魔王との戦いで呪いをかけられ石となった勇者は――――500年後、教官になりました!

柊オレオン

序章 目覚めたら、見知らぬ地にいた

第1話 初めての出会い

ーー魔王戦線歴99年12月31日。


 この日、勇者と魔王の最後の戦いが幕を上げる。



「まさか、ここまで我を追い込むとはな」


「はぁ…はぁ…次で終わらせる!」


「ふん、くるがいいっ!!」



 勇者だけが使えるエゴウェポン【リーレ】と光の勇者ティアが所持していたエゴウェポン【フィーレ】を握りしめ、魔王ギギアに向かって駆け抜けた。


 凄まじい剣戟の末に戦いは拮抗し、戦場が火の海となる。


 光り輝く一閃が、暗く深い闇の砲撃が絶えず繰り出される中で、ついに二振りのエゴウェポンが魔王ギギアの心臓を貫いた。


 魔王ギギアは大きな巨体を地につけ、倒れ伏し、高らかに笑いながら、しゃべりだした。



「あはははははっ!ま、まさか、ここまでやるとはな、勇者アクト。だが我もただでは死なぬ」


「んっ!?」



 魔王の赤き瞳が輝き、目が合わさると、急に体が鉛のように重くなり、勇者アクトもまた膝をついた。



「な、なんだこれは…………」



 下をのぞけば、足のつま先から徐々に石化していく。


 これは、石化の呪い!?


「これで、相打ちだな」


「負けた時のことを考えていたのか」


「当たり前だ。われは偉大なる魔族の王、七代目魔王ギギアであるぞ。最悪の場合を想定してこそ、魔王だ」


「なるほど、でもそれでももう魔族は終わりだ。この先から平和で、誰も苦しまない時代が訪れる」


「ふふ、そうだな」



 魔王ギギアは笑った。

 どうして、そんな風に笑えるのか俺には理解できなかった。


 だって、魔王が死ねばきっと魔族はまともに生きられないはずだからだ。人類の敵、世界から嫌われた魔族、きっとこの先、悲惨な結末が待っている。



「さらば、勇者アクト。これは魔王としてではなく、我からの言葉だ。楽しい戦いであったぞ」



 魔王ギギアは笑いながら、塩となって砕け散った。

 人類はたくさんの犠牲をもって魔王を倒したのだが、俺は心から喜べなかった。



「はぁ…………」



 徐々に足先から石になっていく光景を見て、俺はふと夜空を見た。


 魔王が何を思ってあんなにも素直に笑ったのか、それがどうしても頭の隅に残る。魔族、それは人類と変わらない種族の一つ。


 どうして、人類は魔族だけを迫害し、忌み嫌うのか。


 その瞬間、光の勇者ティアたちの思い出が一気に思い浮かぶ。


 これが、走馬灯というやつか。



「…………ティア。俺、魔王を倒したよ。だからきっと、君の死も無駄じゃなかったよな…………でも思うんだ。本当に魔王を倒したよかったのかって」



 死ぬ間際だからか、いろんな考えが思い浮かぶ。


 ティアを殺した報い、そして魔族の未来、そんな考えても仕方がない思いをはせながら最後の生き残りである勇者アクトは石となった。





□■□


 体が鉛のように重い、重くてつぶれそうでこれが死という感覚なのか?


 しばらくすると。


 なんだこれ?


