畜生道

畜生道(1-1)

 某月某日。

 今日も姫を狙って、何処かの国の何かの組織がやって来た。


 天道の茅森かやもり神楽かぐら、畜生道の文珠四郎もんじゅしろう琥太郎こたろうと共に――いや、もう一匹。愛犬のコロと共に敵対組織と戦闘に入る。


 飛び込んで来た敵の顔面を捕まえ、爆破。

 それでも刀を離さず、大きく振り上げて来たので頭を地面に叩き付けて再度爆破。

 完全に沈黙したところで新たな敵が後ろから走って来たが、コロが敵の脚に噛み付いて怯んだ隙に喉を捕まえ、今度は氷結させて握り砕いた。


 脚に喰らい付いていたコロは尻尾を振り、褒めて褒めてと舌を出している。

 あらたは飛び掛かって来た敵を炎熱で焼き殺したばかりのまだ温い手で、コロの頭を撫でてやった。


「可愛いだろ? 何より君に忠実なペットってのは」

「危なっかしくて、ヒヤヒヤする。付いて来るなと言ったんだが」

「それもまた、彼の忠義さ。受け止めてやりな」


 新が殺した敵の死体が、琥太郎の周囲に集まっていく。

 肉も骨も溶解して黒く染まり、ドロドロの粘着質な液体と化して一体化。

 猛毒を吐き散らす三つ首の犬へと変貌を遂げ、残存する敵へと喰らい付いて行った。


 ならばと敵の一人が琥太郎へ銃を撃つが、銃弾が届くより先に琥太郎の肩が変貌。蛙の頭と化して丸呑みにし、次に繰り出した舌で敵の腹部中央を穿ち、風穴を空けた。

 呑み込んだ銃弾が吐き出され、琥太郎の左手に収まる。


「さて、おまえらどこの回し者だ? 見たとこ、アメリカの銃と見たが」

「@*+! #@**!」

「日本語で喋れよ。日本人だぜぇ、俺は」


 爪を噛み千切り、投げる。

 すると爪は忽ち蝙蝠となって、敵に向かって飛び回る。

 すぐさま銃弾で撃たれるが撃たれた蝙蝠は分裂し、撃たれれば撃たれるほど数を増やして襲い掛かっていた。


 噛まれた敵は次々と倒れ、胃の中身を溶けた臓物と共に吐き出して死んで逝く。


「#%@***! #<*@!」

「蝙蝠に噛まれると狂犬病になるんだ、気を付けな。ま、これはそれとはまったく関係ない毒なんだが」


 などと、向こうの言葉が通じないのだから、こちらの言葉が通じるはずもない。

 彼らはひたすらに数を増やす蝙蝠の毒にやられ、一人、また一人と死んで逝った。


「新くん! 今の琥太郎には近付くな! あの蝙蝠は人間を感知出来るが、敵味方の区別は付いてない! 琥太郎に異能を向けちゃ駄目だよ!」

「面倒な……コロ、後ろは任せた」


 ワン! と良い返事が返って来る。

 灼熱と氷結の二つを混ぜ合わせ、一つの渦として自身の防壁とした新は、一瞬だが考えた。


 もしここで、自分があの蝙蝠に噛まれれば――死ねる?


「なりません」


 体の自由が、効かない。

 思考が、遅延していく。

 言葉が、他人の意識が頭に入って来る。


「それは私との盟約に反します。自ら死を選ぶ事は、絶対に許しません」

「……わかった。わかったから、拘束を解け」


 力を経由して飛び込んで来た姫の意識が、遠のいていく。

 徐々に体の自由が効いていき、乱れかけていた能力を改めて展開した新に、コロはわざわざ正面へと回り込んで吠えていた。


「大丈夫。大丈夫だから、落ち着け」


 新の脚を支えに二足で立っていたコロが、尻餅を突くように座り込む。

 頭を撫でる手、指の一本さえ動かせなかった感覚を思い出し、新は少し鬱陶しそうに舌を打った。


「全て筒抜けか……気分が悪い」

「そう言うものじゃないよ」


 渦の防壁を飛び越え、神楽が降りて来る。

 新の身に何が起こったのか察したようで、寂しそうに笑っていた。


「姫様と僕らは繋がってる。自殺、自害、自決の意思にあの方はとても敏感だ。話題に出されるだけでも嫌う。何より、せっかく拾った命だ。そう簡単に捨てるものじゃあないよ」

「……ここに来てひと月。まだ俺に生きろ、戦え、と」

「もちろん。そのために連れて来たのだからね。君はまだ、死にたいと思っているのかい?」

「わざわざ、無理までして生きる理由がない」

「そっか……寂しいな。まぁ、生きる事に何の楽しみもないんじゃあ、つまらないよね。でもいつか、生きてる事が苦しくなくなるさ。僕ら守護者は、

「それは、どういう……」

「おぉい、もう片付いたぞぉ。蝙蝠いないから、出て来ぉい」


 琥太郎の声が聞こえて、防壁を解く。

 見るも無残な肉塊となった敵の残骸が広がる中で、琥太郎の周囲だけが汚れていなかった。


「さ。早く姫様のとこ戻ろうぜ。そいつらは微生物に任せとけば勝手に分解されるから、放っておいて大丈夫だからさぁ」


 何となく触れてはいけない気がして、肉塊をジッと見つめているコロを抱き上げる。

 そうすると新も神楽に抱き抱えられて、空中へと追いやられた。


「お、おい……!」

「この方が楽だろう? 遠慮しなくていいよ」


 コロはキャンキャン騒いでいて楽しそうだ。

 が、新はいつ落とされるのかという不安と緊張で、とても楽しめなかった。今さっきまで、味方の攻撃に巻き込まれようとしていた癖に。

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