第10話 形見と決意

「そうか――――そういえば、ミルウェポンの開発者は」


「そう、このわしじゃ」



 マーリン、改めてラプラス王はミルウェポンの開発者だ。だからエゴウェポンを持っていてもおかしくはない。



「アクトは知らぬと思うが魔王討伐の後、エゴウェポンは光を失い、世界各地へと散っていったのじゃ。普通ならそれでよかったのじゃが、その後に現れたタクトによって、もう一度人類に危機が迫った。そこで、わしはエゴウェポンを集める旅に出たのじゃよ」


「よく見つけたな」


「エゴウェポンは特定の魔力波長を発しておるからな、300年かければ3本ぐらいは見つけられる」


「300年って…………」


「どうじゃ、驚いたじゃろ?」


「ああ、正直な」



 俺が目覚めたとき、手元にあったはずのエゴウェポン【リーレ】とエゴウェポン【フィーレ】がなくなっていた。


(まさか、各地に散っていったとはな)



「それでじゃ…………」



 マーリンは保管場所からエゴウェポン【リーレ】を取り出すと、待機状態に変形した。



「アクト、これはおぬしが持っておくべきじゃ」



 真剣な表情でエゴウェポン【リーレ】を差し出した。



「…………別にいらないけど」


 

しかし、俺はそれをきっぱりと断った。



「えぇ!?なぜじゃ、あれほど、大事にしておったではないか!?」


「だって、もうエゴウェポンを使わないし、だったら、マーリンが有効的に使ったほうが、きっと今を生きる人たちのためになるだろ?」



 本当はもうエゴウェポンを使える体じゃないからなんだけど、それをわざわざ言う必要はない。


 でもまあ、本心を言うならもう戦うことがないからっていうのもある。

 なにせ、俺は教官であり管理人、主に任務を与え、訓練をする立場で戦場に出るはまずないからだ。



「違うのじゃ。わしはすでにミルウェポンを完成させておる。正直、今こうしてエゴウェポンを保管しておるのはかつて勇者たちが戦った証を忘れぬようにするため。だったら、きっとエゴウェポン【リーレ】はアクトのもとにあるべきじゃ。かつての所有者であるアクトにな」



 マーリンはいつになく真剣だった。



「でもなぁ…………」


「それにエゴウェポン【リーレ】はおぬしにとって形見でもあるじゃろ?」



 俺は少し考えた後、口を開いた。



「そうだな…………それじゃあ、受け取っておくか」


「そうしてくれ。それにこれを見るたびにかつて勇者たちが夢に出てくる気がするのじゃよ」


「それはもはや呪われているのでは」


「そうかもしれん」



 エゴウェポン【リーレ】、月の勇者が所有していたエゴウェポン。死の直前に俺に託され、魔王との戦いまで使い続けた相棒でもあり、形見でもある。それが今、500年の時を経て、俺の手元に戻ってきた。


(形見か…………そんな言われ方したら、弱いんだよね)



「それじゃあ、もう帰っていいか?」


「せっかちな奴じゃの。もう少し古き友との会話を楽しまんか」


「マーリンとは昔、たくさん会話しただろ?」


「それもそうじゃな」



□■□



 エレベーター前。


 帰ろうとしたとき、マーリンが口を開いた。



「そうだ、これは個人的な質問なんじゃが」


「なんだよ?」


「アクト、今は幸せか?」



 どうして、こんな質問をしたのか、よくわからなかったが、今はただ自分が思っていることを口にした。



「そうだな。それなりに楽しい人生を歩んでいるし、幸せかな」


「そうか、ならいいのじゃ」



 しわを寄せながら満遍な笑顔を浮かべるマーリンはどこにでもいる普通のおじいちゃんだった。



「時がたつって残酷だよな。すっかりおじいちゃんになっちゃって」


「おい、言葉を選ばんか!?」


「あははははっ!それじゃあ、まぁもう会うことはないと思うが」


「さみしいことを平気で言うところも変わらんのじゃな。だが、案外すぐに会うかもしれんじゃろ?」


「お前に時間を作るぐらいならあいつらに時間を作ってやりたいんだよ」


「なるほどな…………やっぱり、変わっておらん」



 その雰囲気はどこか懐かしくて、何とも言えない気持ちになった。



「じゃあ、今度こそ」


「ああ…………。リリア、アクトを下まで」


「わかりました」



 エレベーターで受付場所まで下がり、黒髪メイドは俺が視界からいなくなるまで頭を深く下げていた。


(マーリンってあんな趣味あったけ?まぁ500年も時が経ったんだし、少しは変わるか)


