第185話 おー……


 メレルとスヴェンは恋仲らしい。

 そういえば、軍を辞めて、反軍部の組織に入ったのにスヴェンを様付けしてるな……


「へー……お幸せに」

「どうも。私も質問じゃないから答えなくてもいいんですけど、スヴェン様ってかなり強いんですよ。どうでした?」

「次にあいつが来たらお前は彼氏を失うことになるな。可哀想に……」


 恨むなら自分の彼氏を恨んでくれ。


「そ、そうですか……うーん、止める? でも、スヴェン様ってプライドが高いからなー……」


 メレルが悩み始めた。


「質問は?」

「思いついたら聞きますのでそちらがどうぞ」


 それどころではないらしい。


「北のルドーまではどれくらいかかる?」

「歩いて2日、馬車で1日ですね」


 結構近いな。


「検問が厳しいらしいが、お前はどうやって潜入するんだ?」

「検問が厳しいのは外部の者だけなんですよ。内部の者は調べません。ですので、見回りの兵を始末して、そいつに化ければ簡単です」


 なるほどな。


「援軍があるっていうのは本当か?」

「それはわかりません。私も先程、話をしているのを盗み聞きしましたので……ルドーで仲間と合流してから確かめます」


 真偽はわからんか……

 だが、あると考えた方が良い。

 やはり時間はかけられないな。


「わかった。メレル、俺達もルドーに向かうから案内しろ」

「あー……まあ、そっちの方が私達の作戦も上手くいくとは思うんですけど……」


 メレルが言い淀む。


「何か不満か?」

「私達は魔族であなた達は人族でしょう? 協力するのはどうかなーっと」

「メレル、俺とお前の違いはなんだ?」

「性別」


 まあな……


「俺には俺達とお前達にそんなに差があるとは思えん」

「ですかねー? そのカテゴリーにあなたを入れたくはないですけど」


 一言多いんだよ。


「俺の仲間にエルフがいるがまったく変わらんぞ。耳が長いくらいだ。お前らも肌が青白いくらいにしか思えん」

「魔族は凶暴なんですよ」

「そうか? お前は凶暴には見えん」


 普通だ。


「そういう傾向にあるってだけで色んな人がいますよ。人族は臆病ですけど、勇ましい人もいるでしょ?」


 やはりその程度だ。


「ならば問題ないだろう? 種族に捉われず利害が一致したならば協力すればいい」

「うーん、まあ……」

「言い方を変えれば王様に打診したように利用すればいい。俺もお前を利用する」


 そんなもんだ。


「じゃあ、まあ……案内すればいいですかね?」

「そうだな」

「あのー……一つ言っておきますけど、ルドーの町であの化け蜘蛛とか出さないでくださいよ? あれを出せば軍部の連中をどうにかできるんでしょうけど、ルドーには普通の町人も住んでいるんです」


 出さんわ。


「罪のない人は殺さんし、町に被害が出るようなことはしない」

「頼みますよ……えーっと、いつ出発します? 私は明日には出ようと思っていたんですけど」

「明日でいい。歩きか?」

「馬車を借りようと思っていたんですけど、ルドー行は誰も貸してくれませんでした。徴発されると思ったみたいですね。それで歩きです。さすがに飛ぶわけにはいきませんから」


