第173話 お願い
リアーヌの転移で部屋に戻ってきた俺達はコタツに入る。
「王様は何て?」
コタツに入ると、アニーが聞いてきた。
「問題ないってさ。そういうわけで今回の仕事は王様から秘密任務になる」
「たいした依頼料は出なそうね」
出ないね。
「まあ、そこはいいし、期待していない。それよりも今後のことを詰めるぞ」
「そうねー……問題はどうやって魔大陸に行くのかね」
「蜂さんで行けばいいだろ」
「本当にあれで行く気? 遠いわよ?」
うーん、蜂さんって長距離を飛べるんだろうか?
「AIちゃん、どうかな?」
AIちゃんに確認してみる。
「難しいような気がします。それに飛んでいたら目立つことを考えると、夜に上陸したいですね。蜂って夜に動けますっけ?」
動けない気がするなー……
夕方だったり、リアーヌの魔法で昼間みたいに明るくなった時には動けていたが、夜はどうだろう?
「厳しいか……」
「海に落ちたらシャレになりませんからね。泳げない云々以前にこの時期は厳しいでしょう」
溺死か凍死か……
「ユウマ、ユウマ」
悩んでいると、リリーがはいはいっと手を挙げる。
「はい、リリー」
あまりにも笑顔なのでしゃべるように促した。
「ドラゴンに乗せてってもらおうよ。きっと速いよ」
あー……あのドラゴンね。
「悪くないな……」
「え? マジで言ってる?」
アニーがちょっと引いている。
「どうした?」
「いや、発想が……無理じゃない?」
「そうか? 話せる奴だったじゃないか」
随分と理性的だった。
「怖くない? 海の上で落とされるかもよ?」
「その時はリアーヌの転移で逃げればいい」
「いや、そうなんだけどさ…………頷くかな?」
そこなんだよなー。
魔族にビビっていたあいつが魔大陸に連れていってくれるかねー?
「微妙……でも、頼み方次第な気がするし、案としては悪くないだろ」
「うーん……ユウマに任せる。私はここで待ってるから」
待ってろ。
「ちょっと話をしてみるか」
頼むだけならタダだ。
「今から行かれますか?」
リアーヌが聞いてくる。
「話をするだけだからな。リリー、ナタリア、ついてこい。悪意がなさそうなお前らの出番だぞ」
裏表のないリリーと優しいナタリア。
「…………あれ?」
アリスが自分の顔を指差した。
「お前はたまに辛辣なことを言うからダメ。あのプライドが高そうなビビりトカゲとは相性が良くない」
「…………ユウマも結構ひどいよ」
俺はいいの。
「AIちゃん、お前も待ってろ」
「そうですね。なんとなく、そうした方が良いと思います」
うん。
お前、なんとなくも何もケンカ売ってたもん。
「パメラはどうする?」
「行かない」
だろうなー……
「よし、リアーヌ、行こう」
そう言って立ち上がると、リアーヌも立ち上がり、俺の腕に腕を回してくる。
「はい。リリー、ナタリア、触れ」
「はーい。親子にしか見えないよね?」
「うーん……まあ……」
リリーとナタリアがリアーヌを見ながら触れた。
「99歳と85歳だぞ! お似合いだ!」
お似合いだけど、ジジイとババアじゃん。
「リアーヌ、いいから行くぞ」
「はい。では、行きます」
リアーヌがそう言うと、視界が部屋から温泉地の山へと変わる。
「結局、ちょっとしか入ってないよねー」
「まあのう……」
「仕方がないよ。いつでも来れるし、今度にしよ」
3人は温泉を見て、入りたそうにしている。
気持ちはすごくわかる。
温まる前に上がっちゃったし。
俺達が温泉を見ていると、巨大な魔力がゆっくりと近づいてきているのがわかった。
そのまま待っていると、ドラゴンが姿を現し、俺達のもとにやってくる。
「おー、待っておったぞ。魔族はどうだった?」
どうやら気になっていたようだ。
「お前が言ってた通り、魔族が来たわ。それで北の港町が落とされた」
「あそこか……うーむ、魔族はしつこいな。しかし、落ちたのか……」
「今、それに対する軍を起こしているところだ。まあ、戦争だな」
「そうなるだろうなー……争いが好きな奴らだ。引っ越して正解だったわ」
ドラゴンは争いを好まないっぽいからな。
「それでこのままだと長引かそうなだからちょっと頼みがあるんだ」
「頼み? 何だ?」
「魔大陸まで連れていってくれ。敵の本拠地を叩く」
「お前……すごいことを言うな」
ドラゴンが呆れたような声を出した。
「この件を長引かせたくないんだ。悪いが乗せてくれるだけでいい。魔大陸に着けば後はこっちでどうにかする」
「ふーむ……」
ドラゴンが悩みだす。
「厳しいか?」
「いや、そこまで厳しくはない。もちろん、ワシが町に現れたらパニックだろうし、好戦的な魔族は襲ってくるだろう。だが、別に魔族がいないところでお前達を下ろせばいいわけだし、可能と言えば可能だ」
「そうか。じゃあ、頼む」
「うーむ、しかしなー……」
強欲なドラゴンだ。
「何が欲しいんだ?」
「食いもん。この山、居心地はいいが、食いもんがグリフォンとリザードしかおらん。不味い」
まあ、魔物だし、美味そうではないな。
「良いだろう。でも、金がかかるからちょっと何か寄こせ。売る」
「鱗でいいか? いくらでも生え変わるし」
そういや、この前の戦いで落ちた鱗がちゃんとある。
「鱗は売れそうにないから心臓……無理か。ちょっと血をくれ」
確か、アニーは心臓か血液って言ってたな。
「血? まあ、死なん程度ならいいが、どのくらいだ?」
「知らん。ちょっとでいいだろ」
「ちょっとならいいぞ」
よしよし。
これでアニーに薬を作って売ってもらおう。
それで資金を得られる。
よくわからんが、きっと良い薬ができるだろうし。
「じゃあ、それで。明日にでも魔大陸に連れていってほしいんだが、どれくらいの時間がかかるんだ?」
「すぐに着くぞ。お前らは大きな船を作って何日もかけていくんだろうが、ワシからしたらほんの目と鼻の先だ」
そんなに早く着くのか……
「できたら目立たない夜に行きたい。明日の夜でもいいか?」
「よいぞ。ワシも夜の方が目立たなくて済むからそっちの方がいい」
「じゃあ、それで。明日の夜に行くから頼むわ」
「うむ。早急に魔族をこの地から追い払ってくれよ」
そんなに魔力があり、飛行能力があるのに魔族が嫌なのかね?
「そうする。じゃあ、俺らは帰る」
「ん? 温泉には入っていかんのか?」
「それは今度」
「そうか……じゃあ、明日の夜な。ワシはそれまで英気を養うから」
ドラゴンはそう言うと、歩いてきた道を引き返していった。
「寝るだけだろ」
「まあ、良いではないですか。私達も戻りましょう」
「そうだな」
俺達は本日、4度目の転移で部屋に帰ることにした。
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