第1章 教官になるべく試験を受ける
第3話 戦士兵の教官になるべく
ラースの中央町にある闘技場。
そこで戦士兵の教官になるための試験が行われる。
その入り口で俺は足を止めていた。
「まさか、明日とはティナのやつ…………はぁ、仕方がない。行くか」
俺は闘技場へと足を踏み入れた。
闘技場は、世界各地の優れた戦士兵が自身の力を示す場所で、1年に一度、戦士兵大会が行われているれっきとした文化を執り行う場所で普段は入れない。
「戦士兵、タクトから人々を守る戦士…………昔の勇者みたいなもんだよな」
俺の知っている世界と今の世界は大きく異なる。だからこそ、今の考えでものを図るのはよくないことだと理解している。
ここで少しでもこの世界の常識を学んで置かないとな。
試験会場でしばらく待っているとづくづくと屈強な戦士みたいな見た目の奴から、普通の女の子、そして魔力を持つ戦士や女の子が試験場に入ってくる。
あの魔力量、俺のいた時代よりかなり低いけど…………あの程度の魔力でタクトに通用するのだろうか?
いや、そもそも魔力を持っていること自体が珍しいんだから、魔力量は特に関係ないのかも。
「諸君!よく集まってくれた!!」
響き渡る声、その方向へとみんなが振り向いた。
「私は戦士兵の教官を勤めているガルル教官である!これより、第1次試験を始める!最初は簡単だ。ここにいる総勢100人のうち50人になるまで戦え!武器は何でもいい!とにかく、まず自らの力を示せ!以上!!!」
ガルル教官がしゃべり終えると周りの人たちが一斉に声を上げて、戦い始めた。
「うわぁ…………これは、汗ぐるしいな」
俺はさっと気配を消して、闘技場の壁にもたれかかり、教官になるべく集まった人たちが戦っている様子を眺めた。
「どうして、こんな密集したところで戦わないといけないんだよ…………まぁ実践に近い状態という意味では正解か」
ガルル教官は近くの壇上で戦っている様子を見ていた。
おそらく、採点をしているのだろう。だが、果たしてこの状況で何を採点しているのか、俺にはわからなかった。
「ねぇ、そこの君」
「うん?」
隣を見ると、俺の膝ぐらいの小さな女の子がしゃべりかけてきた。
可愛く揺れるうさ耳を持つ小動物のような女の子。間違いない、ウサギ族だ。
「君、ただものじゃないでしょ。わたしでなきゃ、絶対に見つけられなかったよ」
「むしろよく見つけられたな。完全に気配を消していたはずなんだけど」
「ウサギ族である僕は、君と違って耳がいいんだよ。音の反響からこの場所だけ変だったから見てみたら」
「なるほど、俺がいたってわけね」
「そういうことだね!」
俺の視線は自然とうさ耳へと吸い寄せられる。
モフモフしたい、撫でたい、触りたい、そんな欲求があふれてくる。
俺の頭の中で駆け巡る欲求を何とか抑え込み、呼吸を整えた。
「なんか、寒気がしてきたよ」
「気にせいだろう」
「そうかな…………」
何とか、抑え込めた。えらいぞ、俺!と、自分の心の中で自分を褒めた。
「それで、なんで話しかけてきたんだ?」
「そりゃあもちろん、協力するために決まっているでしょ」
「協力?」
「ああ、今回教官の募集人数は3人。多分だけど私たちは最後まで残る。そこで私たちが協力すればきっと確実に教官になれると思うんだ。いや!確信しているんだよ!」
胸を張って言い切るウサギ族の女の子。
たしかに協力すれば確実になれるかもしれない。それに
「わかった。協力しよう」
「潔いな、まぁいいけどさ。それじゃあ、二次試験で…………あ、そうだ名前を教えてくれない?協力関係になるんだし、名前を知らないのは、不便でしょ?」
「そうだな、俺は柊アクトだ」
「僕はルエ。よろしくね」
ルエはルンルンしながら、その場を離れた。
あのウサギ族のルエ。見た目や気配から害はなそうだけど、妙に匂うんだよな。元勇者である俺の勘がそう告げている。
「さてと、60人ぐらいから減らないし、減らすか」
俺は気配の遮断をやめて、みんなが戦っている戦場へと足を踏み入れた。
