第179話 個性
俺達はその後も荒野を進んでいくと、何度もゾンビに遭遇した。
狼はもちろん、普通のゾンビもおり、魔大陸ではなく、ゾンビ大陸だと思った。
そうやって歩いていくと、昼になったので昼食を食べるために一度、部屋に帰ることにする。
部屋に戻り、コタツに入ると、アリスとリリーが昼食を持っていてくれたので食べだした。
「どうだったー?」
昼食を食べていると、リリーが聞いてくる。
「ゾンビだらけ。ヤバいわ」
「すごいよね。普通のゾンビもいるけど、狼のゾンビがすごい」
「最悪な大陸よね。リアーヌがいなかったらこういう風にゆっくり休憩もできないし、ましてやあんなところで野宿なんて絶対に嫌」
確かに……
「…………チビマス、どうしたの? 美味しくなかった?」
ご飯を作ったであろうアリスが食がまったく進んでいないリアーヌに聞く。
「いや、食欲が……」
リアーヌの顔が若干、青白い。
「…………どうしたの?」
アリスが首を傾げながら俺を見てきた。
「ゾンビが苦手なんだと」
「…………そういえば、以前、アニーと3人でエルフの森に向かった時も頑なに馬車から出てこなかったね」
3人で行った時か。
確かにゾンビが出たって言ってたな。
「リアーヌ、無理にでも食わんともたないぞ」
「は、はい……」
リアーヌがゆっくりとだが、食事を食べだす。
「リアーヌは冒険者じゃないからねー。ゾンビはきついだろうね」
リリーが同情する。
「言っておくけど、私も嫌だからね。何も考えないようにしているだけ」
そういうアニーはいつものようにご飯を食べている。
「何も考えないようにか……」
「皆が皆、ナタリアのように図太くないからね。私は普通の狼の解体も嫌よ。草をむしっている方が楽しい」
ナタリアはビビりのくせに普通にゾンビも解体するからなー……
実際、午前中も倒したゾンビを解体して魔石を回収していた。
「まあのう……」
「まあ、慣れよ、慣れ」
アニーはリアーヌを励ましているようだ。
「午後から私達も行こうか?」
「…………うん。ゾンビなら私の魔法が効果的」
そうするかなー……
数も多いし。
「じゃあ、頼むわ。パメラ、悪いけど、留守番しておいてくれ。それとも来るか?」
「ううん。絶対に行かない。タマちゃんと待ってる」
パメラが笑顔で頷く。
どうやらリアーヌ以上にゾンビが嫌なようだ。
まあ、普通はそうだろう。
俺達は昼食を食べ終えると、人数を増やし、魔大陸に向かった。
そして、ゾンビを倒しながら進んでいく。
「マスター、カラスちゃんが小川を発見しました」
しばらく歩いていると、AIちゃんが報告してきた。
「小川か?」
「ええ。小さいですね」
「わかった。そこに行こう」
「了解です。こっちです」
俺達はAIちゃんに案内され、進んでいく。
すると、確かに幅が1メートル程度の川が流れていた。
「川か……これを降っていく方がいいか?」
「そう思います。人の生活圏には水が欠かせませんし、川沿いに集落がある可能性が高いです」
だよな。
「よし、行ってみよう」
「はい」
俺達は一旦、北上するのをやめ、川の下流である西方向に進路を変えて進んでいく。
「マスター、集落らしき農村を発見しました。距離はここから1キロメートル先です」
AIちゃんにそう言われたのでカラスちゃんと視界をリンクした。
すると、確かに数十軒の小屋のような家が集まっている集落がある。
「農作業をしている人もいるな……」
畑を耕している初老の男性が見える。
上から見ているからよくわからないが、多分、魔族だろう。
「そうですね。洗濯をしている女性も見えます」
確かに見える。
こうやって見ていると、魔族も普通の人と変わらんな。
「普通の農村だな」
「どうします?」
「情報を仕入れたいからな。話を聞きに行こう。旅の者で何とかなるだろ」
旅の者で通じるかはわからないが、あんな小さな農村ならどうでもなる。
本当は大きな町で情報を仕入れたいが、その前に基本的なことだけでも知っておきたいのだ。
「ユウマ、その村に行くのは明日にしましょう。もう夕方だし、今から行って話を聞くと夜になるわ。泊まっていけとか言われたら面倒よ」
俺とAIちゃんがカラスちゃんの視界を見ながら相談していると、後ろからアニーが提案していくる。
「そうだな……善意で言ってきても悪意で言ってきてもロクなことにはならんだろうし」
どうせ家に帰るし、若い女連れで宿屋もなさそうな村に長居したくない。
「ユウマ様、今日は引き上げますか?」
リアーヌが聞いてくる。
「そうだな。ちょっと早いが帰ろう。初日で集落を見つけられたのなら十分だ」
「わかりました。では、戻りましょう」
俺はカラスちゃんを消すと、リアーヌに触れる。
すると、皆がリアーヌに触れ、転移で部屋に戻った。
部屋に戻ると、タマちゃんと遊んでいたパメラに精算を頼み、魔石を渡した。
「本当にたくさんあるわね。こんなにゾンビ?」
魔石の数はゆうに50を超えている。
「群れているからな、そんなに遭遇はしないが、一度遭遇したら数が多いんだ」
「絶対に魔大陸に住みたくないわ」
俺もだよ。
精算を終えると、ナタリアが淹れてくれたお茶を飲み、一息する。
「思ったより疲れるねー。明日はどうするの? 村に行くんでしょ?」
ナタリアが聞いてきた。
「そうだなー……大人数はやめた方が良いだろう。AIちゃん、メレルの偽造魔法ってどの程度のものなんだ? 向こうが勝手に魔族と思ってくれるって言ってたけどさ」
「姿が変わるわけではないんですが、向こうが私達を見て、違和感を覚えないって感じですね。ですので、服装なんかは普通に見えますし、目立つ人は避けた方が良いかと……」
AIちゃんがアニーをじーっと見る。
「何よ? 言っておくけど、あんたらのその和服とやらも相当だからね」
俺らは傾奇者で通るが、アニーはなー……
おしゃれでいいけど、刺激が強い。
「ナタリアでいいか?」
「いいんじゃないですかね? 私とリアーヌさんで子供枠は十分ですのでアリスさんは辞めるべきですし、リリーさんは賑やかすぎます」
目立つしな。
「ナタリア、付き合ってくれ」
「わかった」
ナタリアが頷いた。
「じゃあ、私らは待機ね。とはいえ、情報を仕入れるだけだし、すぐに出発する感じ?」
アニーが聞いてくる。
「そうだなー。一応、行けるようにしておいてくれ。情報次第だが、進むかもしれん」
正直、リアーヌの体調次第だ。
「わかった。じゃあ、私は買い物に行ってくるわ」
アニーはそう言うと、コタツから出て、立ち上がった。
「珍しいな」
「リアーヌはロクにものを食べられないでしょ。食べられそうなものを作るわ」
「そんなんあるの?」
「消化にいいものとかね。私は薬師よ? 薬を混ぜたりしてそういう食事も作れるの」
すごいなー。
薬師だけで生きていけるだろうに。
「ふーん……」
「そういうわけで買い物に行ってくる。アリス、付き合いなさい」
「…………自分が動く時は絶対に巻き込むよね」
アリスはぶつぶつと言いながらも起き上がり、コタツから出る。
そして、2人は部屋を出ていった。
「リアーヌ、良かったな」
「ええ……あいつ、怠惰な痴女じゃなかったのか……」
一応、このクランの副リーダーで面倒見の良い子なんだよ。
最近はその面影がないけども……
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