第172話 よく会いますね


 翌日、頭を持ち上げられる感覚がし、目が覚めた。


「あ、起きた。ごめん」


 目の前にはリリーの顔がある。


「なんだ?」

「枕を返そうと思って……」


 あー……確かに枕がある。


「そうか」

「うん。持って帰ってごめんね。まだ寝てていいよ」


 リリーはそう言うと、離れていき、コタツに入った。

 コタツにはすでにリリーの他にもアニー、アリス、ナタリアが入っている。


「お前ら、早いな……」

「もう昼前だよ。ユウマは大変だっただろうし、リアーヌ様が来るまで寝てていいよ。来たら起こすから」


 ナタリアがお茶を飲みながら言う。


「いや、起きるわ……子ギツネ、起きるぞ」

「再起動失敗。シャットダウンします……」


 AIちゃんはそう言って抱きついてくる。


「コタツで再起動しろ」

「そうしまーす……」


 AIちゃんは布団から出ると、すぐにコタツに潜っていった。

 俺も布団から出ると、コタツに入る。


「人のお尻を枕にしないでよ」


 どうやらAIちゃんはアニーを枕にして寝ているらしい。


『マスター、もちっとして気持ちいいでーす』


 AIちゃんがコタツ布団越しにいらない報告をしてくる。


「子ギツネ、表現に気を付けなさい。私が太っているみたいじゃない」

『すみませーん……すごく柔らかくて良い匂いがしまーす』

「何も言うなって言えば良かったわね……」


 お前ら、朝から楽しそうだな。


「はい、ユウマ、お茶」

「悪いな」


 ナタリアが淹れてくれたお茶を飲む。


「朝ご飯はどうする? もうすぐで昼だけど……」

「昼でいいわ。さっきリリーが言ってたけど、リアーヌはまだなんだな?」

「うん。朝いたけどね」


 え? いたの?


「朝、寄ってから城に行ったのか?」

「うん。朝ご飯を食べに来てた。食べ終わったら王様に話をしてくるって言って行っちゃった」


 まったく気付かなかったな。


「あいつもロクに寝てないのに大変だな。とりあえず、待つか」

「そうだね」


 俺達はリアーヌを待つことにし、外に出ず、部屋で過ごす。

 すると、そろそろ昼食にしようかという話をしていたらリアーヌがパメラとタマちゃんを連れてやってきた。


「おはようございます、ユウマ様。ゆっくり眠れましたか?」


 リアーヌがニコニコ顔で挨拶をしてくる。


「ああ。おかげさまでな」

「化粧してきてるし……」

「それは良かったです」


 AIちゃんがボソッとつぶやいたが、リアーヌは無視だ。


「まあ、座れ」


 そう勧めると、2人は定位置に座り、タマちゃんがコタツに入っていった。


「2人共、昼御飯にするけど、食べるー?」


 リリーが2人に聞く。


「いただこう」

「じゃあ、お言葉に甘えて」


 2人が頷くと、リリーがナタリアと共に部屋を出ていった。

 しばらくすると、昼食を持って戻ってきたので皆で食べだす。

 そして、食事を終え、食後のお茶を飲み始めた。


「リアーヌ、王様には話したか?」


 食事が終わったので本題に入る。


「はい。今朝より話をし、昨日の件を提案してきました」

「何て言っていた?」

「叔父上的には賛成の様です。というよりもいいのかって聞き返されました」


 まあ、国としては俺が勝手にやるだけで作戦に変更もないし、失敗したところで戦況に影響はないからな。


「お前にも手伝ってもらうことになるが、それはいいのか? ギルドの長だろう?」

「それも問題ないそうです。ケネスがいますし、冒険者を割り振りし、指示をするだけですから」


 だけか?

 冒険者の数も多いし、統制を取るのが大変そうに思えるぞ。

 まあ、ケネスは優秀なんだろう。

 頑張れ、ケネス。

 今度、奢ってやるからな。


「問題ないならいい。それでいこう」

「はい。その前に叔父上が話がしたいそうです。少しお時間をいただいでもよろしいですか?」


 直接、話をした方がいいか。


「わかった。会おう」

「では、参りましょうか」


 リアーヌが立ち上がり、手を差し出してきた。

 俺も立ち上がると、その手を取る。

 AIちゃんも立ち上がり、リアーヌの肩に触れた。

 すると、視界が一気に自室からいつもの王様の部屋に変わる。


「来たか……まあ、座れ」


 王様が座るように促してきたため、リアーヌの手を持ったまま、歩き、席につくと、手を離した。


「お久しぶりと言いたいですが、最近、よく会いますね」

「本当にな。それほど問題が多い。主にお前がこの世界に来てからだ」


 俺のせいみたいに言うな。


「私は関係ないですね。むしろ、貢献しているという自負すらあります」

「そうだな……お前はよくやっている。それで今回のことだが、魔大陸に行くというのは本気か?」


 王様が早速、本題に入ってくる。


「ええ。それが最上かと思います。ただ、その場合、絶対にリアーヌが必要になることをご承知ください」

「そうだな……リアーヌを守りたいというお前の意思も尊重するし、リアーヌは王家から離れ、お前にくれてやったからそれはいい。だが、魔大陸に行くというのは…………皆、そんな発想すらなかったわ」


 この世界の人間は魔族を恐れすぎだ。


「私は転生者ですし、魔族のことをよく知りません。何が問題なのかがわかりませんね。敵が遠征で攻めてきた時に補給路を断つという作戦は最初に浮かぶことでしょう」


 腹が減っては戦ができぬってやつだ。

 実際、メレル達のイーツとかいう組織もそれをする予定。


「まあな……可能なのか?」

「問題ありません」


 町に行って船を燃やすだけだ。

 何も問題ない。

 それよりもリアーヌの転移を戦争に活用されるのがマズい。

 一度、使ったらもう二度と今までの生活には戻れないだろう。


「そうか……悪いが、そんなに高額な報酬は払えんぞ」

「別にそれで構いませんよ。緊急依頼が安いのは先のスタンビードでわかっています。ただ、今回の任務は陛下が決めた秘密作戦ということにしてもらいたい」

「わかっている。他にこの事態でリアーヌを外す理由がないからな」


 リアーヌはもちろんだが、俺達も逃げたと思われたらシャクだ。


「それとセリアの町はレイラに任せます」

「お前らのリーダーのAランク冒険者だな? それは構わないが、大丈夫か? 正直、この前のスタンピードのことを考えると、もし、魔族がこの王都を狙い、スタンピードを起こす場合で一番可能性があるのはセリアだ」


 一度やっているもんな。

 復旧もまだだし、魔族の狙いが王都でトレッタの町に王都の軍を引きつけているという考えもできる。

 その場合、位置関係的にも怪しいのはセリアなのだ。

 もしかしたら以前のスタンピードもそれ狙いでセリアを滅ぼしておきたかったのかもしれない。


「レイラなら問題ないでしょう。陛下は王都とトレッタのことをお考え下さい」

「わかった。そちらは任せる」

「では、予定を決め次第、すぐに動きます」

「頼む」


 王様が頷いたのでリアーヌを見る。


「では、叔父上、私達はこれで失礼します」

「うむ。気を付けてな」


 俺達は王様への報告は済んだのでリアーヌの転移で戻ることにした。

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