 外へ出ると、日が沈み始め、近くのお店で香ばしいのにおいが漂っていた。



「もうこんな時間か――――ってどうして、ここにいるんだよ」



 なぜか、ルエとティナ、シィーア、ベアが待っていた。



「そろそろアクト管理人が戻ってくる時間かと思ってね。待ち伏せしていたの」


「待ち伏せって」



 頭を手で抱えながら、ほか3人の顔を覗いた。



「どうせなら、アクトと一緒に楽しもうって話になった」


「私は別にいてもいなくてもいいだけどよ。ティナがどうしてもって」


「ちょっと、ベアちゃん!?何言ってるの!私は別にそんなこと…………言ってなくはないけど」 



 ほか3人は3人で楽しそうに和気あいあいとしている。



「ルエ、この状況がよくわからないんだが、説明を頼む」


「見ればわかります」


「いや、わからないから」


「まぁ、そう気にせず、せっかくですしご飯を食べましょう。アクト管理人のおごりで」


「え、なんで!?」



 突然のおごりに俺は驚いた。



「アクトのおごり。ルエさん、いい判断」


「おごりだぜ!!」


「わ、私は別に自分で払い」


「ダメだよ、ティナちゃん。こういうのは上の者が払うのが常識なんだよ」


「そ、そうなの?」


「そうなんです」



 場が完全におごる流れになっている。

 俺は血の涙を流しながら、もうおごる流れであることを理解し、高らかに声を上げた。



「まぁいいけどさ、ただたくさん頼むなよ。あくまで自分が食べられる量を注文すること!いいな!!」



 高らかに喜ぶみんなの姿、それを見てため息を漏らした。だが、そんな光景を見て、小さな笑みを浮かべた。


(まったく、困ったやつらだな――――んっ!?)


 ふと、ティアとマーリン、そしてほかの勇者たちが笑顔で会話している光景が蘇り、重なった。



「…………」


「アクト」


「あ、ん?」



 隣でティナが心配そうに顔を覗く。



「ぼーとしてどうしたの?」


「いや、なんでもない…………ティナも遠慮なく頼んでいいからな」



 ティナの頭を軽く撫でた。



「え、あ…………はい」



 頬を真っ赤に染めがながら、耳も少し赤くなり、ボンっと頭上から煙が上がった。



「おい、大丈夫か?」


「だいひょうぶでしゅ」


「全然、大丈夫そうに見えないんだが」



 守れなかった。守ると誓いながらティアを守れなかった。

 だから、もう失いたくない。何も失いたくない。


(絶対に俺がお前たちを死なせない。絶対に…………)


 そう、夕焼けを見つめながら、ひっそりと誓うのだった。



□■□



 最上階。



「ふん…………まさか、本当に生きておったとは、若返った気分じゃったな」


「そうですか」


「しかし、500年の時を経て見た目が変わったのはわしだけとは、理不尽じゃ!!」



 マーリンは髪をぐしゃぐちゃとかき回しながら、机を思いっきり叩いた。



「まぁ、石化の呪いで500年もの間、石化していましたから」


「ふん…………そろそろその態度やめてくれんかの、反吐が出るぞ、リリア」



 マーリンの隣で礼儀正しく、メイドの見本のように立ち、佇んでいる黒髪メイドのリリアは目を開いた。



「私はこの態度が気に入っているんです、マーリン」



 平然とマーリンが座る向かいのソファーに腰かけた。



「へぇ、何が気にっとるわじゃ…………魔王ギギア、勇者アクトに敗れた者よ」


「ふん、敗れたのではありません。相撃ちです、マーリン。訂正しなさい」



 そうマーリンに仕える黒髪メイドこと、リリアはかつて人類の敵として戦っていた存在、七代目魔王ギギアなのだ。


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