第2章 担当する戦士兵たちと運命の再会
第5話 ティナとの再会
戦士兵軍事管理課本部、400年前に設立され、現在はこの国を守る要となっている重要な機関。
ここでは戦士兵の全データが保存されており、そのデータをもとに戦士兵に与える任務を選定し戦士兵に指令を渡す。
言うなれば戦士兵を送り出す場所だ。
戦士兵軍事管理課本部に到着すると、受付で手続きを行い、すぐに別室に案内された。
そこには。
「お久しぶりですね!アクトさん」
「て、ルエ!?」
「そう、ルエ・シラナーさんですよ。あっ、もうさん付けはいらないか」
試験の時、「いえ…………正直、教官になる気がないので」と、言っていたがそもそもガルル教官と同じそっち側の人間だったからか。
「どう?驚いたかな?」
「怪しいと思っていたけど、腑に落ちたよ」
「やっぱり、怪しまれてた?」
「そりゃあ、ねぇ…………」
佇まいから只者ではないと思っていた。
「私も用心しないと…………いてっ」
「職務中だぞ、ルエ教官」
ルエの背後から頭をたたく背の高い風格のある人影。
「あ、あなたは?」
「すまないね、わたしはここの管理を任されているリザード長官だ。初めまして、アクトくん」
「こ、こちらこそ」
俺は差し出され手を握り、あいさつを交わした。
「痛いじゃないか、リザード。もっと女の子にやさしくしろ!」
「ルエ教官は男だろ。ほら、仕事を始めるから座りなさい。アクトくんも座っていいよ」
「あ、では」
(ルエって男なのかよ。あの見た目で…………)
モフモフした毛皮に、つぶらな淡い青色の瞳、長くも短くもない絶妙な長さのしっぽなんて、少し動くだけかわいらしい。
そんな見た目をしておいて、男の子だなんて、世界って残酷だ。
「さてと、さっそくなんだが、すでにアクトくんの履歴、その他もろもろこちら側で登録しておいたから、あとは研修の後、教官兼管理人としての仕事を勤めてもらうだけだ」
「あ、ありがとうございます」
「アクト~~敬語似合わないよ?」
「………ルエ、世の中、目上の者には敬語をつかうんだよ」
「そうなの?」
「ルエ教官ぐらいだよ、私に敬語を使わないの」
「そうなんだ、まぁ僕には関係のないことだね」
長官という役職は教官よりも高くえらい立場にある。そんな相手に気軽くに話しているルエっていったい何者なんだろうと疑問に思った。
だってもし機嫌を損ねたら「クビだ!」て言われるかもしれない。
「ルエって自由ですね」
「もうみんな慣れっこだよ」
「みんな、もしかして、僕をいじめてる?」
「さてと、ルエ教官のことは無視してと、ここにアクト君を呼んだのは、本当にこの仕事に就くかの意思表明を聞きたくてね」
「意思表明ですか」
「アクトくんが引き受ける仕事は普通の教官の仕事とは責任の重さが違う。それこそ、初の試みでもあるから余計にね」
リザード長官の真剣な表情に部屋全体に重い緊張感が漂った。
それぐらい、俺が引き受ける管理人という仕事は責任が重いのだ。
「大丈夫ですよ、こう見ても責任感はありますし…………それに俺が教官するんですから、最強の戦士兵にしてみせます!」
「やる気は十分のようだね。なら、安心してアクトくんに任せられる。君が教官として担当する戦士兵は今年、戦士兵になる中で優れた3人だ。その3人を一部隊として担当し、度々、レポートを提出してもらうから」
「わ、わかりました」
「アクトくんが成果を出すことに期待するよ。ついでに、管理人の仕事が始まると、共同生活になるんだが、さすが新人の君一人だと心配だから、このーー」
「僕も一緒に同行するよ、いわゆるアクト管理人のサポーターだね」
「だから、いるのか」
「というわけだ。研修もルエ教官が同行するから残りの期間で出来るだけ仲を深めてほしい。私からは以上だ。なにか聞きたいことはあるかな?」
聞きたいことがあるかと言われれば特にない。
俺は少しだけ考えた後、きっぱりと言い切った。
「特にはないです」
「そうか、ではルエ教官。アクトくんに泊まる部屋を案内しなさい」
「は~~~いっ!それじゃあ、これからよろしくね、アクト管理人」
「俺はまだ管理人じゃないんだが」
