第6話 不満だらけのオオカミ族のベア

 2時間遅れで集まった新米戦士兵、その中にティナがいた。


 正直、ファイルの中身を見たとき、ティナの名前を見て驚いたがある意味当然だなと腑に落ちた。


 だって戦い方とか俺が一時期、教えていたわけだし、期待され、評価されるのも無理はないからだ。


 ちょっと、自意識過剰かもしれないが。



「さてと、新米戦士兵ども、2時間遅れた理由を聞こうか」


「そこのベアがたくさんご飯を食べた。結果遅れた」


「おい、私のせいにすんじゃねぇよ!シィーア!」


「事実、それ以外に遅れた理由はない」


「なんだとぉ?」


「二人とも落ち着いて、ねぇ?」



 今年の新米戦士兵の中で特に優秀だった3人、ティナ、ベア、シィーア。成績も常にトップを争い、よきライバル関係にあるっとファイルには書かれている。



「まぁ、理由なんてなんでもいいんだがな。もう時間がない、さっそく部屋を案内するから、そこで荷物をまとめろ、いいな!」


「もともと、シィーアの買い物が早ければご飯を食べる時間をもっと多く確保できたはずだ!」


「ベアの食べるスピードが遅いから」



 まだ喧嘩している。


(あれか、喧嘩するほど仲がいいというやつか)



「はぁ…………めんどくさいな」



 俺は軽くこぶしを握りこみ、軽く頭を殴った。



「いて!何をするんだ!?」


「いたい…………すりすり」


「さっさとついてこい!!」



 おとなしくなった二人とティナをつれて、それぞれの部屋を案内した。基本的には1部隊のメンバー3人は近い部屋に割り振られており、いつでもコミュニケーションが取れるようになっている。


 俺の部屋は一番端にある大きな部屋、ルエはその隣だ。



「明日から、教官としてびしばしやっていくから、今日はおとなしく寝るように。あと、夜中の外出は基本禁止だからな」



 一言ちゃんと釘付けた後、自分の部屋に戻り、新米戦士兵のファイルを改めて確認を行った。



 一人目、シィーア・エルディム。エルフ族で物静か、冷静な判断能力と戦闘における扱える魔法が多く、ミルウェポン【アゼール】での後方支援、後方での攻撃、そして遠距離からの強力な魔法を得意とする、後方型での訓練兵としてトップの成績を収めている。



 二人目、ベア・アリアーテ。オオカミ族で戦いが大好き、戦闘センスはずば抜けており、戦士兵になる前までのタクトの討伐数は1位であり、ミルウェポン【ミツキ】での近接戦闘の技能では戦士兵の中でもトップである。



 そして最後の三人目、ティナ・スターライト。ヒューマン族で戦闘センスといざ、という時の決断力、リーダーとして必要な両方を兼ね備えている有望な戦士兵。ミルウェポン【レーフィル】での戦闘はベアに劣るものの、戦士兵の中でも最高水準のレベルであり、最も期待されている。



 ざっとこんな感じ書かれており、しっかりとバランスが取れているなと思った。


 前衛をベアのおき、指揮をティナ、後方支援と遠距離攻撃をシィーアとした1部隊として戦わせる意図で組まれている部隊だ。



「まったく、よく考えられている。問題はどれだけあの3人が連携できるかだが、それは明日見ればいいか」



 これにて、管理人として最初の仕事が終わった。

 ファイルを机に置き、ふと窓から夜空を見た。



「…………もう半年か」



 呪いが解けてから半年、すでにこの世界に慣れつつある俺は少しだけ違和感を感じていた。それは、ふとティアたちの思い出が蘇るのが原因だ。



「アクト管理人、お茶ですよ?」


「ありがとう」



 テルとも3か月ぐらいの仲で、一緒にいない日なんてほぼなかった。



「うぅ、まず」


「ひどい…………大事に大事に組んだお茶をまずいだなんて」


「俺は正直者だぞ。でも、もう慣れたよ」



 俺はまずい茶を平気で飲み干した。



「べ、別に無理して飲まなくていいのに」


「もう飲みなれたからな。ただ、あの3人には出すなよ」


「わかってますよ、このお茶を出すのはアクト管理人だけです」



 なんで、俺だけなんだ?と、疑問に思った。



「そろそろいい時間ですし、お休みになったらどうですか?」


「そうだな、もうちょうどいい時間だしな」


 気が付けば夜10時過ぎていた。


□■□


 次の日、慣れないベットから起きた朝。


 リビングに向かうとキッチンで物音が聞こえてきた。


 こんな朝から、誰だろう?と、覗いてみると、ティナがエプロン姿で朝食を作っていた。



「あ、おはよう、アクト」


「…………あ、ああ、おはよう」



 ふと向けられた笑顔が一瞬、ティアと重なった。



「もうすぐ朝食ができるから待っててね」


「お、おう」



 数分経つと、ベアやシィーアも起きてきて、リビングの椅子に座った。

 みんな、朝が弱いのだろうか。

 ベアやシィーアともにうとうとしながら、眠そうだった。



「はい、朝食だよ」


「ありがとう」



 久しぶりのティナの朝食。一口食べると。


(う、うまい…………!?)


