第187話 曇りなき眼


 メレルに話を聞きながら歩いていると、腹が減ってきた。


「そろそろ昼食にしましょうか」


 メレルはそう言うと、敷物を敷いて座り、どこからともなく干し肉を取り出してかじりだした。


「どうひたんでふ? たへないんでふか?」


 メレルがもぐもぐと食べながら聞いてくる。


「いや、俺らはちょっと家で食ってくる」

「はひ?」


 メレルが食べながら首を傾げたが、無視してリアーヌに触れた。

 すると、AIちゃんとアリスもリアーヌに触る。


「じゃあ、飯を食ったら戻ってくるから待ってろよ」

「何を言って――」


 メレルがしゃべっている途中だったが、視界が変わり、部屋に戻ってきた。

 部屋ではナタリア、アニー、リリーの3人がコタツに入っており、俺達が帰ってくると、すぐに昼食を持ってきてくれる。

 俺達はそれを皆で食べだした。


「ゾンビが出ないし、午後からはそこまで人がいなくてもいいな」


 メレルの持っている魔よけってすごいわ。


「そうですねー。私とユウマ様で十分でしょう」

「私は行きますよ! 私はマスターと一緒です!」


 リアーヌが同意したが、AIちゃんが文句を言う。


「お前、私とユウマ様を2人きりにしようとは思わんのか? いつもくっつけようとするくせに」

「いや、メレルさんがいますよ」

「……そういえばそうだ。チッ!」

「色ボケロリババアですねー……」


 ひどいあだ名だなー。


「アリス、お前は休んでいいぞ」

「…………わかった。気を付けてね」

「ああ」


 俺達は昼食を食べ終え、食後のお茶を飲み、ゆっくりすると、再び、魔大陸に転移した。


「あ……」


 魔大陸に転移すると、膝を抱えたメレルと目が合う。


「待たせたな。ほい、おみやげ」


 そう言って、リンゴを投げると、メレルが受け取った。


「えーっと、どこに行ってたんです?」

「セリアの町の俺の部屋だな。昼食を食ってた」

「お茶も飲みました」


 AIちゃんが補足する。


「はい? あれ? 眠そうな顔したちびっ子メイジは?」


 アリスのことだろう。


「ゾンビが出ないし、置いてきた。そんなに人数はいらんだろう」

「えーっと……あれ? 帰れるんですか?」

「俺は転移を使えるんだ」


 リアーヌとは言わない。

 狙われる可能性があるし。


「転移……え? ヤバいような……軍隊を転移させたら……」


 メレルがぶつぶつとつぶやいている。


「どこの国もこんな大地は興味ないだろ。攻めてこなければそれでいい。そういう不可侵条約だっただろ」

「ま、まあ、そうですね……しゃり、もぐもぐ……美味しい」


 メレルがリンゴを食べだした。


「行こうぜ」

「ほうでふね……」


 メレルは口をもぐもぐさせながら立ち上がると、敷物をしまい、歩き出した。

 そのまましばらく歩いていると、メレルがリンゴを食べ、芯だけとなったリンゴをじーっと見る。


「どうした?」

「リンゴ、ありがとうございます。この甘い果物もこの地には実らないんです。以前、セリアの町近くの森で潜伏していましたが、本当に豊かでした。動物も多く、果物も多い」

「移りたいか?」


 そう聞くと、メレルが首を横に振った。


「いえ……迫害が怖いです。私が町に行ったらパニックでしょうし、確実に殺されます」

「お前は偽造魔法があるだろ」


 かなりのもんだ。


「確かに自信がありますが、あなたみたいな転生者を始め、特殊な力を持っている者もいます。バレた時のリスクが怖いんですよ。だったらこの地で平和に生きた方が良いです」


 そう考える者が大半なんだろうな。


「平和は一番なのは確かだぞ」

「そうですね……あっちの大陸に帰れるんですっけ?」

「ああ……」

「お金を払うんで種を買ってきてくれません? 乾燥とかに強そうなやつ」


 そう言われても知らんぞ……

 詳しそうなのは薬師のアニーか森に住んでいたリリーか。

 聞いてみるかね。


「金はいらん。通貨が微妙に違うだろ」

「そうでしたね……では、情報を一つ。そっちの大陸に内通者がいるっぽいですよ。フォルカーはそいつから情報を仕入れているようでした」


 そう言われたのでリアーヌを見る。


「叔父上に伝え、すぐに調べさせます」


 リアーヌが頷いた。


 そこからさらに歩いていくと、徐々に日が落ち始めた。


「そろそろですかねー……」


 メレルがそうつぶやくと立ち止まる。


「今日はここまでか?」

「ええ。疲れました……あなた方は帰るんです?」

「野宿は嫌だ。寒いし」

「私も寒いですよ……」


 メレルはそう言うと、敷物を敷いて座った。


「それで過ごすのか?」

「ええ。寝ます」


 死なないかな?


「大丈夫か?」

「軍にいた時は野宿なんて当たり前ですよ」


 マジかよ。


「一泊くらいなら泊めてやるぞ」

「お金がないんでいいです。それに私は心に決めた人がいるので……」


 スヴェンか?


「身体なんか要求せんわ。俺の部屋、女しかおらんのだぞ」

「それはそれでどうなんでしょう? いや、人の趣味はそれぞれですけど……」

「いいから来い」


 明日の朝に戻ってきて冷たくなってたら目覚めが悪いわ。


「好意に甘えるか……死んだお婆ちゃんも女の特権を利用しろって言ってたし」

「なんだそれ?」

「男は女に甘いってことです。あなた、私が男なら絶対に誘わなかったでしょう」

「当たり前だろ」


 なんで女のたまり場になっている俺の部屋に男を泊めなきゃならんのだ。

 自分で何とかしろ。


「この人、すごいな……まったく目に曇りがない」


 俺は誠実なんだよ。

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