第168話 久しぶり
「魔族にねー……その魔族はどこにいるんだ?」
「王都の近くに軍が野営しており、そこにいます」
さすがに王都には入れられないか。
「今からか?」
「はい。こんな時間に申し訳ありません」
まあ、仕方がないか。
リアーヌをよく見ると、目が充血している。
この10日、ロクに寝てないんだろう。
「お前ら、ちょっと待ってろ」
話を聞いていた他の5人に言う。
「わかった」
「…………待ってる」
アニーとアリスはそう言って寝そべり、いつもの生首になった。
「気になるし、待ってるよ」
「そうね」
ナタリアとパメラも頷く。
「戻ったら起こしてー」
リリーはそう言うと、コタツから出て、布団の方に向かった。
そして、布団に入り、目を閉じる。
「おねしょすんなよ」
「しないよー……」
リリーは眠そうだ。
まあ、朝からめっちゃはしゃいでいたから仕方がない。
「リアーヌ、行こう」
「はい。触れてください」
そう言われたのでAIちゃんと共にリアーヌに触れた。
すると、視界が変わり、とあるテントの中に転移する。
テントは広く、俺の部屋くらいの広さがあり、テーブルや作業机、それにベッドまで設置されてあった。
「ここは?」
「私の控室です。魔族は別のテントですね。ついてきてください」
そう言ってリアーヌがテントから出ると、辺りは夜だから暗いが、あちこちにかがり火が焚かれており、そこそこ明るかった。
また、俺達が出てきたテントと同じようなテントもあちこちに設置されており、警備をする兵士も多い。
「厳重だな」
「魔族ですからね。こっちです」
リアーヌがそう言って歩いていったので俺とAIちゃんも続く。
歩いていると、何人もの兵士とすれ違うが、咎められることもなければ、むしろ、リアーヌにも俺にも頭を下げてきていた。
「俺を知っているのかね?」
「知っていると思います。叔父上から宝剣を賜った冒険者ですしね」
ふーん……
そのまま歩いていくと、リアーヌがとあるテントの前で立ち止まる。
そのテントの入口の前には2人の兵士が立っていた。
1人は男だが、1人は珍しいことに女だ。
とはいえ、そこそこの魔力を感じるため、魔法使いだと思われる。
「様子は?」
リアーヌが女の方の兵士に聞く。
「変わりません」
「そうか。話を聞く。お前らはここで待機していろ」
リアーヌがそう言うと、女の兵士はチラッと俺を見てきた。
しかし、何も言わずに再び、リアーヌの方を向くと、こくりと頷く。
「ユウマ様、この中に魔族がおりますので話をしてみてください」
「好きに話してもいいか?」
「はい。ユウマ様にお任せします」
リアーヌが深く頷いた。
「わかった」
「では、中へどうぞ」
リアーヌに勧められたのでテントの中には入る。
すると、テーブルにつき、お茶を飲んでいる不健康そうな青白い女がいた。
女は涼しい顔でお茶を飲んでいたが、入ってきた俺達に気付くと、目を見開いてこちらを凝視してくる。
そして、俺とAIちゃんを交互に見て、固まった。
「んー? どこかで見たことある気がするな?」
「私もありますね。東の遺跡で襲ってきたくせにお母様を相手にして、尻尾を巻いて逃げた魔族さんです」
あー、あの時に空を飛んでいた魔族の女だ。
「ど、ど、どうして、ここに!?」
女はめちゃくちゃ目が泳ぎながら聞いてくる。
「どうしたもこうしたもそれはこっちのセリフだ」
「わ、私、帰ろうかと思います! 使者は別の者にしてもらいますね!」
女は慌てて立ち上がった。
「何をそんなにビビっているんだ?」
「お母様が怖かったんでしょう」
あんな堕落ギツネに何をそんなにビビることがあるんだ?
「怖いのはお前だ! ド、ドミクを食ったくせに!」
ドミク?
あの脳筋?
食ってねーよ。
あ、いや……大ムカデちゃんが食べたわ。
俺は懐から護符を取り出すと、投げる。
すると、大ムカデちゃんが現れた。
「ひえ! 出たぁ! 食べる気だぁ!」
魔族の女が涙目で震えだす。
「座れ」
そう言いながら近づき、空いている席に座ると、AIちゃんとリアーヌも座った。
そして、魔族の女も大ムカデちゃんを凝視しながらゆっくりと座る。
「せ、せっかく軍属を離れたのになんでこんなことに……」
魔族の女が俯きながらぶつぶつと何かをつぶやき始めた。
「さて、話を聞こうか……まずはお前の名だ。答えろ」
「え? な、名前……メレルと言います」
「そうか。ちなみに、嘘をついたら大ムカデちゃんがお前を食うからな」
そう言うと、大ムカデちゃんが魔族の女の後ろに回る。
「ひっ! ほ、本名です! メレル・ハリーズです!」
メレルが怯えながらも背筋を伸ばして答えた。
「ふーん……俺はユウマだ。こっちはAIちゃん。そして、リアーヌだ」
「し、知ってます……スヴェン様を倒したとかいう……」
「ほう? スヴェンを知っているのか?」
しかも、様付け。
「わ、私は元々、スヴェン様の部下だったんです」
「だったとは?」
「遺跡でドミクが食われたのを見て、あんな風に死ぬのは嫌だと思い、軍を辞めたんです」
さっき、軍属を離れたと言っていたのはそういうことか。
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