地獄道(1-5)
「
「そっか……大隊の方は問題ないだろう。
「
彼らの名は、
厭離穢土で起こる全てを伝える情報伝達部隊。
未だ試用期間中の新を除き、全ての守護者に配備される。
部隊全員の人間が空中歩行と長時間無酸素運動能力を持ち、情報を記録、記憶する特殊部隊である。
そんな部隊所属の一人が記録する。
新しく守護者となった男の戦闘記録。佐藤新の実力を。
「死ね……!」
風切り音に霞むほど小さく吐き出された殺意と共に繰り出された明白かつ巨大な殺気を、紙一重で避ける。
繰り出された横薙ぎ一閃を四肢を突いた低い体勢で躱し、大男目掛けて真っ直ぐに跳躍。
甲冑で守られていない下顎を打ち抜きながら垂直に跳び上がり、兜を足蹴に更に跳び上がって、繰り出した踵を脳天に叩き落した。
二度の大きな衝撃で、大男は両膝を突き、戦斧を突き立てた形で辛うじて耐える。
脳が揺さぶられた事で世界が歪み、大男の世界はわずかの間ながら溶けていた。
そんな大男の顔を鷲掴んだ新の右手が、赤く光る。
「死ね」
大男よりも小さく、しかし腹の底に響くような声音に籠めた殺意が右手に伝わり、炎となって爆ぜる。鷲掴みにしている大男の顔面を焼き焦がし、兜を木っ端微塵に吹き飛ばした。
それでも一撃では終わらず、大男は未だ脳震盪も続いているだろう状態で立ち上がり、無理矢理に戦斧を振り回して距離を離す。
「やるじゃないか、佐藤君」
「……殺せなかった」
焼け焦げた自分の顔を触る男の、指と指の間から見える目は、より濃厚な殺意を宿して燃えていた。
今の大男には、姫様云々など関係ない。
目の前の自分の顔を焼いてくれた青年を、どう殺そうかばかり考えている事だろう。
新自身、そうだった。
無気力だった自分の中で何かが燃え始めた時、どう殺してやろうかとばかり考えた。
そういう視線に対して父はより激昂し、母を含む他の家族はわずかばかり臆した。
後者の人間には、正直興味はない。他の家族を殺したのは、父を殺したついでのようなものだったから。
だが、前者の人間なら話は別だ。
戦意程度なら無視して流す。が、殺意を向けられれば殺意で返す。
だが、最低限の生活と衣食住を保証して貰えて、役目まで与えて貰えている以上、返す義理はあるだろうくらいには思っている。
でも自分は何もして来なかったから、何もさせて貰えなかったから、何も出来ない。
だからせめて、自分に向けられる殺意の全てを――
「殺す」
「俺の台詞だクソガキがぁっ!!!」
高々と大男の頭上まで掲げられ、振り回される戦斧が風を切る。
大男はそれを投げ、新は前に跳ぶ事で避けたが、戦斧の柄と男の籠手は鎖で繋がっており、鎖を引くと未だ宙を飛ぶ戦斧が物理法則を無視して返って来て、反射的に横へ跳んだ新の爪を掠めた。
大男はそのまま鎖を持ち、馬鹿力を誇示するが如く頭上で戦斧を振り回し始めた。迂闊に接近すれば、巨大扇風機状態の戦斧で両断される。
「どうした?! 掛かって来いよ!」
だがそれは無理だ。
大男はそう思いながら挑発していた。
(火力は相当……だが、おそらく触れているものしか燃やせない……! わざわざ接近戦を仕掛けて来たのがその証拠。こっちはリーチの差を生かし、距離を取り続け、あいつのスタミナが切れるまで動かし続ける。んでもって、動きが止まったところを……)
唇が焼け落ち、剥き出しになった歯茎を歪めて笑う。
が、大男の予想は次の瞬間に劫火と共に吹き飛んだ。
新が地面を叩いた右手が光った瞬間、地面を伝った熱が大男の足下で爆発。螺旋を描く灼熱となって燃え上がり、大男の全身を焼き尽くした。
甲冑がより熱を集め、中身が早々に蒸し焼きにされた大男の体から馬鹿力が削がれ、振り回されていた戦斧が死にかけだった大男の上から落下。見るも無残な姿に押し潰す。
その光景を見た新は深く息を吐いて。
「スッキリした」
殺意に満ちた眼差しが消え去った事に、安堵を覚えていた。
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