第186話 女はすぐにしゃべる


 翌日、朝早くに起きて朝食を食べた俺達は準備をし、ターブルの町の宿屋に転移した。

 そして、宿屋を出て、門のところに向かうと、門の前にはすでにメレルが外壁に背を預けて待っていた。


「よう、早いな」

「遅刻厳禁なんですよ」


 元軍人だからかな?


「じゃあ、早速だけど、行くか」

「ええ。こっちです」


 メレルがそう言って歩き出したので俺達も続く。


「良い案は浮かんだか?」


 歩いていても暇なのでメレルに昨日から悩んでいるであろうことを聞いてみた。


「ええ。あなたはこの度の作戦で死にました。そういうことにしようかと……」


 俺、死んじゃった。


「スヴェンが信じるかねー?」

「そこは私の口八丁手八丁です。きっと信じてくれるでしょう」


 微妙……


「まあ、俺としては面倒だからそうしてくれた方が良いな。それとちょっと聞きたいんだけど、いいか?」

「どうぞ。どうせゾンビも出ないから暇ですしね」


 ん?


「出ないのか?」

「そういう魔よけの道具を買いました。ちょっと高いですけど、時間がないので必要経費です。後で請求します」


 そういう道具があるのか。


「なあ、この大陸ってゾンビしかいないのか?」

「そういうわけではありませんよ。夏にはもっと草木も生えますし、動物もいます。ただ冬になるとご覧の有様です。魔大陸は私達魔族が住んでいるから魔大陸と呼ばれていますが、昔は死の大陸と呼ばれていました。人が住むには適していないからですね」

「その辺の歴史がわからんな」

「そういえば、転生者でしたね。聞きますか? 多分、私達に伝わっている歴史と人族に伝わっている歴史は異なっているでしょうけど」


 気になるな。


「聞きたい」

「では、せっかくですのでお話ししましょう。多分、これは一緒でしょうけど、私達魔族も昔はあなた方の大陸に住んでいました」

「それは聞いたな」

「はい。ですが、争いがあった。どういう風に聞いていますか?」


 えーっと……


「魔族は魔力が高いうえに凶暴で残酷なところがあって、それで他種族とぶつかったんだろ?」

「そうですね。それは間違っていません。ですが、人族は我らが戦争を仕掛けたと教えています」


 そう言われたのでリアーヌとアリスを見ると、2人共、頷いた。


「違うのか?」

「我らは人族の十分の一もいないんですよ? 勝てると思います?」

「思わんなー」


 確かに魔力が高いが、全員が全員、戦えるわけではないし、さすがに10倍の戦力は無理だ。


「でしょう? じゃあ、なんで戦争が起きたか……迫害ですね。それがひどくなりすぎたんです。詳細は言いませんが、人の行いではありません」

「あり得るなー」


 人はたかが外れると人ではなくなり、心が妖になる。


「それで追い詰められて戦争です。でも、負けました」

「それが事実か?」

「それはわかりません。当然ですが、こちらはこちらで誇張しているでしょうしね」


 お互いが都合の良いように改変するか……

 それが歴史だ。


「ふーん……戦争に負けて、この地か……」

「ですね。最初は苦労したみたいですよ。雨が少なく作物はロクに育たない。動物も少ないうえにゾンビだらけ。大変でしたでしょうねー」


 他人事だ。

 いやまあ、大昔の話か。


「どうやって生活をしたんだ?」

「海があり、そちらの方は豊かだったのが幸いしました。魔族の主な産業は漁業なんです。そうやって海軍が強くなり、この度、侵攻しました。まあ、それでも人族の海軍の方が強いんですけどね」


 そう言ってたな。


「軍が政治の主導を握っているのか?」

「うーん……というよりも政治がないんですよ。魔族って力こそが絶対みたいなところがありましてね。各村が好き勝手やっているんですよ」

「そういえば、ここより南の村で襲われたな」

「でしょうねー……旅人なんていい獲物ですよ」


 やはりロクな村ではなかったか。


「軍は放置か?」

「遠いですし、色んなところに小さい集落がポツポツあるだけですからね。はっきり言えば面倒だし、それに見合うものがないんですよ」


 取り立てるのものがないのか。


「なるほど」

「軍が統治しているのは私が渡した地図に描かれている各漁港ですね」

「さっきのターブルの町は?」

「冒険者という名のならず者が強いんですよ。面倒です」


 そういうことね。


「弱肉強食な感じだな」

「ですねー。まあ、魔族はそういうものですし、政治をするだけの数もいなければ、それに見合う価値がないんですよ」


 不毛地帯だしなー……


「でも、軍部が力を持っているんだろ?」

「ええ。軍って名乗ってますけど、元はルドーの町を支配していた自警団を名乗っていた賊ですよ」


 そういえば、あの東の遺跡で襲ってきたドミクなんかそんな感じだな。


「へー……でも、力を付けたんだな」

「ですね。急速に力を付けました。そのきっかけが数年前です」

「何かあったのか?」

「ええ。当時の自警団の団長が代わったんですよ」


 親玉が代わって組織が変わるのはよくあることだが……


「どうやって代わったんだ?」

「当時、その団長の部下だった男が団長を殺したんです」


 今までの話を聞く限り、なんとなく、そうじゃないかなーとは思っていた。


「そいつが今の親玉か?」

「はい。その男はフォルカー・デイヴィスという名で首狩りフォルカーと呼ばれていました。今は将軍を名乗っています」


 首狩り……

 物騒なあだ名だなー……


「将軍ってことはそれで自警団から軍か?」

「はい。フォルカーはその武や残虐性もすごかったですが、それ以上に特殊なアイテムを持っていました」


 特殊……


「スタンピードを起こす鏡か?」

「ですね。その他にも私が持っていた魔法封じの護符とかです」


 魔法封じ?


「なんだそれ?」

「えーっと……」


 メレルがチラッとアリスを見た。


「…………この人が私達を襲ってきた時に持っていたやつ。おかげで私達は完全に無力化した」


 あー、そういえば、そんなこと言っていたな。


「あれは軍の命令だったんです。恨まないでくださいね」


 本当か?

 独断専行のような気がするんだが……


「まあいい。そんな特殊なアイテムを持っていたわけか」

「ええ。出所は不明です。今回の作戦でも例の鏡を使ったようですし、一体何をいくつ持っているのやら……」


 なんか面倒そうな敵だな。


「そいつのおかげで軍が台頭し、攻めてきたわけか」

「ですね。私も会ったことがありますが、怖いですよ。すぐにスヴェン様が庇ってくれたのでスヴェン様の影に隠れました。その時にホレたんですよ。聞きます?」

「そこは聞かないし、興味ない」

「そうですか? その後にお礼を言ったんですけど、俺のそばから離れるなって言ってくださったんです。いやー、かっこよかったです」


 いや、興味ないっての。


「その話はもういいぞ」

「これから本番なんですけど……」


 いや、何のだよ……

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