第178話 ゾンビーヌ


 翌朝、早めに起きた俺達は朝食を食べ終えると準備をする。


「よし、行くか」


 準備を終えると、AIちゃん、リアーヌ、アニー、ナタリア、狛ちゃんを見た。


「いってらっしゃーい」

「…………頑張って」

「気を付けてね」

「にゃにゃ」


 残る3人と1匹が見送ってくれる。

 なお、パメラとタマちゃんがいるのは休みらしいからだ。


「では、行きましょうか。私に触れてください……お手」


 リアーヌはしゃがんで狛ちゃんに手を差し出すと、狛ちゃんが前足をリアーヌの手に乗せた。

 俺達がそんなリアーヌに触れると、視界が変わる。


 視界が変わった先は見渡す限りの荒野であり、遥か先には海が見える。

 自然豊かと思いたいが、周囲の地面には木どころか草の一本も生えていない。


「不毛地帯だな……」


 周囲を見渡しながらつぶいた。


「魔大陸は極端に雨が少なく、人が住むには適さないと言われています。魔族がここを嫌がり、大陸に戻ろうとする最大の理由でしょうね」


 まあ、ここに住むのは厳しいわな。

 でも、実際には住んでおり、長年、ここで生きているのだろう。


「ユウマ、どうする? というか、どっちに行くの?」


 アニーが聞いてくるが、周りにが何もないからわからない。


「ちょっと待ってろ。AIちゃん」

「はーい。えーっと……」


 AIちゃんがメレルが描いた地図を取り出す。


「どうだ?」

「うーん……ここ、どこですかね? 目印がないのでさっぱり……」


 だよなー……

 本当になにもないし。


「カラスちゃんを出そう」


 懐から護符を取り出すと、地面に投げる。

 すると、カラスちゃんがカー、カー鳴きながら現れ、空に飛びだした。

 俺達はそんなカラスちゃんを見上げる。


「うーん……上空から見ても見事に何もないですねー」


 あのドラゴンは人里から離れた場所に降ろすって言ってたが、相当、離れているようだ。


「とりあえず、北を目指して歩いてみるか……」


 目的地の港町は北にあるし、歩いていけば何か発見できるだろう。


「わかりました。では、行きましょう」


 俺達は北に向かって歩くことにし、何もない荒野を進んでいく。


「森よりかは歩きやすいけど、見事に何もないね。魔物も動物もいない」


 歩いていると、ナタリアがつぶやいた。


「だなー。寒いし、乾燥しているし、魔石の儲けは期待できないかもな」


 まあ、仕方がないだろう。


「マスター、そう言っているところ悪いですが、カラスちゃんが狼らしき生物を発見しました。距離は300メートルです」


 300メートル?

 だったら俺の探知範囲内だな。


 俺は集中して魔力を探ってみる。

 すると、確かにそのくらいの距離に微弱な魔力を感じた。


「魔物だな。でも、全然、動いていない」

「上空から見てますが、休んでいるようですね」


 ふーん……

 しかし、こんなところで魔物と出会うか……

 エサはどうしているんだろう?

 何もいないし、草食動物だったとしても草もないぞ。


「行ってみるか」

「はい」


 俺はナタリア達を下がらせると、そのまま歩いていく。

 すると、肉眼でも何かが見え始めた。


「確かにいるな……」

「ええ。でも、ピクリとも動きません。死んでいるんでしょうか?」


 死んでいたら魔力を感じないから生きているはずだが……


 そのまま進んでいくと、狼が顔を上げる。

 それを見て、俺達も足を止めた。


 狼は周囲をキョロキョロと見渡すと、俺達を見る。

 そのままじーっと見ていると、狼が立ち上がった。


「え?」

「ひっ!」


 アニーが呆けた声を出し、ナタリアが悲鳴を上げる。

 何故なら立ち上がった狼の腹部から内蔵が飛び出ていたからだ。


「なんだあれ? 誰かにやられたのか?」

「いえ、あれは……マスター! 敵性反応が増えました! 囲まれています!」


 AIちゃんがそう叫んだ直後、周囲に魔力を感じた。

 すると、周囲の地面から同じような狼が這い出てくる。


「チッ! 狐火!」

「炎よ!」

「エアカッター!」


 俺が狐火を放つと、アニーとナタリアも魔法を放ち、周囲の狼を攻撃する。

 俺やアニーの炎で燃えた狼達は動かなくなったが、ナタリアが放ったエアカッターで両断された狼はまだ動いており、這うようにこちらに向かってくる。


「ひえ!」

「あれはゾンビです! 火で攻撃してください! 狐火!」


 AIちゃんはそう言いながら狐火を放ち、向かってくる狼を焼いた。


 俺達はその後も火魔法を中心に狼を燃やしていくと、数匹になったところで狼が逃げ出した。


「追いますか?」


 AIちゃんが聞いてくる。


「逃げるにしても動きが遅い。あれは別のところにおびき寄せるつもりだろう。放っておけ」


 多分、違うところにの地面に狼が隠れているのだろう。


「ひえー……怖かったー」


 ナタリアがほっと胸を撫で下ろす。


「私もさすがにビビった。何あれ?」


 アニーもビビったようだ。

 まあ、俺もビビった。

 急に狼が這い出てくるんだもん。

 しかも、全部、内蔵が飛び出ていた。


「あれはゾンビウルフでしょう。名前は今考えましたが、狼のゾンビと考えてください」


 名前はまあ、そんなもんだろうな。


「あれがあいつらの狩りの方法なのかしら?」


 アニーがAIちゃんに聞く。


「だと思います。弱そうな1匹に獲物が群がるのを待っていたのでしょう」

「怖っ! 魔大陸の魔物は強いって聞いてたけど、狡猾すぎ」


 確かに頭が良い。


「しかし、こうなってくると、探知がきついな。何もない荒野だから探知しやすいと思っていたが、地面の中かよ……AIちゃん、地面の中も探知できるか?」

「精度は落ちますが、そこに集中したら大丈夫だと思います」

「任せる」

「はい」


 何とかいけるか。


「リアーヌ、大丈夫か?」


 やけに静かだが……


「あ、はい。すみません……ゾンビは苦手でして……」


 普通はそうだ。


「お前は狛ちゃんから絶対に降りるなよ」

「わ、わかりました」


 こりゃ、毎日は行けんな。

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