第167話 意外
リアーヌとAIちゃんが女共を呼びに行き、しばらく待っていると、リアーヌがタマちゃんを抱えたパメラを連れて戻ってきた。
「寝てたか?」
パメラは上等な布の寝間着姿だ。
「お風呂から上がって寝ようかと思っていたところ」
「そうか。悪いな」
「いいえ。深刻みたいだしね……」
まあ、こんな時間に呼び出せばわかるわな。
「座ってくれ。もうすぐで他の連中も来るから」
そう言うと、パメラとリアーヌが定位置となっている席に座り、コタツに入る。
そのまま待っていると、他の連中も寝間着姿で続々と部屋にやってきて、コタツに入っていった。
そして、最後に髪が跳ねて眠そう顔をしているリリーがAIちゃんに連れられて部屋に入ってくる。
「なーにー? 明日でいいじゃん……」
リリーが目をこすりながらもコタツに入った。
「悪いな……リアーヌから緊急な話を聞いたんだよ」
「緊急?」
「ああ。実はな……」
先程、リアーヌから聞いた話を説明する。
最初は皆、眠そうだったが、トレッタの町が落ちたことを伝えると、完全に目が覚めたようだった。
そして、最後に緊急依頼で義勇軍を募ることが決定したことを説明する。
「ハァ……想像していた以上に深刻だわ」
アニーがため息をついた。
「リアーヌ様が全然、姿を見せないから良くないとは思ってたけど……」
「…………もう落ちたのか。てっきり町での攻防戦やその援護が仕事になるのかと思っていた」
ナタリアもアリスもある程度、悪い想像はしていたようだが、それ以上だったため、落ち込んでいる。
「リアーヌ様、明日にはウチのギルドでも公表し、通知する形ですか?」
パメラがリアーヌに確認する。
「ああ。すでに各地に早馬を飛ばしている。この町は明日の午後には着くだろうからそこから各冒険者に伝えてもらう形になる」
「冬休みに入っている冒険者はまだしも南部や西部に遠征に行ってる冒険者も多いですよ?」
「それも重々承知している。集められるだけでいいし、今回は強制依頼ではない」
ん?
そうなのか?
「え? 強制じゃないんですか?」
「ああ。それだけではなく、今回の奪還計画に各地からの援軍は求めない。あくまでも義勇軍を含む王都の軍と北部の軍で戦う」
あー……そういうことか。
「陽動の可能性があるからだな?」
「そうです……九分九厘、そんなことはないでしょうが、北部に軍を集めさせ、南部を攻めることもあり得ます」
なるほどねー。
上手だわ。
「んー? リアーヌ、なんで九分九厘ないの? 実際にトレッタの町は誘導で落とされたんでしょ? 船で引きつけておいて、スタンピード」
リリーが首を傾げながらリアーヌに聞く。
「すでにそれを一回やっているからだ。スタンピードなんて何回も起こせるとは思えんし、同じ作戦は2度もしてこない。だが、それは断言できない。その可能性を残すことで援軍を減らす作戦なんだろう。実際、私達は万が一を考慮し、他所の町を空にしてまで援軍には向かえない」
動けないわな。
町を統治する領地貴族も拒否するだろう。
「それで冒険者も強制依頼じゃないのかー……」
冒険者も同じこと。
アニーみたいな地元に根付いている冒険者は地元を優先する。
「そういうことだ」
「でもさー、それで人は集まるの?」
「集まる。幸か不幸か今は冬で依頼が少なく、暇な冒険者は多い。それに魔族の対処は全人類の課題だから人は集まるだろう」
この辺はこの世界に来たばかりの俺にはわからんな。
「そっかー……ユウマ、どうするの?」
リリーがそう聞いてくると、皆が俺を見てくる。
「ちょっと待て。リアーヌが頼みたいことがあるんだとよ。俺もそこまで聞いて、お前らも聞くべきだと判断して起こしたんだ」
「はい。これから他の者には絶対に言えないことを言います。本当はユウマ様にしか言う気はなかったんですが、こいつらも信用しましょう。ユウマ様がそのような判断をなさったわけですし、どうせ同じ穴の狢です」
AIちゃんは狢じゃなくてキツネだけどな。
「言えないこととは?」
「実は魔族から使者が来ているのです」
使者?
「取引でもあるのか?」
捕虜とか身代金だろうか?
「いえ……あ、いや、ある意味、取引なのか?」
リアーヌが考え出す。
「リアーヌ、一から説明しろ」
「そうですね……トレッタの町が落ちたという報を聞いた翌日に魔族の使者が王都近くに現れたのです。その対応には私が当たったんですが、その者が言うには今回の侵攻は一部の魔族の暴走であり、他の魔族は関係ないとのことです」
暴走?
「魔族も一枚岩ではないということか?」
「どうやらそのようですね」
まあ、人族ですら色んな国があるわけだし、魔族も似たようなものかもしれない。
「その魔族はその説明に来たのか?」
わざわざ?
「いえ、同盟の申し込みがありました」
同盟って……
「なんだそれ?」
「私も同じ気持ちです。向こうが言うにはトレッタの町の魔族撃退に協力するし、撃退後は絶対に敵対しないとのこと。というよりも、お互いに不可侵でいきたいとのことです」
うーん、微妙……
「それ、受ける価値があるか? というよりも信用できるか?」
「一応、嘘を見抜ける魔法を使って、嘘ではないと出ているんですが、我らとしては前向きにはなれませんね」
だろうなー。
誰が信じるんだよ。
「それで?」
「ただ、利用はできるのではというのが叔父上の考えです。使者が言うには同盟というか、不可侵条約を結んでくれるなら侵攻している軍が出航した港を閉鎖する、と……それで補給路は絶てますし、魔族は引き上げるしかないと言っています」
トレッタの町で略奪した物資にも限りがあるだろうしな。
ましてや、今は冬だし、北はここよりも寒い。
補給がなければいつかは撤退だろう。
「不可侵条約を結んでもこちらに不利益はない。別に破られたとしても最初から信用していないのだからこれまでと変わらないということか?」
「はい。協力して何かをするわけでも仲良くしようということでもありません」
「向こうの要求は?」
この話だと、向こうに利益がない。
「現在、侵攻している軍の撃破です。要は撤退する魔族の軍に追い打ちをかけ、確実に撃破してほしいそうです」
王国軍を海に誘う罠だろうか?
いや、せっかく町を落としたのに海に引き返す意味なんかない。
「お前はどう思っているんだ?」
「私はこういう政治はちょっと……」
そういえば、そうだったな。
「それで俺に頼みたいこととは?」
「その魔族に会っていただけませんか? ユウマ様の目から見て、どう思うかを判断してほしいのです」
魔族と会うのか……
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