地獄道の守護者(1-3)

 畜生道の守護者の勝手により、あらたには相棒が出来た。

 ニホンオオカミの子供らしい子犬――子狼、? だ。


 毛の色は柴犬のようだが、顔立ちはどこかスッとしている。

 まだ幼いから全体的にまん丸しているが、肉球やら爪やら牙やら、体の各部位に狼の片鱗が見えるものの、ハスキーやドーベルマンとのミックスと言われても納得していそうだ。


 本当に、絶滅したはずのニホンオオカミなのか――と、そんな事は、裏社会では些事も些事。

 ニホンオオカミだろうがミックスだろうが、新が放り出してしまえばすぐに餓えてしまうだろう犬の一匹である事には違いない。


「姫様。欲しいものが決まった」

「……何ですか」

「こいつに……名前を付けてやってくれないか」


 ずっと考えたが、奪うばかりの自分には、名前を与えるなんて大層な事は出来なかった。


 名前は存在の証明だ。

 世界に根を下ろした証だと、新は少なからず思っていた。

 だから、資格がないとまでは言わないけれど、今の自分には出来ないと思ったから、お願いするしかなかった。


「自分で名前を付けてあげた方が、愛着ももっと湧くと思うんだけどな」

「誰が付けても、関係ない。誰が名付けようと、もう、こいつはこいつだ」


 一応は主だと認めてくれているのか、それともただ餌を用意しているからか。口を開けて舌を出してと息しながら足元で律義に待つ子狼に、愛着など湧かないはずもない。


 それこそ新という名前だって、自分自身で名付けた訳ではない。身勝手な親が適当に付けた名前なのだから、愛着なんて関係ない。

 それでも、自分はこの子の主として愛情を注げる。他の人より不器用で、未熟で、全然足りないかもしれないけれど、それでも、少しずつ。


「お座り」


 腰を据える。

 置かれた餌を凝視したまま、涎を垂らしそうに口を開けたまま、待つ。


「よし」


 待ってましたとばかりに貪り付く。

 余程お腹が空いていたらしい。名前より先に、まず餌だったか。


「凄い食いつきだね」


 天道、茅森かやもり神楽かぐらも驚愕の食いっぷり。

 新は何となく見下ろしていたが、そのまま何となくで小さな小さな掌で包めるサイズの頭を撫でた。


「美味いか……いっぱい食え、稼ぐのは、俺がやる。デカくなれよ、コロ」


 元気いっぱいに吠える。

 言葉を理解したのかしていないのか。


 ともかく、小さな同居人が増えた。

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