第177話 絶景


 リアーヌの転移で山の温泉に戻ると、そこには温泉に入るAIちゃん、ナタリア、アリス、パメラの4人がいる。

 なお、タマちゃんは温泉に入らず、脱衣籠で丸まっていた。


「いや、ここに飛ぶのか……」


 距離を取ろうぜ。


「あ、おかえり」

「…………随分と早かったね」

「ユウマ、子ギツネに泳ぐなって言ってくれない?」

「皆さん、ユウマさんが現れてもまったく動じないんですね…………あれ? リアーヌ様、どうされたんです?」


 3人のリアクションに呆れていたパメラが俺に抱っこされているリアーヌに気付く。


「上空はめっちゃくちゃ寒かったんだよ。ほら、リアーヌ、温泉に入れ」


 そう言いながら腰を下ろし、リアーヌを地面に降ろした。


「はい……寒い、寒い、寒い」


 リアーヌは自分の身体を抱くようにしながら震え、脱衣籠の方に向かう。


「リリー、お前も入れ。俺も向こうで入ってくるから」

「ユウマ、一人? 寂しくない?」


 寂しいよ。


「男女は別なんだよ……AIちゃん、泳ぐな。アニーにお湯がかかってるだろ」

「はーい……リアーヌさん、大丈夫です?」


 AIちゃんは泳ぐのをやめると、脱衣籠の前にいるリアーヌを見る。

 リアーヌは手先が震えているせいで上手く服が脱げないようだ。


「あ、リアーヌ、手伝うよ」


 リリーがリアーヌのもとに行ったので俺もこの前入った奥にある温泉に向かった。

 そして、服を脱ぎ、温泉に入ると、冷え込んだ身体を温める。


「あー……」


 思わず声が出るくらいに気持ちいい。

 リアーヌ程ではないが、俺もかなり冷えていたのだ。


 そのまま空を見上げながら温泉に浸かっていると、上空に何かが見え始める。

 その何かはゆっくり降りてきた。


「早いな……」


 その何であるドラゴンは地面に降りると、見下ろしてくる。


「リアーヌの転移だ。俺達はそれを使ってこの山に来ているんだよ」

「転移……だから急に現れたり、消えたりするのか……転生者だな?」


 転生者っていうのはドラゴンも知っているらしい。


「そうだ。ちなみに、俺もだ」

「お前はわかる。明らかに異質だし、人とは思えん」


 人だって言うに……


「どっからどう見ても人間だろうが」

「どっからどう見ても魔人だな」


 そもそも魔人がわからんわ。


「俺は人だよ。普通に生きて、結婚し、子供や孫と生きていく」


 そして、死ぬ。


「ふーむ……まあ、お前からは凶暴性は見えんな。せいぜいワシの平穏を乱してくれるなよ」

「乱さんわ。むしろ、お前の平穏のために魔族を追い払うんだよ」


 感謝しろ。


「それもそうだな。頑張ってくれ。ワシは寝る」


 ドラゴンはそう言うと、奥に向かって歩いていった。


「ふう……」


 俺は夜空を見上げる。

 夜空は満点の星空が広がっていた。


『AIちゃん、こっちに来い。やっぱり寂しいわ』


 リリーに言われたから余計にそう感じる。


『えー……寒いですよー……あ、いや、ちょっと待ってくださいね』


 AIちゃんは嫌そうな声を出したが、すぐに何かを思いついたように言ってきた。


「ハァ……前世の俺はどうだったのかねー?」


 嫁が12人、子供が30人以上か。

 そりゃそれだけいれば寂しくないと思うが……


『マスター、こっちに来ていいですよ、皆さん、別にいいんじゃないかなという反応です』


 それはそれでどうなのかねー?


 そう思いながらも温泉から上がると、女湯の方に向かった。

 確かに絶景だった。

 そして、温泉を満喫すると部屋に戻る。


 部屋に戻り、コタツに入ると、明日からの予定を決めることになった。


「今回もこの前と同様にそんなに大人数で行くこともないと思うんだ」

「そうね。AIちゃんの偽造魔法がどこまでかはわからないけど、人が増えればその分、バレるリスクが上がる」


 アニーが同意する。


「それと早期解決が望ましいが、焦りは禁物だ。俺はともかく、リアーヌは必須だし、無理をさせる気はない」

「いいんじゃない? 休みながら進んだ方が結果的には早いでしょうし」


 この前も休みながら進んだが、良いペースだったと思う。


「ユウマ様、馬車を使いますか?」


 馬車か……

 そっちが楽でいいが……


「いや、やめておこう。まだ、魔大陸の生活体系がわからんし、何でバレるかわからん。馬車を使うにしても向こうで手に入れた方が良いだろう」


 というか、リアーヌの馬車は王家のものだからマズい気がする。


「そうですね……しかし、通貨もこっちと同じかどうかすらわかりませんね」


 わからんな。

 とにかく交流がないから情報が少なすぎる。


「まずはそういう情報を集めることを優先しよう。極力、人との接触を避ける」

「それが良いでしょうね」


 魔物はどうかねー?


「AIちゃん、魔大陸の魔物はどうなっている?」

「私の情報ベースによると、この大陸より強い魔物がいる言われています。とはいえ、マスターの敵ではないでしょう」


 毎回、思うんだが、その情報ベースがどこから取ってきたものなんだろう?

 別にいいけどさ……


「じゃあ、そっちは問題ないな。パメラ、お前はセリアの町に残るのか?」

「ええ。私達が王都に行っても仕方がないしね。普通に受付にいると思うわ」

「冒険者も減って暇だろうな」

「今までと何も変わらないわね……」


 そういや冬休みだったな。


「わかった。魔物から採取した魔石を頼むわ」

「了解。ギルドでは精算が無理だろうからここに来るわね。ジェフリーさんにも伝えておくわ」


 確かにな……


「じゃあ、それで」


 こんなもんかね?


「ユウマ、それで明日は誰が行くの?」


 ナタリアが聞いてくる。


「お前とアニー。行けるか?」

「うん。大丈夫」

「私も」


 2人共も問題ないようだ。


「じゃあ、明日、朝食を食べたら出発しよう」


 俺達は明日の予定を決めると、解散し、早めに休むことにした。





――――――――――――


本作とは関係ないですが、別作品である『地獄の沙汰も黄金次第』のコミック第1巻が本日より発売されています。(地域によってはすでに発売されていますが)

会社や学校帰りにでも本屋に寄って、手に取っていただければ幸いです。


https://kakuyomu.jp/users/syokichi/news/16818093085842373916


本作品も含め、今後ともよろしくお願い致します。

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