 研修期間中のご飯の100倍美味かった。



「おいしい?」


「ああ、おいしいよ」



 気が付けば、ティナは俺の横に座り、微笑みながらこっちを向いていた。


 向かい側に座っているベアやシィーアも出された朝食を黙々と食べていた。



「二人とも、朝が弱いから」


「そうなのか」


「それはそうと、アクト。久しぶりだね」


「そうだな、まぁ大体3か月ぶりぐらいだがな」


「私、すごくうれしかったよ。またこうして、一緒に…………」


「俺もだよ」



 ティナとこうして早めに再会できたのはすごくうれしかった。だって、まだ先だと思っていたし、それにまたこうして一緒にご飯を食べれる。そう思うと、心がじんわりと温まるんだ。



「おやおや、お二人さん、お熱いですね」


「あ、え~~と」


「アクト管理人のサポーター、ルエといいます。ティナ戦士兵」


「ルエさん」


「そうそう」


 厄介なやつが起きていた。

 ルエ・シラナー、今は俺と同じぐらいの身長になっており、どうやら仕事モードという状態らしい。


 研修期間中の時はあんなに小さかったからか、どうしても今の姿のルエにな慣れない。


「ルエ、変なことを口走るな」


「変なことなんて言ってないよ?むしろ、見たまんまを言語化しただけ」


「あ、すぐにルエさんの朝食出しますね」


「ありがとう!…………それで、アクト管理人ってティナ戦士兵とお知り合いだったんですか?」


「ああ、少しなってなにニヤニヤしてんだよ」


「いや~~~青春ですね」


「何が青春だ」


「はい、ルエさんの朝食です」


「ありがとう!すごくおいしそうだよ」


「お口に合うかわかりませんが」



 ルエは笑顔で「いただきます!」と、言ってご飯を口にすると「え、研修期間中のご飯よりうまい!?」と、俺と同じ感想を口にした。



□■□


 朝食を食べ終えると、ルエは書類の仕事にいそしみ、俺と新米戦士兵たちは外に出ていた。



「みんな、まず、おはよう」


「おはようございます」


「おーはー」


「ふんっ!」


「みんな、元気そうで何よりだ。ではまず自己紹介から、俺は柊アクト。普通にアクトと呼んでくれていい。これから3年間、君たちを最強の戦士兵すべく教官兼管理人を務めることになった。これからよろしく」


「よろしくお願いします」


「よろしく」


「ふんっ!」



 基本的に教官の役目は、戦士兵に戦いを教えることのみで、こうして特定の部隊を教えることは絶対にない。だが、俺は教官でありこの部隊の管理人、任務の選定から体調管理と仕事が多い。


 だかこそ、こんな風に教える時間は基本少なく任務が多くなるため、この時間はすごく貴重だ。今はまだ新米戦士兵ということもあり任務の通達は来ていないが1年もすれば任務の日々を送ることになるだろう。


(無駄なく使わないとな)



「それじゃあ、それぞれ自己紹介をしてもらおうかなと思ったんだが、あいにくと俺はある程度君たちのことを知っている。だから、何か不満があるなら聞こうか、ベア」


 ベアの明らかな不満の態度。これは今後の訓練、そしてチームワークに支障をきたすだろう。


 なら、まだ任務がないうちに解消すべきだ。


「それじゃあ、言わせてもらうぞ。私はなぁ、どこぞのしらねぇ実績のないやつなんかを私の教官としても管理人としても認めねぇ!」


「ちょっと、ベアちゃん!?」


「たしかに、私たちに教えてくれたのは実績のある元戦士兵だったりするし、私の調べだと、アクトさんは特に実績もない。それに関してはベアに賛成」


「シィーアちゃんまで!?」


「ティナはどうなの?」


「わ、私は別に、大歓迎というか…………うれしいというか」


「…………のろけ」


「シィーアちゃん!?」


「大体みんなの意見は分かった。ならここはひとつ、勝負をしよう」


「勝負だぁ?」


「戦士兵として常に3人一組で行動するのが普通だ。だから、俺と君たち3人と戦って俺に勝ったら、実績にある人に管理人を代わってもらおう。どうだ?」


「いいな!それ!」


「文句なし」


「え…………わ、私は」


「ティナ、これは3人の連携を見るためでもあるんだ。それに、ティナがどこまで強くなったのかも、俺は見てみたい」


「うぅ…………で、でも…………」


「安心しろ、3人がかかってきたところで、俺には勝てないからさ」



 自信ありげに言い切った。こうして、新米戦士兵と戦うことになったのだった。

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