人間道

人間道(1-1)

 部屋の前に行くと、扉の前で子犬がワンワン鳴いていた。

 時折扉に体当たりして、開けろと訴えている様に見える。

 そのままでは、先に小さな体の方に傷が付いてしまうと考えて、隙を窺って、体当たりしようとしていた体を持ち上げた。


「君が怪我をすると、琥太郎こたろうが悲しむ。しかし一体何をしてるんだ? 君は確か、地獄道の……」


 ふと扉の方を見て、感じた違和感で後退る。

 違和感の正体が臭いと息苦しさだとわかってすぐにその場から走り、近くを通ろうとしていた給仕人を止め、同じ方向へ走らせる。


 犬を給仕人に任せ、浅い呼吸を繰り返す。

 肺の収縮と膨張を急速に繰り返して、肺の機能を最大にまで引き上げると、めいいっぱい大きく息を吸い込んで、肺を最大まで膨らませたところで息を止め、扉を蹴破り、全ての窓を開け、焚かれていた物を投げ捨てた。


 部屋の真ん中で丸まっていた彼の首筋に手を当て、脈の有無を確認する。


「睡眠薬を大量に飲んで、練炭を燃やすとは。聞いていた以上の死にたがりだな……これなら、死にたい死にたいと隣で連呼してくれた方が、まだ可愛げがあるってもんだ」

「……また、死ねなかった」

「残念だが、六道の守護者になった時点で、私達は姫様からあらゆる毒物、薬物に対しての免疫と抗体を与えられているんだ。実際、眠れなかっただろう? ただ、練炭自殺とは危険な真似をする。死ぬに死ねないまま、ずっと苦しみ続けるところだったんだぞ?」

「ならいっそ、死なせてくれよ……そう何度も進言したのに、あの人は聞き入れてくれなかった。また敵襲か? 今は体が動かないんだが」

「いや。今回は敵施設の破壊と暗殺だ。君と私、そしてもう一人選ばれた。それで迎えに来てみれば、だ」

「……あんたは、確か、人間道の」

「そう。私は人間道の守護者、御法川みのりかわ美暁みあけ琥太郎こたろうから色々聞かされてるよ。少なくとも私達の前では、自殺衝動は抑えてくれよ?」

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