第7話 ミルウェポンの力

 ミルウェポン、勇者が使っていたとされるエゴウェポンを戦士兵が使えるのように改良、量産された外付け魔力回路だ。


 戦士兵になれば必ず支給され、優秀であれば戦士兵になる前に支給される代物で、目の前にいるベア、シィーア、ティナは戦士兵に正式になる前から所持している。



「本当にミルウェポンを使っていいのかよ」


「かまわない。むしろ、使ってもらわないと相手にすらならないだろ?」


「ちっ、なめやがって、ぜってぇ後悔させてやる!」


「意気込みだけはいっちょ前だな。さぁ、3人とも準備できたか?」


「あたりめぇだ!なぁ!」


「問題なし」


「が、がんばるよ!」



 みんなのやる気は十分のようだな。心配なのはティナぐらいだが、まぁ大丈夫だろう。


 それぞれの準備が終わると、新米戦士兵3人がミルウェポンを起動させる。



「ぜってぇに後悔させてやる!ミルウェポン【ミツキ】起動!」


「ミルウェポン【アゼール】起動」


「ミルウェポン【レーフィル】起動!」



 手に持っている棒状のものが光り輝き武器へと変形を開始した。


 ベアのミルウェポン【ミツキ】はナックル型に変形し、シィーアのミルウェポン【アゼール】は杖型に変形し、ティナのミルウェポン【レーフィル】は剣型に変形した。



「あれが、ミルウェポンか」



 やっぱり、基本の型はエゴウェポンとほとんど一緒だ。違いがあるとすれば、外付けの魔力回路としての魔力総量の違いと、固有性質がバラバラなことぐらい。


 てことつまり、実質、戦士兵というのは勇者と同じという考えができる。


 ミルウェポンについては研修で深く掘り下げながら学んだ。ミルウェポンの開発者はこの国の王、ラプラス王であり、普及させたのもラプラス王だ。


 ラプラス王、エゴウェポンをこんな形で量産するほどの知識と魔法の技術。


(やっぱり不気味だな。この世界の王という存在は)



「手加減なんてしねぇ、いくぞ!!」


「ちょっと、ベアちゃん!?」



 勢いよく飛び出したベアは俺の懐まで入り込み、こぶしを深く握りしめ、「よけてみやがれぇぇ!!」と、風を切り裂くほどの鋭いこぶしが襲い掛かる。


 まともに食らえば風穴があくほどの一撃だ。


 だが。



「なぁ?」


「おいおい、いきなり真正面から突っ込むのはないだろ」



 ベアの一撃は簡単によけられた。しかも、ミルウェポンも装備していないただの管理人にだ。



「このぉおおおお!!」



 プライドが許さないベアは休むことなく鋭いこぶしを何度も振るうが一発も当たらず、途中で息切れ、足を止めた。



「ど、どうなってやがる…………」


「これ以上みていられない。枝魔法、ミルド」



 タイミングを見計らって今度はシィーアが仕掛けてくる。枝魔法で木々の枝を操り、攻撃を仕掛けながら、ベアを後方へ下がらせた。



「はぁ、はぁ…………」


「何をやってるの?」


「ちっ、あいつがちょこまかと逃げるから」


「見切られているんだよ、確実に。つまり、強い」



 シィーアは断言した、彼は強いと。それは冗談でもなく本気で言ってることにティナは気づく。



「だよね、アクトはやっぱり強いよね」


「なんで、ティナ。そんなにうれしそうなの?」


「え…………いや、実は少し前にいろいろ教わってて、それで、ね」


「そ、そうなの?初めて聞いた…………いや、だからか」


「アクトのおかげで、今、戦士兵としてみんなと肩を並べて立っていられるんだ。でも、今はそんなこと関係なしで負けたくないって思ってる。だからベアちゃん、今度は一緒に戦うよ、そして絶対に勝つよ!」



 ティナのその言葉と真剣な眼差しにベアは立ち上がった。



「こ…………今回はティナの指示に従ってやる」



 ベアもバカではない。こう見えて戦士兵としての活躍が期待されている一人で、今のこの状況で一番最善な選択かを理解している。


 だからこそ、ベアを一度プライドを置いて、ティナの手を取った。



「ありがとう」


「それで、ティナ、作戦はどうするの?」


「あるよ、アクトに勝つ作戦が」



 アクトと一緒にたくさん訓練をつけてもらった。そんな私だからこそ気づいた弱点、そこをつけば、もしかしたら。


 ティナには勝つための道筋が一つだけ見えていたのだった。



□■□



 3人一組のワンチーム、その連携ができるかどうかで今後の任務での成功率、そして生存率が変わる。


 だからこそ、統率する戦士兵が必要でリーダーシップを求められる。


 その役割としてティナがいるが、どうやら、機能し始めたようだった。



「さて、今度はどう来るのか」



 三人の話し合いが終わった後、ティナとベアが連携して攻撃を始めた。


 鋭く無駄のない二人の連携攻撃を軽々とよけるも二人の後方で控えているシィーアが視界に入る。魔力を使って何かしら魔法を使おうとしているのがわかるが、いったい何を考えているのか、わからない。


