第9話 スシャールのラプラス王、その正体
スシャールの中央都市マリア。
ラプラス王が住むスシャールで最も栄え、最も安全な場所として知られている大都市だ。
「それじゃあ、俺は今から用事を済ませてくるから。しっかりとルエのいうことを聞くんだぞ」
俺はティナ、シィーア、ベアに向かって言った。
「わかった」
「任せて」
「言われなくても」
瞳を輝かせながら即答する3人を見て、俺は心配になった。
中央都市マリアはそうそう来れる場所ではないため、ワクワクしているのだ。
「ルエ、3人ことをちゃんと頼んだぞ。絶対に目を離すなよ、いいな!」
「任せておいて、アクト管理人。私が責任もって身の安全を保障するよ」
「頼もしいことだ」
こうして、4人と別れた俺は、後ろを振り返った。
「さてと、行きますか」
ラプラス王が住んでいる場所は中央都市マリアの中心部、そこに聳え立つ大きな塔の最上階。
人生で一度入れるかどうかの場所に今日、俺は足を踏み入れるのだ。
塔の中に入り、受付の前に立つと、受付嬢の口が開く。
「アクト様ですね…………準備が整い次第、お呼びしますので、椅子に座ってお待ちください」
「わ、わかりました」
俺は近くにある椅子に座り、呼ばれるのを待つことになった。
ラプラス王、タクトに対抗するべくミルウェポンを開発、量産した開発者であり、このスシャール全土を統治する王。
エゴウェポンの存在、そしてミルウェポンの開発、これはエゴウェポンに詳しくなければまず不可能だ。それにエゴウェポンは勇者にしか扱えない。内部を見ようにもそう簡単に内部構造を見ることはできないはずだ。
そんなことを考えながら待っていると。
「アクト様、準備が整いました」
「あ、はい」
俺は椅子から立ち上がり、受付場所まで向かうと一人の黒髪メイドが礼儀正しく立っていた。
「では、私の後ろについてきてください」
「わかりました」
長い通路を渡り、上へ上る機械の中に入った。
「おっと、す、すごいな」
「この機械はエレベーターというもので簡単に上に上るための機械です」
「へぇ…………」
黒髪のメイドさん、耳の長さからシィーアと同じエルフ族であることがわかる。
しばらく、横目で見つめていると。
「あ、あの、何かついていますか?」
「あ、いや、特に」
「そうですか」
ピンっと音が鳴り、エレベーターが止まった。
「こちらです」
最上階に到着し、黒髪メイドの後ろについていき、広々とした部屋に案内された。
「ここでしばらくお待ちください」
そう言い残して、黒髪メイドはどこかへ行ってしまった。
「また、待つのか」
ラプラス王はスシャールを統治する王だし、忙しいのだろう。
とはいえ、500年も経つとここまで技術が発展するもんなんだなと感心しながら周りを見渡した。
エレベーター、魔力を使わずに何もしないで勝手に上に上がっていくし機械。そんなものは俺が勇者として戦っていた時代にはなかった物だ。
感心するのも当然というものだ。
「ふん、貴様が柊アクトだな」
「んっ!?」
後ろを振り返ると、白ひげを生やしたおじいちゃんとその隣に黒髪メイドが立っていた。
「おっと、驚かせたな。わしはラプラス。このスシャール全土を収める王だ」
「なぁ…………マーリン?」
そんな言葉が漏れた。
□■□
「いやーーーよくわしがマーリンだとわかったな!」
「なんか、雰囲気が童貞くさくて」
「ど、童貞くさ!?わしはもう童貞じゃないぞ!!」
最強の魔法使いマーリン。かつて、魔王討伐のために一緒に旅をした仲間の一人だ。
「その言い方、まだ童貞なんだな」
「うるさい!おぬしはもう少し配慮を学ばんか!」
「配慮してこれだが?」
「噓じゃろ!?アクトは変わっておらのう…………昔から、わしを童貞呼ばわりしおって」
マーリンはよく童貞でいじった記憶があり、毎日のように童貞でいじるのが恒例だった。
「それで、いろいろ聞きたいことがあるけど、とりあえず、なんで生きてる?」
「それはこっちも聞きたいんじゃが、まず、アクトの質問に答えよう。ワシは魔王討伐後、延命魔法を開発してな。それで、ここ500年、生きておる」
