第170話 皆、眠そう


 俺達がテントに戻ると、涙目のメレルが俺達を見てきた。


「このムカデも連れていってほしかったわ……」

「悪い、悪い。メレル、ついでに聞きたいんだが、魔大陸ってどんなところなんだ?」


 席に戻りながら聞いてみる。


「どんなって言われましてもねー……この大陸の東にある大陸ですね。小さい大陸でこの大陸の十分の一もないんじゃないですかね?」

「ここみたいに町とかあって、色んな人が住んでいるのか?」

「ええ。そうですね。実を言うと、田舎に行けば、人族も住んでたりします。流れ者ってやつですね」


 人族もいるのか……


「争いにならんのか?」

「都会に行けば、なるでしょうけど、農作業に必死な田舎はそんな余裕はないですよ。人手が圧倒的に足りないんです」

「なるほどねー……AIちゃん」

「はーい」


 指示を出すと、AIちゃんがテーブルに白紙の紙を置く。


「ん? 何これ?」

「そこに簡単でいいから魔大陸の地図を描け。主要な港町もだ。どこから攻めて来そうなのかを把握したい」

「えーっと……」


 メレルは嫌そうだ。


「あ、適当なことを描くなよ。嘘をついたらお前を追ってでも食い殺すからな」

「え?」

「大ムカデちゃんは嗅覚に優れているんです。どこにいようと追ってきます。あと、お母様もあなたの匂いを覚えていますからどこに逃げようと無駄です」

「ひっ! か、描きます! 描きます!」


 メレルはペンを取ると必死に地図を描いていく。


「それとお前らの組織の名前は何て言うんだ?」

「イーツって言いますね」


 イーツねー……


 その後もメレルは必死に地図を描いていき、お世辞も上手いとは言えないが、かなりわかりやすい地図ができた。


「こ、こんなものかな……悪いけど、嘘云々の前に私の画力というものがあるんですよ」

「わかってるよ。これで十分だ。こうやって見ると、港町ってそんなに多くないんだな……」


 3つしかない。


「主要なのがそこってだけですね。漁業をやっている村や町なんかもありますけど、小さいから軍船はないです」


 つまり来るならこの3つからというわけだな。


「わかった。話は以上だ。遅くに悪かったな」

「いえいえ、話を聞いてもらうための使者ですからいつでも話します。まあ、さすがに眠いですけどね」

「寝ろ。俺らも帰る」


 そう言うと、大ムカデちゃんを消した


「ほっ……ムカデと蜘蛛は勘弁ですからもうやめてくださいね。本当はキツネも嫌ですけど」


 メレルは心に深い傷を負っているようだ。

 可哀想に。


「はいはい、じゃあな。リアーヌ、行くぞ」

「はい」


 俺達はテントを出ると、見張りを兵士に任せ、リアーヌの控室となっているテントに向かう。

 そして、テントに入ると、転移で俺の部屋の帰ることにした。


 リアーヌの転移で部屋に戻ると、ナタリアとパメラが起きており、俺達を見てくる。

 しかし、コタツで生首となっているアリスとアニー、掛け布団を抱くように横になっているリリーは完全に寝ているようだ。


「おかえり」

「おかえりなさい」


 ナタリアとパメラも眠そうだ。


「悪いな。魔族とやらに話を聞いてきたぞ」


 俺はそう言って、コタツに入ると、コタツの中に手を突っ込み、2つの足を引っ張る。

 すると、アニーとアリスが目を覚まし、起き上がってきた。


「あ、おかえり……」

「…………おかえりー」


 2人が目をこすると、リアーヌがリリーのもとに行く。


「リリー、起きろ。もうちょっとだけ付き合え」

「うーん……わかったぁ……」


 リアーヌの起こされたリリーは何故か枕を抱えて、定位置である席につき、コタツに入った。


「ユウマ、どうだったの?」


 皆がコタツに入ると、アニーが聞いてくる。


「まずだが、使者は例の女だった。東の遺跡で母上にビビって逃げたとかいう奴」

「あいつか……」

「…………あー、あの捨て台詞すら吐けなかった人」

「そんな人もいたねぇー……」

「あの人ってそれこそ暴走する側の人じゃないの?」


 皆がそれぞれ思い出していると、ナタリアが聞いてきた。


「軍を辞めたんだと」

「お母様と大ムカデちゃんにビビって、軍を辞めたそうです」

「まあ、気持ちはわかるけどさ……」


 ナタリアが苦笑いを浮かべた。


「それでその女は信用できそうだった訳? あんたは女のそういうのを見分けるのが上手でしょ」


 アニーが聞いてくるが、どこか含みがある気がする。


「メレルって言うんだが、そいつと話をした限り、向こうは騙す気がないと思う。というより、向こうは向こうでこっちを利用したい感じだな」

「私もそう思います。私のセンサーによると、メレルさんに悪意はなく、むしろ、ひたすらビビってました。主に後ろにいた大ムカデちゃんにですけど」


 チラチラ見てたけど、絶対に目だけは合わせないようにしてたな。


「ふーん……それでどうするの?」

「一応、この話はリアーヌから王様に伝えてもらう。それでどうするかは王様の判断だろう」

「わかった。それはそれでいいわ。私達はどうするの?」


 この件は俺達にはまったく関係ない話だからな。


「リアーヌ、俺達は冒険者だが、どうなる?」

「まずですが、緊急依頼を受けてくださる場合は王都に集合となります。それで私やケネスが軍と協議しながらどこに誰を配置するかを決めます。ユウマ様が望まれるのならば後方支援でもいいですし、前線にも行けます」


 リアーヌがギルドで一番偉いわけだからその辺はどうとでもできるわけね。


「依頼を受けなくてもいいか?」

「……まさかとは思いますが、魔大陸に行く気ですか?」


 リアーヌは予想していたようで確認してきた。

 

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