第8話 ベアちゃんとデート?する

ーーー神聖歴503年5月14日。


 管理人を勤めて約1か月以上が経った。



「おい、アクト!」


「どうした?」



 お仕事中の俺に珍しくベアちゃんから話しかけられた。



「次の任務はまだか!」


「またそれか」



 約1か月の間、戦い方や生き残る方法を教えつつ、指令された任務を俺が担当している戦士兵に与えていた。


 初の任務、町に逃がしてしまったタクトの討伐は無傷で達成。その評価は大きく、次々と任務を言い渡されるようになった。だが、俺はわざと任務を拒否し、できるだけ彼女たちの時間を多く作るようにしている。



「そんなに任務を受けたいのか?」


「私はティナやシィーアと比べてまだまだ未熟だ。アクトに教わってもその差は埋まられねぇ。だからこそ、任務でより大きく成果を上げてーーー」


「ちょっと待て!」


「な、なんだよ」


「あのな、ベアちゃん」


「ちゃ、ちゃん付けするな!!」



(相変わらず、ちゃん付けが嫌なんだな、まぁいいけど)


 俺はごほんっ!と咳払いをしながら話をつづけた。



「ベア、お前は早死にしたいのか?わざわざ、俺が与える任務を少なくして、訓練に割り振る時間を多くしているっていうのに…………そこまで文句を言うのなら、俺に勝ったら、任務を与えてやるよ。とびっきりのな」


「ほ、ほんとか!?」


「ただし、負けたら、俺の言うことを一つ!聞いてもらうぞ?」


「の、望むところだ!!」







 数時間後。



「ま、負けた」


「まぁ1か月前よりはマシになった。まだ俺には届かないけど」


「くぅ…………」


「てなわけで、俺の言うこと聞いてもらうぞ?」


「な、なにする気だよ…………」



 顔を赤らめながら少女のような表情を浮かべ、ふさふさな耳が垂れ下がりその口調とのギャップが俺に突き刺さる。


(ぐぅ、ふさふさとした毛並みに口調とのギャップ。なんて恐ろしい)



「ごほんっ!なにちょっと、買い物に付き合ってもらうだけだ」



 外でティナとシィーアが訓練している中、ベアと一緒に街中へと降りた。ここは戦士兵軍事管理課本部が管理する一軒家で、一般人に知られてはいけない場所だ。


 そのため、買い物に行く際は、裏ルートから街中へ降りなくてはいけないという手間がある。


 まったく、街中に行くだけなのに、いっそのこと公開しちゃえよっと、思ったりした。



「さぁ、どんな服を買うか…………迷うな」


「なぁ、どうしてこんな場所にいるんだ?」



 俺とベアちゃんが訪れたのはファッションに力を入れている服屋さんだった。



「そりゃあ、ベアちゃんにかわいい服を買おうと思って」


「べ、別にいらねぇよ!てか、ちゃん付けするな!」


「まあまあ、そう言わずにまずは試着からさぁ」


「ぜってぇ着ないから!」


「お前負けただろ」


「ぎくぅ」



 俺はかわいい服を両手にベアちゃんに近づく。



「試着してくれるよな」


「うぅ…………鬼めぇ」



 次々と試着させられるベアちゃん。かわいい女の子らしい私服や、ちょっと癖のあるメイド服、かわいい服は全部試着させた。


(満足だ、ふぅん)