そしてーーーーーー。
「よくぞ生き残った。それでは二次試験の内容を発表する」
やっぱり、みんな弱かった。俺みたいに弱っていても簡単に倒せるところを見ると、俺の時代の強さに比べて、想像以上に弱い。
これなら協力なしで簡単に教官になれる、そう確信した。
その時だった。
「内容は簡単、筆記試験だ!かく試験官が紙を渡すので回答してほしい。制限時間は60分だ!」
「え…………筆記試験!?」
「はい、解答用紙と問題用紙です」
「あ、ありがとうございます…………」
渡しされた紙をの内容を見て、俺は思った。
全然読めねぇ…………何語だよ。普通に日本語で書けよ。
余裕でなれるそう思ったさながら、筆記試験。もちろん、俺が勉強しているわけがなく、さらにそもそも言葉が読めない。
絶望的な状況の中で、ガルル教官が言葉を据える。
「もし、文字が読めなければ、支給されている虫眼鏡を使ってくれ」
「そ、そんなのがあるのかよ。そういえば、会場に入るときに渡されたっけ」
虫眼鏡を取り出し、問題用紙にかざすと、文字が読めるではありませんか。
筆記試験が終わり、点数が出るまでお昼休憩の時間を迎えた。
俺はティナからもらったお金でお昼ご飯を済ませ、試験場でだらだらと結果が出るのを待つことにした。
そして、ついに二次試験の結果が発表された。
「やっぱり、残ったね」
「そうだな」
教官は定員3名、そのうち5人が生き残った。テルとアクトそして一次試験で暴れていた3人。
この中から3名だけが教官になれる。
「残った優秀なお前たちには最後の三次試験を受けてもらう!内容は…………タクトの討伐だ!この闘技場に三体のタクトを放つので、その3体を誰よりも早く1体を倒せばそいつは合格だ。それでははじめ!!」
ガルル教官の声を合図に空からタクトが3体降ってきた。
「へぇ…………ちゃんと実力も見るんだな」
「そうりゃあ、戦士兵を育てる教官を選別するわけですし、実力も見ますよ」
「それもそうか…………てかこれ、協力する意味なくない?」
「たしかに思ったより早く試験が最終試験になってしまったので仕方がないですね…………とりあえず、アクトさんからどうぞ」
「やけに腰低めじゃないか」
「いえ…………正直、教官になる気がないので」
「はぁ?」
「ほら、ぼさっとてしていると、ほかの人にとられちゃいますよ?」
俺とルエが話している間にほかの3人がタクトを討伐しに向かっていた。
まぁ、なる気がないなら、一人減って助かるけど、なら何で受けているんだ?何か事情でもあるのだろうかと、ルエを覗いた。
「どうかしましたか?」
「いや、なんでもない」
てか、もしタクトを一人で3体倒したら、どうなるのだろうか?そのまま一人だけ教官になるのだろうか?
ふと疑問に思い、足を止めた。
「何を悩んでいるんですか?」
「いや、三次試験の内容でちょっと疑問があってさ、もしこのまま俺が3体倒せば、残り二名はどう決めるのかなって?」
「え…………そんな非現実的なことを考えるなんて、アクトさんって結構頭悪い?」
「失礼だな。もしもの話だ」
「それについて疑問は私が答えよう」
「が、ガルル教官!?」
気配もなし突然、後ろから現れたガルル教官に俺は驚いた。
こう見えても元勇者、気配感知に自信があったのだが、あたかも当然かのようにかいくぐってきたガルル教官に驚かずにはいられない。
「もし、一人でタクトを3体倒せば、教官以上の地位が与えられるだろう。そしてそいつを抜いた3人をまた選定する。これで答えになったかな?」
「へぇ…………その教官以上の地位ってたくさんお金がもらえる地位なんですか?」
「ふん…………何を言っているんだ。当たり前だろ」
「そっか、いいことを聞いたな」
「あ、あのアクトさん?まさかですけど」
「それじゃあ、ちょっくら、倒しますかね…………タクト三体!!」
俺は右腕を回しながら、ゆっくりと歩き出した。
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