こうして、教官兼管理人の第一歩を踏み出したのだった。
□■□
ルエに案内されたのは戦士兵軍事管理課本部の中にある一室。ここで研修期間中、住むことになるらしい。しかも、ルエと同室だ。
「いいですか、まずお風呂は一緒に入ることと、ご飯も一緒に食べます。あと夜更かしは禁止、体に良くないのでね」
「いや、後半はわかるんだが、なぜお風呂も一緒なんだ?」
「それはもちろん、一緒に入ると楽しいし、寂しくないからですよ」
「…………いやいやいやいや、全然理解できないんだが!?」
「いいじゃないですか、男同士、裸の付き合いとでも思ってください。いいですね」
「もう、いいよそれで」
「しばらく一緒に部屋で暮らすんですから、ちゃんとルールは決めておかないと」
意外としっかり者のルエであることが分かったが、一緒にお風呂か。
理性を保てるだろうか。
目に映るはモフモフした耳。研修期間中、俺が何もしないことを祈ろう。
そう心に誓うのであった。
□■□
ーーー神聖歴503年4月1日。
戦士兵として選ばれた者たちがこの日、正式に戦士兵となる。
その歓迎式が住民たちと一緒に行われた。
「すごい数だな」
「それはそうですよ。戦士兵は人々の支え。この街並みがこうして平和なのはすべて戦士兵のおかげですから」
「それもそうか」
戦士兵が次々と現れ、人々が歓喜の声を上げる。
その光景は、選ばれた七人の勇者を歓迎する時の光景とどこか似ていた。
「アクト管理人、そろそろ私たちも持ち場につきますよ」
「分かってる…………あ」
ふと、戦士兵の中にティナの姿を見かけた。
「どうしたんですか?」
「なんでもない。行こうか」
ティナとは、時々連絡を取っていたが、改めて戦士兵としての姿を見ると考え深いものがある。
それこそ、ティアが勇者に選ばれた時も、非現実的すぎて逆に考え深かった記憶がある。
「ほら、アクト管理人!いきますよ」
「わかったから、引っ張るなよ」
無事に戦士兵の歓迎式が終わり、俺はこれから住む家にルエと訪れた。
立派な一軒家で、部屋もたくさんあり、キッチンやプライベートルームまですべて完備されていた。
部屋の数が多いのはたぶん、今後人員を増やすためだろう。
「随分、お金がかかってるな」
「それは、今後の戦士兵の頭を担う子達かもしれませんからね。不自由は与えないよう抜かりはありません」
「お前が自慢げに言ってどうするんだよ…………でも、これなら生活には困らなさそうだな」
「そうだ、アクト管理人。これを」
渡されたのはファイルだった。
「今日からここに住む戦士兵のリストです。まぁ、3人だけですけどね」
「それをもっと早く渡さんかい」
「忘れてました、てへ♪」
「忘れてましったて、はぁ…………さて、どれどれ」
渡されたファイルの中身を確認すると、驚きの名前が書かれていた。
「これは……なるほどな」
「どうしたんですか?」
「いや、なんでもない」
これから一緒に住むことになる3人の新米戦士兵を持つこと、2時間。
一向に来る気配がなかった。
「もう夜なんだが」
「こないですね」
予定では18時ぐらいに来る予定だったのだが、気が付けば20時だ。
何かトラブルでもあったのだろうか、心配していると、こっちに向かってくる足音が聞こえてくる。
しかも、ものすごいスピードでだ。
「ルエ、少し離れたほうがいいかも」
「え…………そうしますね」
ルエはサッと後ろへ下がると。
「でりゃぁああああああああああ!!」
こぶしを握り締め、突っ込んでくる赤髮の女の子。俺はさらっとよけると、そのまま共同生活する一軒家に突っ込んでいった。
「いてて…………よけられた!?」
「やっと来たか」
どうやら、2時間遅れて、やってきたらしい。期待の星である新米戦士兵たちが。
そして。
「あ、アクト!?」
俺の名前を呼ぶ声、振り返るとそこには。
腰まで伸びる銀色に輝く髪に、白い肌、スラッときれいな腰首。そして、聞き覚えのある声。
「遅いぞ、新米戦士兵」
この日、ティナとの再会を果たした。
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