第169話 魔族事情
「なるほどね。メレル、同盟とは何だ? そちらの真意を知りたい」
早速、本題に入ることにした。
「は、はい……同盟という言葉を使いましたが、お互いに干渉せずに生きようということです。私達は魔大陸にいますし、あなた方はこの大陸に住んでいます。このままお互いの生活をしていこうということです」
リアーヌに聞いた通りだな。
「俺の印象を言うと、お前らが攻めてきているんだろ? この前のスタンピードもそうだ」
「魔族の中にはこの大陸を奪還しようと思う者もいるのです。それが主に軍部です」
軍部か……
「まあ、軍人は戦争が仕事だし、わからんでもないな」
「そうなんです。私も軍属でしたからわかるんですが、軍人は本当に過激です。ドミクなんてその筆頭ですね」
そんな感じはしたな。
「つまり軍が暴走しているのか?」
「そうです。魔族の大半の人々はこの大陸の奪還なんて考えていません。だって、私達が魔大陸に追いやられたことなんて何百年も前の話ですし、私達には今の生活があります。確かに魔大陸は魔物も多く、作物も育ちにくいですが、生活ができないというほどではありません。リスクを負ってまで今の生活を捨てようとする人なんかいませんし、そもそも魔族のほとんどがこの大陸のことすら知らないんですよ」
そうだろうな。
どんなに苦しくても今の生活を守ろうとするのが庶民だし。
「まあ、わかる。それで軍部の暴走を止めようとする意図がわからん。放っておけばいいだろう」
「それがそういうわけにはもいかないのです。軍部は人々を煽り、この大陸の奪還を高らかに宣言したんです。それに賛同する者もいますが、それでも大半は反対というか無関心です。問題は軍部が戦争をするために民から物資を徴収し始めたことです。ただでさえ、限界の生活をしている者はこれに耐えられません。我らはそれで立ち上がったのです」
それで反軍部の組織ができたんだな……
よくあることだ。
「お前はどう考えているんだ? 元軍人だろう?」
「えーっと、特に何も……軍人は儲かりましたので貯金はありますし、生活に困ってはいないですから。この大陸を奪還するのなら勝手にすればいいですし、やめるならそれでいいです」
「じゃあ、なんでお前は反軍部の組織に入ったんだ?」
「すみません。我らはそれで立ち上がったとかかっこいいことを言いましたが、私は新参です。軍を辞めて田舎に帰ろうとしていたらスカウトされたんですよ。軍部の内情にも詳しいということで給金も良かったんで……」
こいつに思想はないな。
ほぼ傭兵だ。
軍も給料が良かったからいただけだろう。
「お前が使者に選ばれたのはこの大陸に来たことがあるからか?」
「そうです。それに私は飛べますので……」
そういや飛んでたな。
「実際のところ、お前らの組織って軍部をどうにかできるのか?」
「いやー、厳しいんじゃないですかね? 私も入ったばかりですし、組織の全容がわからないんですけど、軍に勝つって言われてもねー……ただ撤退させることはできるみたいですよ。軍が出航した港町にはすでに何人もの工作員が入っているそうですし」
本当に他人事だな。
こいつ、仕事は仕事と割り切る人間だ。
「ちなみに聞くが、スヴェンはどうしている? こっちに来ているのか?」
「あ、スヴェン様は来てないと思います。あの方は長期休暇を取り、修行中ですね。炎が効かないと言われたんで別の魔法を習得するそうです」
真面目な奴……
「なるほどねー……お前、この話が纏まったら魔大陸に帰るのか?」
「ええ。帰ってルドーの町……軍の駐屯地で軍船が出航した町ですね。そこへの潜入に加わります」
「潜入? お前、顔が割れているだろ」
「私は偽造魔法なんかも得意なんですよ。遺跡の時も私に気付かなかったでしょう? 実を言うと、あなたの結界を破ったんじゃなくて、最初からあそこにいたんですよ」
どうやって俺の結界を破ったか気になっていたが、最初から中にいたのか。
「AIちゃん」
「はーい」
俺がAIちゃんに声をかけると、AIちゃんが立ち上がり、メレルのところに行く。
そして、メレルに触れた。
「ん? 何かしら? 食べないでね」
「インストール完了」
「んー?」
AIちゃんが席に戻ると、メレルが首を傾げる。
「話を戻すと、その不可侵条約に了承すれば、お前らは北の軍を撤退させるわけだな」
「そうなりますね。もちろん、失敗したらごめんなさい。その時は自分達の力であの軍をどうにかしてください。私達的には成功した際に追い打ちをかけ、滅ぼしてくれればいい。人族の海軍の方が数も多いし、強いですからね」
「なるほどな。メレル、悪いが、少し席を外すぞ……リアーヌ、来い」
そう言って立ち上がると、リアーヌとAIちゃんが立ち上がる。
そして、テントを出た。
「ユウマ様、どう思われましたか?」
テントから出ると、リアーヌが聞いてくる。
「話の筋は通っているし、王様が言うように利用してもいいと思う。どちらにせよ、こちらのやることは変わらんからな。魔大陸なんかに攻める予定もないんだろ?」
「ないですね」
「だったら良いと思うぞ。あいつらが失敗しようともこちらには関係ないからな」
「わかりました。叔父上と相談してみます」
リアーヌが頷いたのでテントの中に戻る。
すると、大ムカデちゃんがメレルを覗き込むように見下ろしており、メレルはそんな大ムカデちゃんと決して目を合わさないように涙目で俯いていた。
あー……消してやればよかったな。
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