第2話 アクトとティナの日常

ーーー神聖歴502年11月16日。


 俺はベットの上で本を読んでいた。



「いつまで、本を読んでるんですか?」


「え…………いや、暇だし」



 俺、柊アクトは現在、ティナの家で住まわせてもらっているニートだ。と言っても俺の体が回復するまでの条件で。


 ラースという街に着いた後、俺はすぐに医者の元で診察し、栄養失調と記憶喪失と判断された。



「本当に何も覚えておらんのか?」


「はい!」



 元気よく答えた。



「ふん、異常なまでの栄養失調に加えて、記憶喪失か…………ティナ少しばかりアクト殿の面倒見てやってくれんか?」


「な、なんで私なんですか?」


「ティナももうすぐ戦士兵だし、それにこのままじゃとアクト殿は外で野宿することになりかねん。それに今病室も満員でな」


「で、でも…………その」



 ほほを赤らめながら俺のほうへと視線を移し、目が合うとそらすティナはどこにでもいる普通の症状のようだった。



「それにティナは家で一人だろ?一人が二人になるとにぎやかになってきっと楽しいぞ」


「楽しい、賑やか…………わかった」


「それじゃあ、頼んだぞ」



 といった感じで、現在に至るというわけだ。


 そして気が付けばすでに1週間が経ち、最初はティナに警戒されていたが今ではある程度心を開いてくれている。



「それじゃあ、ご飯は机に置いておきますね」


「ありがとう」


「い、いえ…………それじゃあ、行ってきます」


「ああ、いってらっしゃい…………さてと、もう少し調べるか」



 俺の疑問のほとんどがティナの棚に並んでいる本で解決することができた。


 まず、魔王の戦いから500年が経っているということ。そしてこの世界にはタクトといわれる生物が存在しており、今を生きる人たちの生活を脅かしているということ。


 おそらく、この街ラースを囲う大きな壁はタクトを侵入させないための対策だろう。


 さらに一番驚いたことは歴史だ。



「七人の勇者が協力しが悪逆非道な魔王を倒し、平和をもたらした…………か」



 なぜか、七人勇者と書かれており、俺の名前がなかった。しかも、しっかりとそこには光の勇者ティア名前が刻まれていた。


 俺はいったいどこへ?てか、倒したの俺だし。



「まぁ、別にいいけどさ」



 さらに調べると今は各世界に七つの国があり、その国々が大陸を支配しているらしい。



「俺が知っているときは4っしかなかったし、まぁ増えたほうだよな。まぁ俺が知っている国名一つもないけど」

 


 結論、この世界には七人の国があり、魔王の代わりとしてタクトという敵が存在する。つまり、ただ敵が変わっただけで、現状は500年前とそこまで変わっていないのだ。


 そこで一つ喜ぶべきところは俺が孟優者である必要がないということだ。聞いた話ではすでに”タクト”に対抗する組織が作られており、住民たちを守っているとか。だからもう俺が戦う必要はない。


 つまり、普通に暮らしていいのだ。



「そうだ。もう戦い必要はない。この生き残ったこの命、平和に暮らそう」



 もう二度と平和に楽しく過ごせないと思っていた人生。だが、今こうして目の前に手の届くところにそれはある。



「問題は俺の仕事先だな」



 契約上、ティナの家に住んでいられるのは1か月、その期間までに仕事を探さないと普通に暮らすことすらできないし、最悪、飢えて死んでしまう。



「どうしたものかな…………」



 今後の人生に悩むアクトだった。


□■□


ーーー神聖歴502年12月16日。



 外では雪が降り積もり、なかなか外に出られない季節の中、俺とティナは外で剣を握り、振るっていた。



「はぁぁあああああ!!」


「おっと、危ない」



 訓練用の木剣で軽々とティナの一撃を払った。



「はぁ…はぁ…はぁ」


「そろそろ休憩しよう、無理しすぎると逆に効率が悪いからな」


「はぁ…わかった」



 契約期限が過ぎた後、戦い方を教える代わりに住まわせてもらうことになった。


 きっかけはティナから戦い方を教えてほしいと言われたところ始まり、1週間。


 基本的に教えることは戦い方と生き残るための戦術など、俺が勇者として身に着けてきたこと全般を教えている。



「ねぇ、アクト」


「なんだ?」


「はじめてあった時の見せたあれってどうやったの?」


「うん?あれっていうのは…………」


「タクトを一撃で薙ぎ払ったあれだよ」


「あ…………あ、あれね」



 あれというのはタクトを切り裂いた一撃のことだ。


 この世界の常識、今を生きる人たちはまず魔力という名の魔力回路を持っておらず、基本的に身体能力のみでアクトと戦っている。


 まぁ、一部、魔力回路を持つ人たちがいるらしいけど、それは本当にごく一部、それこそラースを統治、支配している王様は魔力回路を持っているとか。


 つまり、勇者であった俺が魔力回路を持っているのは当然として、持っていないティナがそもそも不可能なのだ。



「ティナには無理だな。あれ…………魔力使うから」


「そうなんだ…………残念。それじゃあ、戦士兵になったら、教えてよね」


「あ、ああ…………」



 戦士兵、それはタクトと戦う戦士たちの総称で、ティナは来年の3月に訓練兵を卒業し、4月に戦士兵になる。


 戦士兵になると外付けの魔力回路、【ミルウェポン】が支給され、それを使って戦うとのことだ。

 例外として優秀な訓練兵は戦士兵になる3か月前に【ミルウェポン】が支給されるようだけど、毎年大体3人ぐらいらしい。



「それはそうと、アクト。そろそろ仕事は見つかったの?」


「ギクッ…………い、いや」


「やっぱり、見つかってないんだ」


「す、すいません」


「はぁ…………このままじゃあ、私のすねをかじるニートになっちゃうよ?…………まぁ私としては別にそれでも」



 ティナは視線をそらしながら顔を赤らめたが、そんなティナにも目もくれず目の前にある現実に悲観した。



「やっぱり、仕事先は見つけないとな…………でも、見つからないんだよ!!」



 いい仕事を見つけたかと思えば、お断りされるわ。やっと仕事に就けると思えば前日につぶれるわ、で不幸の連続。


 勇者だったころはひたすら戦ってお金もらってたから、まさかここまで仕事に就くのが難しいとは。


 現実、厳しすぎるよ。



「ごほんっ!そこで、やさしいティナちゃんがアクトにいい仕事を見つけてきました」


「ま、マジで!?」


「はい、これ!」



 ティナは一枚の紙を見せてきた。


 そこには。




 【戦士兵に戦いにおける技術を教える凄腕を募集中! 未経験でも募集可能!いろんな戦いの技術や生き残るすべを教えれる人大歓迎!!合格者にはもれなく”教官”という役職をプレゼント!募集してま~~す♡】




「これ、アクトにピッタリじゃない?」


「たしかに…………」



 教えるのは苦手ではないし、それに生き残るすべならたくさん知っている。これは天職かもしれない。


 ただ、この募集要項、少しだけ怪しい気がするんだが、大丈夫だろうか。



「というわけで、明日試験だから頑張ってね」


「ああ…………うん?明日!?」


「そう」


「鬼か?」


「鬼じゃなくて天使ね?」



 こうして、俺は教官になるべく、試験を受けることになったのであった。

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