「お買い上げありがとうございます!」



 3着ほど買い、満足げに街中を歩く俺の隣で疲れ切った表情を浮かべているベアちゃんであった。



「なぁ…………私、もう疲れた」


「そうか」


「そうかじゃねぇよ…………」



 不満げににらみつけてくるベアちゃんだが嚙みつく体力もなく素直についてくる。



「でも楽しかっただろ?」


「まぁ…………楽しかったけど、でも私にあんなかわいい服は似合わねぇよ。もっとごつごつとしたかっこいい服のほうが」


「何言ってんだよ、ベアちゃんだって年頃の女の子なんだから、似合わないわけないだろ?なに、全美人さんを敵に回してる?」


「ちょっ!?何言ってんだよ、私は全然かわいくねぇ!」


「かわいい奴ほどそういうんだよ…………自分の可愛さに自信を持ったほうが人生得するぞ」


「なぁ…………うぅ」



 オオカミ族の特有の耳が真っ赤に染まり、頬も淡い赤色に染め上がった。



「さぁ、どんどん行くぞ!」


「ちょっと、今度はどこに行く気だよ」



 俺はベアちゃんの手を引っ張り、洒落たお店に向かいご飯を一緒に食べた。


 ご飯を食べ終えると今度は街中を探索し、雑貨屋さんなどを見て回り、余った時間を有意義に過ごした。


 そして、俺はベアちゃんをつれて、とある場所に訪れた。



「いい景色だな」


「ああ、きれいだ」



 この街中で一番高い展望台。そこで、俺とベアちゃんは一緒に日が沈む夕焼けを眺めた。その光景は絶景で言葉を失うほどだった。



「なぁ、そ、その…………アクトはどうして、私を連れまわしたんだ?」



 隣で覗き込むベアちゃんの瞳はどこか真剣だった。



「…………そうだな。理由としては前の任務で瀕死になるまで戦い続けたことかな」


「え?」



 前の任務、護送船の護衛任務の時、タクトの襲撃になった。その時、ベアはティナの命令を無視して、ひたすらタクトと戦い続けた。


 運良くもベアはタクトを全滅させることに成功したものの、それが二度も三度も続けられたら、今度こそ死ぬ。戦いはそんな甘い世界ではない。


 実際に、今回、新しい任務を求めてきたが、もし俺が与えていたらきっと任死ぬまで戦い続けていただろう。



「ベアちゃん、任務ではチームワークが大事だ。俺はみんなに生きて帰ってきてほしい」


「おいおい、そんなことをいうためにわざわざ?」


「まぁきっかけを作ったのはベアちゃんだけど、いつずれにしろ、こういう話す機会を設けるつもりだったけどな」



 こういう場を設けて、こうして二人でコミュニケーションをとる。昔のころ、俺がまだ未熟な勇者だったころにやられたことだ。



「アクトって結構、お人好しなんだな」


「みんな、生きて帰ってほしいからな」


「なんだそれ、そんなこと、今まで言われてことねぇよ」



 戦士兵は長生きできない。なんて、よく言われること。


 それは訓練兵でも同じことで、訓練兵の教育現場では「いつ死んでもおかしくない。故に相打ちになってでもタクトを殺せ」という言葉がある。


 俺はこの言葉が嫌いだ。死ぬことが前提の戦いは効率が悪く、何より戦士兵の向上心を損なう行為だ。


 それがよく見られたのがベアちゃんだった。ティナは俺の教育が染みついているから大丈夫だし、シィーアは自由人だが自分の命を優先して行動している。


 その点を見てベアちゃんは3人の中で一番、戦士兵としての教育が染みつていた。



「とにかくだ、これだけは覚えて帰ってほしいんだ。ベアちゃんは気にしていないかもしれないけど、ベアちゃんが死んで悲しむ人が必ずいるってことを。それこそ、俺とかな」


「ふん、はなっから死ぬ気はねぇよ…………でも、アクトの考えは分かった」


「なら、安心した。さぁ、帰るか。そろそろいい時間だし」


「ふん!…………」



 ベアちゃんはそっぷむいて、前を歩きだすと、足を止めて呟いた。



「今日は楽しかった…………あ、ありがとう」


「…………え、今なんて言った?」


「なぁ、なんでもねぇよ!!」


「そ、そうか…………」



 こうして、俺たちは自分たちの家に帰った。




 そして、現在、俺とベアちゃんは二つの角をはやした鬼ティナの前で正座させられている。



「どうして、二人っきりでお出かけしていたのか、説明願いますか、アクト?」


「ど、どうしてそんなに怒ってるんだ、ティナ?」



 ティナの瞳には一切光がなく、今までに見たことない笑顔を浮かべていた。



「あ、安心しろ!決して、やましいことなんてなかった!」



 必死に訴えるベアちゃんだが、俺は何を言っているのかよくわからなかった。


 というか、この状況がまず理解ができない。どうして、ティナが怒っているんだ?ただ、ベアちゃんとお出かけしただけなのに。



「ベアちゃんがそういうならそうなんでしょう。ですけど、アクト!」


「はいぃ!」


「今度、私もどっかに連れてってください」


「え」


「じゃないと、ごはん抜き」


「わ、わかりました」


「よろしい!…………さぁ、夕食にしましょう」



 勢いのまま返事をしてしまったが、ティナの表情が普通の笑顔に戻った。


(本当に、女の子ってわからねえ)


 そう思っていると、背後で膝を折るシィーアが、肩をツンツンと、つついてきた。



「うん?」


「アクト…………」


「どうした、シィーア?」


「女心がわかってない」


「え、それってどういう…………」


「わ、私もアクトはもう少し女心というか、その軽率な行動をとらないほうがいいと思う、うん。私でもわかる」


「は、はぁ…………」



(い、いや、本当に意味が分からん)


□■□



 ティナがどうしてあんなに不機嫌だったのか、俺にはよくわからなかったが、どうやらほかの人たちはわかっている様子だった。



「アクト管理人は案外、鈍いんですね」


「鈍いって、勘は鋭いぞ?」


「そういう意味じゃないんですけど、そうだ。本部から連絡が届いていましたよ?」


「連絡?」



 ルエから渡された一枚の紙。それを確認すると。



「なぁ!?」


「どういった内容でした?」


「…………どうやら、ラプラス王がお呼びらしい」


「え…………アクト管理人、なにしたんですか?」


「何もしてないと思うが」



 ラプラス王、国を治める王であり、世界でもっとも偉大な存在の一人。そんな存在であるスシャールのラプラス王が俺を指名で呼び出したのだ。



「行くしかないか…………」



 こうして、俺はラプラス王が住むスシャールの中央都市マリアに向かうことになったのだった。

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