第11話 魔王ギギアは黒髪メイドのリリアです
七代目の魔王ギギア、魔族を統率し、人類の敵として立ちはだかった現状、最後の魔王だ。
500年ほど前、勇者と魔王の戦いで勇者アクトの一騎打ちに敗れ、最後のあがきに、アクトに呪いをかけて一度死んだ。
しかし、次に目を覚ました時、私は一人のエルフ族として生まれ変わっていた。
見た目の年齢15歳ほどの黒髪ショートの美少女。力は全盛期のままで現在はメイドとしてマーリンの下で働いている。
出会って経緯はまたいずれお話ししよう。
「それでじゃ、呪いが解けた理由はわかっておるのか?リリアがかけた呪いじゃろ?」
「わからない、というか解けるはずがない」
「なら、なぜ解けたのじゃ?」
「知らない。てか、わかるわけがない」
魔王ギギア、改めてリリアは平然と顔色を変えずに答えた。
「魔王のくせに役に立たんのう」
「なんとでもいって構わない。ただ一つ聞きたい。あれは本当に私の知る勇者?」
リリアにしては珍しく、真剣表情だ。
「うん?アクトのことか?それならみてわかるじゃろ」
「そうか、なら残念。もはや、あれは勇者と呼べない」
リリアは勇者との再会に密かに心を躍らせながらも勇者アクトを見た瞬間、違和感に気づいた。
勇者は外付けの魔力回路以外に体の内側にも高密度の魔力回路が存在する。それが勇者が人並み以上に強い理由だった。
だが、今の勇者アクトは魔力回路が機能しておらず、ましては魔力をためるどころが常に漏れ出ている。
それは勇者にとって最大の武器を失ったことと同義だ。
「マーリン、どうするつもり?」
「…………気づいておったか」
「あれに気づかないのはひ弱な今の人類だけ…………あれでよく生きている」
エゴウェポンやミルウェポンは外付けの魔力回路。それに関しては問題ない。だが内側に魔力回路を持つ場合、エゴウェポン、ミルウェポンはその魔力回路に接続し供給するような仕組みになっている。
だが、その供給されるべき魔力回路が壊れていれば、どうなるか――――。
漏れ続けている魔力をさらに供給し、さらに漏れ続ける。
こんな状態がずっと続けば、体に多大な負荷がかかり、最悪、死ぬことだってあり得る。勇者アクトは今、そんな状態なのだ。
「そうじゃな。だが、もうアクトは戦うつもりはなさそうじゃったし、大丈夫じゃろ」
「アクトが戦わないとなぜ、断言できる?」
「…………断言はしておらんし、ただの憶測じゃよ。アクトは今、教官兼管理人を務めておる。そう戦いに駆り出されることはあるまいし、わしができる限り、そうさせんよう手を回す」
「マーリンがそういうのなら、私は何も言わない。ただ、一つだけ文句がある」
「リリアが文句?珍しいのう、なんじゃ?」
「なぜ、タクトの真実を話さない?勇者アクトは知るべき、タクトがどのようにうまれ、なぜ人類を襲うのか」
その文句にマーリンの顔色が変わる。
その真実は未だに世界に知らせておらず、マーリンとリリアだけの機密になっている。
それに伝えなかったのにはしっかりとした理由があった。
「…………きっとそれを伝えれば、アクトに混乱を招くじゃろ。タクトという人類の敵、それを生み出し操る影、その真実はきっとアクトにとって認めたくない真実のはずじゃ」
マーリンにとって勇者アクトの印象は良くも悪くも勇者の鏡だ。
困っている人を見過ごせない。勝てないと救えないとわかっていても命を懸けてしまう。そんな勇者の鏡。それがマーリンの中にある勇者アクトだった。
そんな勇者でも認めたくない、信じたくない真実というものがある。それをかつて魔王討伐の時たくさん経験した。
「リリア、わしはお前が思っている以上にアクトを尊敬しておる。ゆえにもう休ませたいのじゃよ」
「…………理解できない。けど、これは私とマーリンが始めたこと。たしかに勇者アクトを巻き込むのは間違っているともいえる」
「そうじゃろう」
「マーリンの認識は理解した。私は仕事に戻る」
「そうか」
リリアは立ち上がり、エレベーターに向かおうとしたところで足を止めて、マーリンのほうへ振り向いた。
「最近、タクトが群れで動くことが多くなってる。注意しておくといい、もしかしたら、近々、彼女に動きがあるかもしれない」
「わかっとるわ」
そのままリリアは別の仕事へと戻った。
「まったく………老いるのはつらいのぅ………」
老いたことに嘆く、マーリンだった。
□■□
3か月後、神聖歴503年8月5日。
異例、スシャールの戦士兵500人が死亡。
「はぁ…………」
「溜息なんて、らしくないですね、アクト管理人」
「ルエも報告受けただろ?」
「戦士兵の死亡数のことですか?」
「そうだよ」
経ったの数か月で500人が死亡はスシャールの歴史で初めてのことだった。
そのせいか最近、タクトの討伐任務が多く、ティナ、ベア、シィーアが引っ張りだこ、休む暇もなく彼女たちは戦い続ける羽目になりつつある。
このままではいずれ、休む暇のない戦い続ける日々があいつらを襲うだろう。
だが、それだけは何としても防がないといけない。
もし、そんなことになれば、精神的、肉体的な疲労が襲い、あっけなく死んでしまうだろう。
俺は次々と書類を処理していく中で、タクトの総数や討伐平均などをまとめた書類を目にした。
「そういえば、最近、タクトの数が増えたよな?」
「そうですね、最近の傾向だと群れで動いているパターンが多いみたいです」
タクトは単独で動くタクトと団体で動くタクトの2種類が存在する。
(群れで動くのが多いところを見ると環境に変化でも起きたのか?でも、環境変化の報告は受けてないしな…………少し不自然だ)
それに最近、新種のタクトが噂れている。まだ噂の反中だが、戦士兵500人が死んだ理由が新種のタクトが原因なのではないかと提唱している者もいたりと、徐々に噂が広がっている。
「わからん」
「悩んでも仕方がないですよ。それに今のところ任務達成率100%の頼もしい私たちの戦士兵はピンピンしてますし、心配する必要はないと思いますけどね」
「念には念を置きたいんだよ。絶好調の時ほど、アクシデントが起きるってもんだからな」
バタンっ!と扉が開いた。
「アクト、ちょっといい?」
「うん?どうしたんだ、ティナ?」
「そ、その、約束忘れてないよね?」
「や、約束って…………あ」
そこで、3か月ほど前のことを思い出した。
「明日、予定をあけておいてね」
「わ、わかった」
バタンっ!と扉が閉じた。
「アクト管理人は本当に罪深いですね」
「おい」
3か月前、ティナと一緒にどっかへ連れていく約束をしていたのだ。
(できれば今は、あまり顔を見たくなかったんだけどな)
俺には今、一つ悩みがある。
それはなぜか、ここ最近ずっとティナを見ているとティアと重なるのだ。
性格も口調も全然違うのに、まるで本当にティアが目の前にいると錯覚するほどで、訓練の時以外はなるべく、視線をそらしていた。
「う~~~~ん、仕方がないか」
「デート、楽しんでくださいね」
「デートじゃねぇよ…………多分」
今の自分のやばさを認識しながら、明日どうするか、悩む俺であった。
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