第174話 やる気のない蛇
「おかえり。思ったより早かったわね」
「…………色よい返事はもらえた?」
帰ってくると、留守番していたアニーとアリスが聞いてくる。
「ああ。連れていってくれるってよ」
「おー! それは良かったですねー」
同じく留守番をしていたAIちゃんが喜ぶ。
「アニー、ドラゴンの血でどんな薬ができるんだ?」
「んー? すごいポーション」
「それは売れるのか?」
「金貨100枚で売れる」
すげー。
ドラゴンってマジですごいんだな。
「そうか、そうか。ドラゴンが血をくれるからそれを作って売ってくれ」
「えーっと、何の話をしてきたのよ?」
「魔大陸に連れていってもらえる代わりに飯を寄こせってよ。その代金で血をくれるってさ」
「あー、そういうこと……ドラゴンは殺さずに生かしておくのが正解なのか……」
俺も同じことを思った。
殺したらそれっきりだが、生かして少しずつもらうのが正しい気がする。
「そういうわけで頼むわ。それで明日の夜に魔大陸に向かうことになった。俺とリアーヌで向かおうと思う」
とりあえずは魔大陸に着けばいいし、夜だから着いたら帰るだけだ。
「私も! 私も! ドラゴンに乗りたい!」
リリーも行きたいらしい。
「じゃあ、3人な」
AIちゃんはやめておこう。
「了解。とりあえずは明日の夜までは待機ね」
「そうなるな」
まあ、お前らは朝まで待機だが、どうせ待ってくれるんだろう。
良い奴らだ。
「着いた後のことだけど、基本的にはこの前と同じでリアーヌの転移を利用する形でいいのよね?」
出発する、夕方になったらリアーヌの転移で家に帰る、翌日に昨日まで行ったところに転移し、出発する。
「そうだな。ドラゴンが人里離れたところで降ろしてくれるそうだから以前と同じような感じでいこう」
「わかったわ。じゃあ、待機ね」
アニーは頷くと、横になり、コタツに潜っていく。
アリスも同様に潜っていき、顔だけを出したいつもの状態になった。
「ユウマ様、私は王都のギルドに戻ります。明日、お迎えに上がりますので」
「あ、私もギルドに戻ってジェフリーさんに報告してくる」
リアーヌとパメラは仕事に戻るようだ。
「ああ。頼むわ」
頷くと、リアーヌとパメラは転移で帰っていった。
すると、コタツの中から子猫が出てくる。
「にゃ? にゃ? にゃー……」
タマちゃんが左右に首を振ってパメラを探すと、項垂れてコタツに戻っていった。
可哀想に……
「――ごめんねー! タマちゃーん!」
慌てたパメラとリアーヌが戻ってくる。
そして、コタツをめくり、声をかけた。
「にゃー……」
タマちゃんがへこみながら出てくると、パメラが抱える。
タマちゃんは大人しく抱えられているが、どう見ても不機嫌だし、拗ねている。
「ごめんねー……」
「すまんのう……」
2人はタマちゃんをあやしながら再び、転移していった。
「俺はちょっとレイラに話をしてくるわ」
そう言って立ち上がると、部屋を出て、階段を昇っていく。
そして、3階のレイラの部屋の前で来ると、扉をノックした。
「おーい。ちょっといいかー」
『いいぞー』
問題ないらしいので扉を開け、中に入る。
すると、レイラはベッドで仰向けで横になっており、天井を見上げていた。
「何してんだ?」
「別に……面倒なことになったなーと思っただけだ」
「魔族のことか?」
「ああ。午前中にジェフリーから呼び出されてな。各クランのリーダーに説明と協力要請があった」
ジェフリーはもう動いたか。
「どうするんだ?」
「それを考えている。でもまあ、皆の自主性に任せるかな」
お前はそう言うだろうな。
「レイラ、俺達は魔大陸に行ってくる」
「魔大陸? 敵の本拠地を叩くつもりか?」
「ああ。それが手っ取り早い」
「お前なー……異世界の国のためになんでそこまでする?」
レイラが起き上がって聞いてくる。
「別にこの世界のことはどうでもいい。問題はリアーヌだ」
「あいつか……」
「転移は戦争でこそ活躍する能力だからな」
「兵站、奇襲、撤退、潜入、暗殺……何にでも使えるし、戦争では大活躍だわな」
軍がこれを放っておくわけがない。
「あいつはそういうのは嫌なんだとさ。前世がそういう人生だったらしい」
「ふーん……生まれ持った責務だと思うがねー」
貴族の当主だったこいつがそう思うのはわかるし、まあ、俺もそう思わないでもない。
「二度目はごめんって感じだ。とはいえ、あいつは王族だからやらないといけない状況になればやるだろう」
「それはお前が嫌なわけだ」
「一族を守らんでどうする?」
「もう自分のものか……まあ、いいんじゃないか? 誰も不利益は被らんし、敵が撤退するのなら王も軍も文句はないだろう」
王様は転移を活用したいんだろうが、姪っ子の人生を考えている節がある。
普通はとことん利用すると思うが、身内に甘い王様だからなー。
「そういうわけで魔大陸に行くから緊急依頼は受けない」
「あいつらもか?」
もちろん、ナタリア達のことだ。
「そうなる。一緒に向かうことになった」
「まあ、同じパーティーだしな……しかし、見事に女を囲うな、お前……」
「別にそんなつもりはない。パーティーリーダーとしてやることをやっているけだ」
あいつら、何もしないんだもん。
「やりすぎ。おかげであんなに自立していたアニーが堕落しきっているし、お前の部屋からまったく出てこない。爛れてるなー」
それはコタツのせい。
「そんなことはどうでもいい。とにかく、俺達は参加せん。それとお前はここに残れ」
「ん? なんでだ?」
レイラが意外そうな顔をする。
「魔族はトレッタの町を落とす際にスタンピードを起こしている。この町でもまた起きる可能性がある」
「ないだろ。大蜘蛛が出てきて失敗した場所で同じことはせん。するならもっと南か西の町だ」
「王都を狙うならする可能性があるんだ。アニーが気にしている」
あとパメラもいるし。
「あー、はいはい。あいつ、地元愛が強いからなー。しかし、お前、本当に女のことしか頭にないのな」
知り合いがほぼ女なんだよ。
他意はない。
「うるさい。そういうわけだからお前は残れ。王様にも許可は取ってある」
「はいはい。興味ないし、緊急依頼だろうが、ここに残ろうが、どっちでもいいわ。他の連中にも言っておくからお前はお前で適当にやれ」
「そうする。じゃあ、任せたからな」
そう言って立ち上がると、部屋に戻ることにした。
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