 休む暇もなく連携攻撃が続き、俺の呼吸を乱れはじめた。



「でりゃあああああ!」


「はぁああああああ!」


「くぅ!?」



(そろそろ、限界か)


 俺の体には昔と違って集中力の限界がある。昔と違って少し戦いが長引くだけで息切れを起こす。全くもって、不便な体だ。


 二人の連携攻撃の勢い落ち着いた瞬間、息を整えようと足を止めると。



「今だよ!ベアちゃん!!」


「分かってる!拳魔法、発勁はっけい!!」



 ベアが初めて魔法を地面に向かって使った。


 魔法による一撃で俺の足元の地面が砕け、意識が地面のほうへと持っていかれた。


 その隙を見逃さないティナは。



「アクトは集中力が切れると必ず一息つくために足が止まる。すると必ず隙が生まれる。あとは、シィーアちゃん!!」


「まかせて、もう準備万全…………」



 シィーアが杖をこちらに向けていた。



「放射魔法、デリゲート・シューター!」



 高密度の遠距離魔力砲撃。

 集中力を切らしたところで足場を崩し、意識を足場へと誘導、その隙をついてのシィーアの遠距離魔力砲撃。


 俺の癖を見抜いたティナの完璧な作戦だ。


 シィーアの遠距離魔力砲撃はギリギリ、ティナとベアの間を通り抜け、俺に直撃した、ように見えた。



「やった?」


「うんうん、やってないよ、ベアちゃん!」


「まじかよ…………」



 たち煙が上がる中で人影がくっきりと見える。



「さすがだ、ティナ。俺の弱点を利用した遠距離魔力砲撃、もしこれがなかったら、負けていた」



 たち煙が風で過ぎ去ると、俺の右手には一振り剣が握られていた。



「あ、あれは…………」


「ミルウェポン!?」


「そう、俺に支給されたミルウェポン【アブソーブ】、これは魔力を吸収する固有性質を持つミルウェポン、俺にピッタリだろ?」



 固有性質はミルウェポン一つ一つに備えられた機能のことだ。基本的には戦闘特化になっていることが多いが、俺の場合は少し特殊にしてもらっている。


 それには理由があるんだが、まぁ語る必要はないだろう。


 しかし、正直、驚かざる終えなかった。なにせ、ミルウェポンを使わされると思っていなかったからだ。


 俺の予想では連携攻撃がうまくいかず、3人一組のワンチームでの戦い方を最初に教えるつもりだった。だけど、戦ってみて、今更ながら3人の優秀さに驚かされる。



「さぁ、このまま続けてもいいんだが、どうする?」



 すると、ティナが口を開いた。



「…………私は降参する。ベアちゃんとシィーアちゃんは?」


「私は魔力の限界。もう戦えない」


「まぁ、実力だけは認めやる!」


「どうやら、この勝負は俺の勝ちみたいだな」


「ちょ、調子に乗んなよな!私はただ実力を認めただけ、次は絶対に勝つ!!」


「あははは、いつでもまた受けて立つよ、ベアちゃん」


「なぁ!?ちゃん付けするな!!!」



 頬を真っ赤に染まるベア。その姿を見て俺は笑った。


(なんか、こいつ昔飼ってた犬みたいだな)



「なんか、急に仲良くなったように見える」


「まるで、飼い主とペットみたいな?」


「そうそうそれ。ティナ、たとえがうまい」


「ありがとう」


「おい、そこの二人の声、ちゃんと聞こえてくるぞ!なにが、飼い主とペットだ!!」


「ちょっと、ベアちゃん、ミルウェポンをこっちに向けないで!?」



 俺が思った以上に3人は仲が良く連携もとれる優秀な戦士兵だった。


 だからこそ、思った。俺は今、この子たちの命を預かっているのだと。


 俺の教え一つで、判断一つで、生かすも殺すこともできてしまう。その責任の重さを実感した。



「って、戦った後だっていうのに、元気な奴らだな」



 この笑顔がずっと見られる世界であってほしい。

 そう心から思った。



「うぅ…………」



 急に胸が苦しくなり、胸を押さえた。



「ミルウェポンですら、ここまで負荷が大きいのか」



 ほんの数分使っただけで、手が痙攣し息苦しくなる。



「使いどころは見極めないとな」



 今の自分の体をのもろさに悲観しながらも、俺は前を向いたのだった。

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