を狙って切り裂いたはずなのに、こいつもしかして、タクトじゃないのか!?


 すでにタクトの原型がなく液状のスライムのような形だけがその場に残っていた。



「うぅ…………はぁ!」



 つかんでくる液状のスライムをリーレで切り裂き、地面に着地するも、息切れをしながら膝が地面についた。



「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ」



 エゴウェポン【リーレ】の自己防衛機能のおかげで溶けずに済んだけど、それ以上に体全身に走る痛みで視界がかすむ。



「くぅ…………」



 足が上がらない、立ち上がれない。


 想像以上にエゴウェポンを使用する負荷が大きく、立ち上がれなくなったアクト。


 せめて、ティナだけは!


 倒せない以上、思考がティナをここから逃がすことに切り替わると、後ろから横へと誰かが通り過ぎた。



「絶対に、アクトは死なせない!ミルウェポン【レーフィル】起動!」



 射出される液状のスライムがレーフィルに直撃する。



「な、何してる!ティナ!」


「私がアクトを守る…………ぅ、ぐはぁ!?」



 吐血するティナ、レーフィルからはじゅ~と、溶ける音が鳴り響くも気合で振るって切り裂いた。



「ごめん、レーフィル」



 液状のスライムに触れたレーフィルの刀身は溶け始めるも、それでも俺を守るためにひたすらティナはレーフィルをふるった。


 今のティナは戦える状態でないことは見てわかる。そんな状態で戦えば、命の危険だってある。



「ティナ!今すぐ、お前だけでも逃げろ!」


「い、嫌だ!絶対に見捨てない!絶対に!!」



 そのティナの後ろ姿がまたティアと重なった。


 また、また目の前で失うのか。


 蘇るティアの死。忘れたくても忘れられない焼き付いた記憶。



「…………くぅ!」



 少し体を動かすだけで叫びたくなるほどの激痛が走る。だがそんなことも気にせずに体を起こした。


 もう二度と、失いたくない。


 もうあんな思いはしたくない!!



『勇者の力は人々を守るためにある。でもね、その力を自分の大切なもののためにも使ってほしい、アクトはちょっと頭が固いから、覚えておいて…………』



 ふと、ティアが言っていたことを思い出した。


 もう俺が大切にしていた人たちはいない。なら、今俺にとって大切なものは人は誰なのか。そんなのわかりきっている。


 俺はとっさにティナを後ろへ引き下ろし、エゴウェポン【リーレ】をふるい、液状のスライムを薙ぎ払った。



「いて…………アクト!?」


「はぁ…………はぁ…………」



 リーレで薙ぎ払うと、液状のスライムは再び一つになろうとひかれあい、ぐちゃぐちゃと元に戻っていく。


 やっぱり、切るだけじゃ倒せない。なら、広範囲で再生できないほどの威力をこの液状のスライムにぶつけるしかない。



「…………ティナ、しっかりと後ろに身を潜めていろ」


「な、なにをする気なの?」


「ふぅ…………ちょっとな」



 もう自分の身を心配している場合じゃない。


 エゴウェポン【リーレ】を地面に突き刺し、大きく息を吸って唱える。



「リーレ、広範囲魔法展開」



 大きな輪が液状のスライムの上空に描かれ、高密度の魔力がエゴウェポンに集約する。その魔力はエゴウェポンから自身の体へと流れ込み、目から血を流した。


 痛い、痛い、痛い…………でも、やるんだ。


 血眼にしながら、ゆっくりと唱えた。



「光魔法…………スーリヤ・アルマ!」



 何か切れてはいけないものがプツっと、切れた気がした。


 その瞬間、液状のスライムは光の渦の中に飲み込まれ、消し炭となった。



「す、すごい」



 魔法はいうほど便利ではない。魔力量が多ければ多いほど魔法の威力が上がり幅が広がるが、それでもティナが目の前で見た魔法が規格外であることがわかる。



「あ、アクト?」



 突っ立ったままのアクトに近づき触れようとすると、そのままバタリ!と血を流しながら倒れた。



「あ、アクト!?」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る