第15話 ティナ・スターライトの激闘

「はぁ…はぁ…はぁ」


 このタクト、私が今まで戦ってきた中で一番強い。


 そう確信していた。



「ふぅ…………出し惜しみはしていられない。ここからは本気でいく」



 周辺に人の気配はない。さっき、アクトを見かけたけど、多分、周りの人たちを非難させていたんだと思う。


 …………おかげで、周りを気にせず戦える。



「レーフィル、私に力を貸して!」



 ミルウェポン【レーフィル】には外付けの魔力回路としての機能と固有性質である魔力増強という機能がある。基本的にミルウェポンの機能は戦闘に特化するのが当たり前なのだが、なぜか魔力増強というサポート機能がついている。


 それはなぜか。


 その答えは至極単純でティナ・スターライトがミルウェポンを使う上で戦闘特化の機能は必要ないと判断されたからだ。



「完全武装開放!レーフィル・ラーズ!!」



 魔力増強機能をフル活用し、レーフィルにできる限りの魔力を注ぎ込んだ。


 すると、剣型のレーフィルは大剣型のレーフィルに変形し、その刀身に膨大な魔力が奔流する。


 これが完全武装、レーフィル・ラーズ。


 レーフィルを大幅に強化した、ミルウェポンの進化系、完全武装大剣モードだ。



「一撃で仕留める」



 完全武装状態のレーフィルはそう長く持たない。今の私の実力だと3分がいいところだ。



「これで終わり!」



 小細工なんていらない。ただ、私は目の前にいる敵を切ればいい。


 さっきまで切ることすらできなかった装甲をいともたやすく切り裂き、タクトに攻撃させる暇を与えずに絶命させた。



「はぁ…やっぱり、燃費が悪い」



 ほとんどの魔力を注いで初めて完全武装状態となるレーフィルは戦闘が終わったあと、一気に疲れが襲ってくる。


 そのため、これを使った後はしばらく動くことすらままならなくなるのだ。



「でも、これで終わーーーーーー」



 その瞬間、ドンっ!と、大きな音が二回聞こえてきた。



「ま、まさか!?」



 後ろを振り返ると、タクトが二体、姿を現した。



「まだ、潜んでいたなんて」



 この様子だと、もしかしてまだ潜んでいるかも。でも、さっきまで全く気配を感じなかったし。


 おかしい、明らかにおかしい、そう思った。



「って、何をしているの?」



 タクトが2体現れたと思いきや、私に目もくれず絶命したタクトを捕食し始めた。


 タクトは基本、食事を必要とせず、ただ人類に襲い掛かる敵でしかない。なのに、こうして目の前で捕食している。


 それがどれだけイレギュラーのことなのか、ティナはつばを飲み込んだ。



「ここで倒さないとまた被害者が増える。私が倒さないと!!」



 捕食に夢中になっている隙を狙って切り込むが、それに気づかないはずのないタクトはすぐにこっちを向いて鋭利な尻尾をふるった。


 鋭利な尻尾で私の攻撃をはじき、もう片方のタクトが背後から襲い掛かり、その動きに無駄がなかった。


 この二体、まさか連携して!?


 ギリギリのところで背後からの攻撃をレーフィルで防ぐも、前から尻尾の攻撃が直撃し、上空へ吹き飛ばされる。



「ぐはぁ!?」



 上へと打ち上げられたティナ、下を見ればタクトが攻撃する態勢をとっていた。



「うぅ…………ちょっと、やばいかも」



 ズキズキとしたしびれる痛み。


 さっきの一撃であばらをやられたのだ。



「はぁ…………」



 タクトが連携して攻撃するなんて聞いたことがない。


 ここで、2体のタクトを一人で倒すのは不可能だ。でも、もしここで引いたら、また被害が拡大する。


 ここは命を懸けてでも時間を稼ぐべきだ。せめて、援軍が来るまでは。



「はぁあああああああ!!」



 レーフィルを大きく振り上げ、下にかかる力を利用して、2体のタクトに攻撃を仕掛けるも軽々とかわされた。


 着地の衝撃は魔力で緩和できるし、折れたあばらも魔力で補強すれば戦闘に支障は出ない。


 問題はあとこの完全武装状態が2分ぐらいしか持たないということ。



「ふぅ…………やるしかない」



 戦闘において、アクトさんは言ってた。


 人数不利な状況になったとき、必ず1対1の構図を作り出すんだと。



「加速魔法、アクセル」



 魔力をひねり出しながら強く一歩を踏み出し魔法で加速する。


 風を切るような速さタクトの目の前まで迫り、レーフィルを力強くふるった。


 バシッとタクトに私の一撃が直撃しひるんだのを確認すると、すぐにもう片方のタクトへと視界を移すと、予想通り素早いスピードで迫ってきていた。



「はぁあああああああ!」



 迫ってきたタクトの一撃を防いだ後、足蹴りでタクトを後方に吹き飛ばしながら素早く懐に入り込んだ。


 いける!っと勢いよく弧を描くように振るい、タクトを切り裂く。


 だが。


 浅い!?踏み込みが甘かった。


 ひるませることができず、後方へ一歩下がろとすると、後ろからひるんでいたタクトが立ち上がり、しっぽを振るう。


 アクトは言っていた。1対1の構図を作り出すことができるのは相手より圧倒的な実力を持つものだけだと。故に実力が拮抗している、もしくは実力に差がある場合、どう実践で使えばいいのか。


 それは観察を怠らないことだ。観察を常にし続ければ、どんな状況にも対処できる。完璧にやる必要はない、最後の最後に勝てばそれでいいのだから。


 やっぱり、アクトはすごい。この状況の中で私はまだまだ成長の余地を感じられる。


 完全に挟まれた状況の中で、観察を怠らなかったティナは体を地面すれすれまで伏せて、同時に仕掛けてきた攻撃をよけた。



「ふぅ…………」



 一呼吸おいたあと、一振りでタクト二体の胴体を体がをひねりながら振るい、容易く切り裂いた。


 この間に3分が経過し、レーフィルの完全武装大剣モードが解除された。



「はぁ!?…………はぁ、か、勝った」



 力が抜けたような声で漏れ、足元がすくんだ。



「私…………まだ強くなれる」



 確実な成長をじかで感じられ、両手の震えが止まらない。


 そう思っていた時、切り裂いたタクトがピクっと動く。



「んっ!?」



 振り返ると、タクトの切り口からドロドロした液状のものが飛び出し、二体のタクトがひかれあうように液状のものが交わって、1体の大型タクトへと姿を変えた。



「はぁ…………う、うそ」



 大型タクトはゆっくりとこちらに振り向き、鋭い牙をむき出しにしながら襲い掛かってくる。


 魔力切れを起こしているティナがよけられるはずがなく、咄嗟に「きゃ!」と、声を漏らしながら目を閉じた。


 あれ、痛くない?



「大丈夫か?」



 目を開けると、私を抱えているアクトが視界に映る。



「あ、アクト!?」


「ふぅ、間に合った」

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