第14話 街中にタクトが侵入した

 街中でタクトが現れた。



「きゃあーーーーー!」

「逃げろ!逃げろ!!」

「早くこっちに来なさい!」

「お母さん!お父さん!!」



 人々の悲鳴が響き渡り、タクトは次々と住民たちに襲い掛かる中、一人の少女が駆け上がる。



「ミルウェポン【レーフィル】起動!!」



 レーフィルを起動させ、剣型へと変形した。



「でりゃああああああ!!」



 少女に迫るタクトを切ろうとするも、素早くよけられた。



「だ、だれ?」


「私は戦士兵だよ、ここは私に任せて、はやく逃げて」


「う、うん!」



 タクトを抑えながら、住民たちの逃げる時間を稼ぐティナ。タクトの鋭い一撃をはじきながら、隙をついて渾身の一撃を振るうが。



「ん!?」



 このタクト、装甲がかなり硬い!


 タクトは基本的に小型から中型、大型と三種類に分けられ大きくなるにつれて強いのだが、このタクトは見た目からして小型だ。


 小型は訓練兵でも倒せるレベルはずなのに、その装甲の硬さは大型レベルだった。



「ん…………これは骨が折れそう」



 滴る汗をぬぐいながら、ミルウェポンを深く構え、攻め込むのであった。



□■□



 ティナがタクトと戦っている間、アクトは住民の避難を促していた。



「こっちです!こっちです!」



 この様子だと、被害はまだ小さそうだな。


 すぐにティナが気づいたおかげでかなり早く対処することができた。


 だが、問題はティナがタクトを倒せるかどうか。あのタクト、見た目に少し違和感があったし、もしかしたら最近うわさされている新型の可能性がある。


 もし、そうだとしたら、ティナが勝つのは難しいかもしれない。



「これであらかた…………」


「うぅ…………」


「ん?」



 小さい女の子が俺のズボンを引っ張りながら下を向いて涙を流していた。


 俺はひざを折り、視線を合わせて。



「どうしたの?」


「ノラちゃんが…………ノラちゃんが…………いないの」


「さっきまで一緒だったのか?」


「うんうん、逃げてる途中ではぐれちゃって」


「わかった。それじゃあ、避難所で待ってて、すぐに連れてくるから。そうだ、そのノラちゃんの特徴を教えてくれるかな?」


「茶色の髪をしてて…………え、と、え~~と」


「ありがとう、それで十分だ」



 周りに人らしき気配はない。ならノラちゃんはこの周辺にはいないということだ。もしかしたら、タクトとティナが戦っているほうにいるかもしれない。


 俺はすぐにノラちゃんの捜索を始めた。


 大きな剣戟音が鳴り響く中、その近くで微弱な魔力を感じ取った。


 まだ小さいけど魔力を感じる、まさか!?



「うぅ…………怖いよ」


「いた!…………大丈夫?」


「だ、だれ?」



 街の中の隅でうずくまる女の子。髪色が茶色のことからおそらくベアちゃんだろう。



「助けに来たんだ」



 この子、内側に魔力回路がある。まだ魔力が微弱だから感じ取りにくいけど、たしかにある。



「みんなのいるところへ、行こうか、ノラちゃん」


「どうして、私の名前」


「君を心配している女の子に助けを求められてね。さぁ、帰ろう」



 おびえている女の子は手を震わせながら差し伸べた手を取った。



「よし、それじゃあ、すぐにーーーーーー」



 その瞬間、後ろから大きな音が聞こえた。


 とっさに振り返ると、小型タクトだった。



「なぁ!?」



 街中に侵入してきたのは1体だけじゃないのか!?