「でたらめな魔法を開発したな」
「仕方なかろう。魔王が討伐され、本来なら世界が平和になるはずじゃったのだからな」
深刻そうにマーリンが下を見つめた。
「…………タクトか」
「うむ、タクトが現れて400年、未だに人類はタクトに怯えておる。それこそ、ミルウェポンが開発するまで人類はただ死を待つだけじゃったのだからな。それはそうとアクト、わしとしてはアクトが生きているほうが一番の驚きなんじゃが」
「あ…………それはな」
俺はどういう経緯で現在に至ったのか、説明した。
「石化の呪いじゃと?あの上位呪いの一つの!?」
「ああ、魔王のやつ、死に際に石化の呪いをかけてきてさ。死を覚悟したんだが、偶然にも石化の呪いが解けたんだ」
「なるほど…………解けた理由はわからんが、石化の呪いは生命を維持できるという研究結果はすでに出ておるし、500年もの間、生きておれるのはまぁ納得できる」
「そういうこと…………本当大変だったんぞ。生きるために」
「あはははは!勇者として不自由なく生活しておったからな」
マーリンは高らかに笑いながら、机を思いっきり叩いた。
「うぅ…………それを言われるのは耳が痛いぞ」
実際に勇者として不自由になく生活していたのは事実だ。勇者は魔王討伐に専念するためにあらゆるところから支援を得ており、それどころか魔族を殺せば賞金が出るためお金に困らなかった。
「てかいろいろ情報を提供してくれるのはありがたいんだが、そもそもなんで俺を呼んだ?」
「そりゃあ、世界を救った勇者アクトが本人か確かめるためじゃよ。当り前じゃろ?」
「当り前じゃないと思うが…………まあいいか。てかよくもまぁ王様なんてやってるよな」
「わしだって、なりたくなかったのじゃがな」
「そうなのか?てっきり俺は王様になれば女の子に囲まれてきゃきゃできるからかと」
「わしを何だと思っておるじゃ、アクト!」
怒鳴り声をあげるマーリンは席を立ち上がった後、咳払いをしながら気を取り直し、ゆっくりと席に座った。
「はぁ……タクトと呼ばれる生物が誕生してからいろいろあったじゃよ、ホント、いろいろな」
魔王討伐の後、マーリンがどう生きてきたかのか俺は知らない。
タクトがどのように生まれたのか、どうしてタクトが人類を襲うのか。マーリンならいろいろ知ってそうだが、俺はあえて質問しなかった。
なぜなら、いろいろ面倒そうだったからだ。
「深くは聞かないでおくよ」
「そうしてくれるとありがたい。アクトには残りの人生を楽しく生きてほしいからの」
「老いぼれたこと言いやがって、お前は俺のおじいちゃんかよ」
「わしはアクトの戦いを見てきたからの。それにもうアクトが勇者である必要はない」
本当にただのおじいちゃんのような笑顔をマーリンは浮かべた。
「ま、俺に勇者としての活躍を期待されても困るんだけどな…………それじゃあ、もうそろそろ帰るぞ?待たせてる奴らがいるんだ」
「待たせている奴?ああ、アクトが担当している戦士兵のことじゃな。しかも全員女子と聞く。相変わらず、罪に置けないの」
「おい、その言い方だと、俺が過去にいろいろやってるみたいじゃないか」
「違うのか?」
「違うわ!俺は常に一筋なんだよ…………それじゃあ、俺は帰るぞ」
「待ってくれ、帰る前におぬしに渡したいものがある」
パチっ!
マーリンは指を鳴らすと、後ろにある壁が開く。
「ついてきてくれぬか?」
「…………わかった」
俺とマーリン、そして黒髪メイドと一緒にその通路を通る。
その奥には魔法が何重にもかけられた扉があり、マーリンが”ひらけ”と、唱えると厳重に固められていた扉が開く。
その先には。
「こ、これは!?」
「エゴウェポンじゃよ」
そこにはエゴウェポン【リーレ】、エゴウェポン【シャリー】、エゴウェポン【トーサ】、七つのエゴウェポンのうち、三つが保管されていた。
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