 ふと体の一部が軽くなるのを感じた。


 明らかにおかしいことに気づきながらも徐々に軽くなっていき、そして視界が突然、光に包まれた。



「うぅ…………な、なんだ」



 まぶしい光の先、視界に広がったのは荒れ果てた荒野と先に広がる森林だった。



「…………こ、ここは、どこだ?」



 周りを見渡せば、木々ばかり、建物らしきものもあるが見た目からして数百年放置されていることが見てわかる。


 地面をさすると不自然な石の破片が周りに散らばっていた。



「もしかして、呪いが解けたのか?」



 もし、そうだとしたら、この世界は魔王が倒した後の世界ということになるけど、果たして本当に呪いが解けたのだろうかと、首を傾げた。


 石化の呪いは一度かかれば解くことがほぼできず、精神がすり減り死ぬまでその苦痛が続く。


 ほんとは死後の世界なのではないのか?そう思った。


 実際に俺の服装は当時来ていた服装だし、そう考えてしまう。



「少し歩いて回ってみるか」



 と体を起こすと、妙に力が出ない。



「あ、これ、歩けるかな?」



 体に力が入らない。それどこから空腹感をものすごく感じた。



「あ…………これ歩けないわ。てか、お腹すいた」



 ぐぅ~~とお腹が鳴り、両手で押さえながら満天な空を見て、俺は悟った。


 もし、呪いが解けて運よく生き残ったとしても、ここで死ぬと。


 しばらく、空を眺めていると、ガサガサっと背後から鋭い殺気が突き刺さる。後ろを振り返り、少し集中してみると得体の知れない何かが近づいてくるのがわかる。



「ものすごい殺気だ」



 警戒態勢を取ろうとすると、力が出ず地面に両手をついた。


 あ、これ終わったわ。


 ガサガサとする音が徐々に近づき、バッ!と木々の間から飛び出てきたのは蛇のような生物だった。


 その生き物の口に大きな牙があり、むき出しにしながら襲ってきた。



「ここまでか」



 俺は死を受け入れ、そっと瞼を閉じた。



「危ない!!」



 後ろから女の子の声。


 瞼を開けると、銀色に輝く長い髪が特徴な女の子が蛇のような生物に飛びかかり。



「てりゃぁ!!」



 ぐちゃ


 蛇のような生物の頭を不思議な武器で突き刺し、耳に響くほどの声で叫んだあとその生物は息絶えた。



「はぁ……や、やった!初めて倒せたって、だ、大丈夫ですか?」


「てぃ…………ティア?」



 その容姿を見て思わずその名を口にしてしまった。


 腰まで伸びる銀色に輝く髪に、真っ白な肌、その瓜二つな容姿に思わず、ティアの姿が重なったのだ。



「いえ、私はティアではなくティナ・スターライトです。ってどこかで会ったことありましたっけ?ってそうじゃない。ここは危険なので、すぐ逃げてください!」


「あ、え………」



 だがすぐに違うことに気づいた。容姿は瓜二つだが雰囲気や口調が全然違う。


 この子はティアじゃない。でも、本当に似ている。


 すると、さらに木々の奥から近づいてくる何かを感じ取った。


「どうしたんですか?」


「音が聞こえる。それも前より数が多い」


「まさか、さっきの声で?とにかく、はやく逃げてください!私が食い止めますから!」


「そ、その…………とてもいいにくいんだけど、実は今歩けなくて」


「え…………」


「あははははは」


「あはははあ、じゃないですよ!!」



 っときれいなツッコミのあと、さっきと同じ生物3匹が襲い掛かってきた。



「もう!」



 女の子は俺を抱えって、駆け足で森の中を走りかける。



「どうして、私だけがこんな目に!!」


「ご、ごめん…………お腹がすきすぎて」


「どうして、歩けないぐらいにおなかすいてるんですか!?」


「い、いや…………ねぇ」


「ねぇじゃありませんって、このままじゃ追いつかれちゃう!!」



 それにしても、あの生物見たことがないな。魔王がいなくなった後に生態系でも変化したのだろうか?


 蛇のような生物、構造は同じだがまったくもって別の生き物だと断定できる。見た目はそっくりだが、皮膚の構造が俺が知るものと全然違うし、何より決定的なのは敵意だ。


 本能的というより意図的に襲うような、そんな殺意。これからの情報から、あれは蛇に似た何か、ということなのだが。


 それにしたって、どう見ても魔物よりもやばい生き物だ。一体、どうなっているんだ。


 しばらく、抱えながら逃げ続けるティナ。顔色からそろそろ体力の限界に近いことが見てわかる。


 このままじゃあ、完全に餌になる。


 俺は自身の手をにぎにぎする。

 


「うん、これなら…………ちょっと借りるね」


「え…………」



 俺はティナが使っていた剣をもって地面に足をついた。



「お、おっと…………」



 力が出ないからか、すぐに倒れそうになるが、足りない部分を魔力で補強すると、直立で立てるようになった。


 少しだけ魔力が残っててよかった、と安堵しながらすぐそこまで迫る生物に向かって剣を構えた。



「それじゃあ、でりゃぁあああああ!!!!」


 

 彼が剣に光が帯びる。それは魔力だった。


 ただ魔力を流しただけの剣だが、洗練された魔力操作と戦闘経験から光の一閃へ変わる。


 その振るわれた光の一閃は迫ってくる敵の装甲を豆腐のように切り裂き、周辺の木々すら切り裂いてしまった。



「思った以上に、威力が…………あ」



 バタッ


 そのまま倒れた。



「す、すごい」



 その光景に瞳を輝かすティナ。その驚く表情はすごくティアに似ていた。



「あ、あの…………」


「あ、はい!なんですか?」


「その、運んでもらえませんか?…………もう一歩も動けないんです」


「…………わ、わかりました」



 俺はそのままティナにかつがれた。


 この光景、ティアやマーリンに見られたら笑われ者だろうと、悲しげな表情を浮かべる中で、ティナが口を開いた。



「あ、あの、名前を聞いてもいいですか?」


「え、あ…………柊アクトです」


「アクト………アクトか」



 なぜ、笑っているんだ?え~と、たしかティナさんだっけ?



「とりあえず、一旦、ラースに行きましょう。そこで治療を受けられるはずです」


「わ、わかりました」



 勇者だった俺が自分よりも年下の女の子に担がれる光景はきっと誰も想像できないだろう。だからこそ、自分の現状の恥ずかしさに気づく。


 本当にティアやマーリンが見てなくてよかった。


 これがティナとアクトの初めての出会いだった。

 

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