第13話 ティナとティアが重なる

「すごくきれい」


「そりゃあ、俺の一番お気に入りの場所だからな」

 


 街中の絶景を見渡すことができるこの場所。ルエから教えてもらった場所ではあるが、ここ以上にお気に入りの場所は今のところない。



「ベアちゃんと二人っきりでここに来たんだ」



 ティナは横目で頬を風船のように膨らませながら、そう言った。



「なんだよ、その風船顔は…………かわいい顔が台無しだぞ?」


「なぁ!?か、かわいいなんて、や、やめてよ」


「ティナってあれか、かわいいって言葉が苦手な感じか?なら、これから毎日、かわいいって言ってやろうか?」


「そ、それはやめてほしいというか、心が持たないというか」


「冗談だよ。ティナの嫌がることを俺がするわけないだろ?」


「はぁ!?そ、そうだよね」



 ティナはちょっと残念そうな表情を浮かべながら、聞こえないぐらいの声で「ちょっともったいないことしたかも」と、つぶやいた。



「ふん…………」



 そういえば、こうしてティナと二人っきりになるのは久しぶりだ。それこそ、教官改め管理人になってから二人っきりで話すことがめっきりなくなった。


 ふとティナの横顔を覗いた。



「うん?どうしたの?」


「いや、なんか…………ティナと出会えてよかったなって思っただけだ」



 その言葉にティナはキョトンとした表情を浮かべた後、絶景を眺めながら口を開いた。



「私もアクトに出会えてよかった」



 きれいな横顔、柔らかい笑顔。やっぱり、重なる。重なってしまう。


 俺もティナが眺める絶景に目を向けた。



「ねぇ、アクト。私はね、ずっと一人だったんだ。何をするのも一人で、アクトに出会うまでずっと一人が当たり前だった。だからこうして、一緒に映画を見に行ったり、ご飯を食べたり、こうして一緒に同じ景色を見たり、本当に夢のような日々なの」



 ティナの笑顔がティアと重なる。



「だからね、本当にありがとう。私、アクトに出会えて本当によかった」



 やっぱり、似ている。似すぎている、その笑顔が、その仕草が。



「て、えへへ、なんか恥ずかしいな。こうして言葉にするの、でも言っておきたかったしちょうどよかった」


「ふぅ、それで言ったら、俺もティナと出会わなかったら、今頃、路頭に迷っていたと思うし、むしろタクトに襲われて、今頃屍になっていたと思う。本当にありがとう」


「えへへ、アクトに言われると照れるな~~~」


「何が照れるだ」


「だって、アクトって意外とほめてくれないし」


「そうか?」


「そうだよ!」


 俺っ

てそんなに褒めてないのか。ちょっと気にしておこう。



「そうだ、実はねアクトに秘密にしていたことがあるんだけど私ね、実はアクトに訓練してもらうまで落ちこぼれだったんだ。どう、驚いた?」


「驚くも何もないが…………そうだったのか?」


「うん、だからこうして戦士兵として活躍できているのもアクトのおかげで、最近、シィーアちゃんやベアちゃんも仲良くできているのもアクトのおかげなんだ」


「それじゃあ、お礼料として何かもらおうか」


「え、な、なにが欲しいの?」


「そうだな…………お金?」


「お金ならあるでしょ。それじゃあ、私特製のアップルパイを作ってあげる」


「え…………」


「あれ?うれしくない?」


「いや、うれしいけど、そうかアップルパイか。うん、楽しみだ」



 アップルパイ、昔、ティアが作ったアップルパイがマズすぎて1日動けなかったことがあったんだよな。


 つまり、いい思い出がないのだ。


 夕日が沈みきり始め、そろそろこの絶景の終わりを迎える頃、ティナはこっちを向いて口を開いた。



「アクト、私、胸を張ってみんなを守れる戦士兵になるよ。…………もう二度と私のように悲しむ人を生まないために」


「…………ティナならなれるさ。だって、この超優秀な教官が教えるんだからな」


「うん!」



 ティナは幼いころに両親をタクトに殺されている。だから、ティナは戦士兵を目指して一人努力してきた。


 俺はそれを知っている。


 だからこそ、より鮮明にかさなってしまう。だって、あまりにも似すぎているからだ。


 口長は違えど、見た目から境遇のすべてが。


 その言葉にふっと昔の記憶がよみがえる。


 はるか昔、まだマーリンがいなかった時のことだ。



『私ね、昔両親を魔族に殺されたの。その時の私はおびえていることしかできなくて、ただ涙をこらえて、両親が死ぬところを眺めてた。そのときに思ったのがね、魔族への復讐心とかじゃなくて、ただ終わった光景を見てもう二度とこんな惨劇を繰り返しちゃいけないって思ったの』



 ティアは悲しげにそう言った。


 暗い表情を浮かべながら、俺の瞳を見つめて、ニコッと笑う。


 その時、だからティアは勇者なんだと思った。


 俺がもしその状況になったら、絶対に魔族を許さないと思うから。



『だから、がんばって努力して気がついたら光の勇者に選ばれてた。私って結構すごくない?』


『いや、マジですごいわ』


『でしょ?これがアクトとの差よ』


『自慢げに言うなよ』


『だからね、勇者になったとき、誓ったんだ。私がみんなを守るんだって、もう二度と私と同じ目に合わせないって、どう私かっこよくない?』


『すごくかっこいいと思う』


『だよね』



 ティアは笑った。それはもう満面な笑顔で。


 そんな記憶がふとよみがえった。


「どうしたの、アクト?」


「あ、いや、なんでもない」


 見た目だけじゃない。いろんなところがティアと似ている。境遇からその心構えまで。



「ん?」


「どうした?」



 ティナがふと街中に視線を移した。



「アクト、なんか変な気配がする」


「変な気配?」



 俺もティナが向いているほうへと視線を移すと。


 その数秒後。


 ドンっ!と大きな音ともに街中にタクトが現れた。

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