 飛べば目立つもんな。


「じゃあ、それでいい。明日の朝、門のところで集合な」

「わかりました。では、私はこれで失礼します。おやすみなさい……うーん、スヴェン様をどうしようかなー……」


 メレルは悩みながらも部屋から出ていった。


「俺達も帰るぞ」

「わかりました」


 俺達はリアーヌの転移で部屋に戻る。

 すると、皆がコタツに入って待っていたので俺達もコタツに入った。


「どうだった?」


 コタツに入り、一息つくと、ナタリアが聞いてくる。


「メレルに会ったわ。それで明日からあいつの案内でルドーを目指す」

「あー……あの人か。この前まで王都にいたのに早いね」

「飛べるらしいからな」


 逃げ足も速かったし、行動力がある奴なんだろう。


「軍が駐屯しているんだっけ?」

「そうそう。かなり厳重らしい」

「じゃあ、その人と行けば、ルドーに入れる感じ?」

「ああ。そういうのが得意な奴らしい」


 隠密行動が主だろうな。

 俺が気付けないくらいには魔力を消せるし、偽造魔法もすごい。


「ユウマ、明日は誰が行くの?」


 珍しく起きて話を聞いていたアニーが聞いてくる。


「ルドーに着いたらまた考えるが、今日、このメンツでメレルと話したし、このメンツで行く。お前らは待機な」

「まあ、そうね。リアーヌの転移を言う必要もないし」


 あいつらには隠す必要ないがな。

 むしろ、詳細を言わずに適当に濁せば牽制になって良いかもしれない。


「その辺はまた考える。とにかく、歩きだと2日かかるらしい」

「そこそこ近いわね……了解。じゃあ、あんたらに任せるから。アリス、頑張って」


 アニーはそう言うと、寝転び、生首になる。


「…………頑張る」


 アリスは素直に頷いた。


「では、明日の朝、お迎えに上がりますのでこれで失礼します。パメラ、帰ろう」

「そうですね……タマちゃーん」


 パメラがコタツをめくり、声をかける。


「にゃにゃー?」

「今日は忘れないって。ほら帰るよー」


 タマちゃんが出てこないようだ。


「パメラさん、すごいですね。今日は覚えてたのかにゃ? って言ってましたよ」


 いや、俺もわかった。

 皆、わかるだろう。


「ほら、帰りましょう」

「にゃ、にゃー」


 タマちゃんがコタツから出てくると、パメラの腕の中に納まる。


「では、おやすみなさい」

「おやすみー」

「にゃー」


 2人と1匹が帰ると、この日は解散となり、ナタリアとリリーも自室に戻っていった。

 なお、アリスとアニーはまだコタツの中だ。

 いつものことである。


「アリス、何かあった?」


 アニーがアリスに聞く。


「…………別に。なんで?」

「いや、珍しくやる気を見せているから」

「…………いつもやる気はあるよ」


 そうかぁ?


「ふーん……子ギツネ、知ってる?」


 アニーが起き上がると、AIちゃんを見た。


「お姫様抱っこをしてもらってましたね」


 こいつ、すぐにバラすな。


「あー、それで……昨晩、ナタリアがうるさかったもんね」


 そんなに騒いでたのだろうか?


「アニーさんもしてみます?」


 AIちゃんが提案する。


「お姫様抱っこの何が良いの?」

「え? 何が良いんです?」


 AIちゃんがアリスを見る。


「…………男の人の力強さを感じる」


 アリスがそう言いながら起き上がった。


「いや、そりゃユウマの方が力は強いでしょ。見ればわかるじゃないの」


 まあ、俺の方が大きいしな。

 当たり前だけど。


「…………ユウマ、やってあげて」


 そう言われたので立ち上がり、アニーの後ろに回る。

 そして、アニーの両脇に手を回してコタツから引っ張り出した。


「寒い……」


 アニーはそう言うが、されるがままなので片手を膝裏に回し、持ち上げた。


「おー……高い……おー……」


 アニーは床を見たり、俺の顔を見たりしながら感嘆の声をあげる。


「こんなもんか?」

「悪くはないわね。でも、よろしくない。部屋ではよろしくない」


 アニーが首を振った。


「どう見ても布団に連れ込む体勢にしか見えませんもんね」

「…………私もそう見える。まあ、主にアニーの露出が多いせいだけど」


 そう言われたのでアニーを降ろし、コタツに押し込むと、コタツに戻った。


「AIちゃんも高い、高ーいをしてやろうか?」

「子供ですねー……」


 お前、子供だもん。


「まあいいや。そろそろ寝るかな」


 眠いわ。


「そうね。私は部屋に戻るわ」


 アニーがそう言って、手で顔を仰ぎながらコタツから出る。


「…………私も寝よ。明日早いし」


 アリスもコタツから出ると、2人は部屋から出ていった。


「明日辺り、リリーにせがまれそうだなー……」

「絶対にせがんでくると思いますよ」


 だろうなー……


「別にいいんだけど、何が良いのかさっぱりわからない」

「マスターはそうでしょうよ」


 AIちゃんがわかっているような顔でうんうんと頷いたので高い、高ーいをしてあげた。





――――――――――――


新作も投稿しております。

読んでもらえると幸いです。


https://kakuyomu.jp/works/16818093087096461382


よろしくお願いいたします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る