「逃げるよ、ノラちゃん!!」


「え…………」



 俺はノラちゃんをとっさに抱えて、一気に街中を駆け上がった。


 やっぱり、追いかけてくるよな。


 全力でも走るも後ろから追いかけてくるタクト。


 このまま避難所に逃げるわけにもいかないし、やっぱり戦うしかない。


 俺は途中で足を止めて、タクトのほうへと振り向いた。



「ノラちゃんは物陰の後ろに隠れてて」


「う、うん」



 迫ってくるタクト、その見た目はいつも通り蛇のような見た目だが、外皮がいひに荒い文様が見える。


 やっぱり、今までのタクトとは少し特徴が違う。



「ふぅ、ミルウェポン【アブソーブ】起動」



 剣型へ変形し、タクトに向けて構えると、動きを止めて警戒態勢を取った。


 動きの特徴はタクトと一緒か。



「こい!」



 タクトの鋭い牙が襲い掛かり、すぐにジャンプしてよけると、すぐに視線をこっちに向けてきた。


 スピードも小型タクトと変わらず、だが。



「はぁああああああ!!」



 真上からアブソーブを振り切ったが、傷一つつかなかった。


 装甲が硬い?


 隙なく俺をとらえてしっぽを振り回すタクトも素早く後方へ下がりながら、よけるが一息する暇もなく迫ってきた。


 タイミングを計って攻めてきたのか。なら、多少の知性があるのか?


 タクトと闘いながら、観察し、俺たちが知るタクトと今のタクトとの差を見比べ、俺は断定した。


 このタクトはやっぱり、俺たちの知るタクトとは少し違う。


 装甲の硬さから人との戦い方、間違いなく多少の知性がある。


 そして、今のミルウェポンじゃ、あの硬い装甲を切ることはできない。



「厄介だな」



 だが、倒せないわけじゃない。


 装甲はたしかに硬いが攻撃し続ければ、破ることはできる。それに、弱点だってある。それは、アゴだ。


 全身を装甲で覆っている中、アゴから下は装甲で覆われていない。そこを狙えば、確実に倒せる。



「狙うは一点、アゴだ!」



 アブソーブの魔力回路をフル回転させ、魔力をまとわせると、体中に電撃が走った。


 少し魔力を使うだけ…………。



「ふぅ…………でも、これぐらいの痛みは耐えられる!」



 今度は自分から攻め込み、タクトと激闘を繰り広げる。


 タクトとは戦うたびに俺の動きに合わせて攻撃してくるところをはじきながら、アゴを狙う。


 やっぱり、魔力を使うだけ相当楽に戦える。


 そして、タクトの攻撃を大きくはじき返し、動きがぴたりと止まった瞬間の隙を狙って、唱えた。



「加速魔法、アクセル」



 一定の距離があいてたタクトと俺の距離が一瞬で縮まり、その勢いのままアブソーブでアゴを貫いた。


 耳をふさぎたくなるほどの叫びを発するタクトは、そのまま倒れ伏した。



「ふぅ…………うぅ」



 胸を締め上げるほどの痛みが全身を襲い、咳払いすると、血が混じっていた。



「少し無理をしすぎたか」


「だ、大丈夫ですか?」



 心配そうに近づいてくるノラちゃん、俺は無理に笑顔を浮かべて、ゆっくりと立ち上がった。



「ああ、大丈夫だ」



 子供も前では笑顔、そう笑顔を忘れるな。



「さぁ、早く避難所へ行こうか」



 ノラちゃんは連れて避難所に到着すると、待っていた女の子がノラちゃんを抱きしめ、泣きながら「心配したよ~~」と叫んだ。



「さてと」



 まだ大きな音が聞こえてくる。ティナがまだ戦っているんだ。



「あ、あの」


「うん?」


「お兄ちゃん、ありがとう」


「ああ、どういたしまして」



 こうして、お礼を言われるのはいつぶりだろうか。



「さぁ、二人とも早く避難所の中に入るんだ」


「はい!」


「わかった!」



 二人はそのまま地下室へと走っていった。



「ティナところへいくか」



 さっき、ものすごい魔力を感じ取れた。多分、ミルウェポン【レーフィル】の完全武装を使ったんだ。


 俺は急いでティナのもとへと向かった。




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