第166話 悲報
寮に帰ってくると、ナタリアとリリーが昼食を作るために階段を昇っていったので俺は1人で自室に戻る。
自室ではいつもの通り、アニーとアリスが生首でコタツに入っており、AIちゃんの姿は見えない。
「うえー、寒い、寒い……ん?」
コタツに入ると、何かが当たったので見てみると、足元でAIちゃんが丸まっていた。
俺はそんなAIちゃんを引っ張り出すと、抱えるように俺とコタツの間に座らせる。
「おかえりなさい。冷たくなってますねー」
AIちゃんが見上げてきた。
「リリーがはしゃぐもんだからな」
「子供ですねー」
お前もな。
「…………今年はユウマがいてくれて良かった。去年は私が付き合わされた」
「そういえば、あんた、ガタガタ震えていたわね」
生首2人が思い出したかのように言う。
「俺も寒いよ。温泉に行きたい」
「行きたいわねー。リアーヌは何をしているのかしら?」
これだけ連絡がないということは嫌な予感しかせんな。
俺がコタツとAIちゃんで温まっていると、ナタリアとリリーが昼食を持ってきてくれたので皆で食べた。
そして、さすがに午後からは出かけずに部屋で過ごしていると、夕方になり、仕事が終わったパメラが訪ねてきたのでパメラも交えて夕食を食べる。
「パメラ、お前は何か聞いているか?」
「何も……ジェフリーさんや区長にも伝えてあるけど、何も情報が入ってこない。正直、ここまで情報が入ってこないと、嵐の前に静けさのような気がしてくるわ」
俺もそんな気がする。
「リアーヌは?」
そう聞くと、パメラが首を横に振る。
「何も。会ってもいないし、寮の部屋にも帰ってないみたい」
寮にも帰っていないのか……
「王都に行っても無駄だろうしなー」
「待つしかないと思うわ」
やっぱりそれか。
俺達は夕食を食べ終えると、まったりと過ごす。
しばらく皆で話をしながら過ごしていると、遅い時間となったのでパメラが帰り、他の連中も自室に戻っていった。
先に風呂に入っていたAIちゃんが布団を温めておきますと言って、先に寝たので俺も風呂に入った。
そして、風呂から上がると、布団でスヤスヤと眠るAIちゃんといつもの場所でコタツに入るリアーヌがいた。
「お邪魔してます。こんな夜更けに申し訳ありません」
リアーヌが謝ってくる。
「よう、リアーヌ。別に構わんが、久しぶりだな」
そう言って、リアーヌの隣に座った。
「はい。連絡もできずに申し訳ありません……色々とありまして」
だろうな。
「それで? どうだった?」
「結論から言います。魔族が侵攻してきました……そして、北の港町であるトレッタの町が落とされました」
……落ちたのか。
それにしても早くないか?
「侵攻は誤報ではなかったのか……」
「はい。私はあの後、すぐに叔父上に伝えました。そして、叔父上はすぐに北部を治める領地貴族達に早馬を飛ばしました。ですが、数日後には逆にトレッタから援軍を求める早馬が届き、急ぎ援軍を出したのですが……」
すでに落ちた後だったわけね。
「何故、そんなに簡単に落ちる? 魔族を警戒して海軍は強いと聞いたぞ」
「それが…………」
リアーヌが俯く。
「どうした?」
「トレッタの海軍は魔族の軍船を発見し、軍を総動員させ、撃退に向かったそうです。ところが、北の山から大量の魔物が押し寄せ、なすすべもなく……」
大量の魔物……
「スタンピードか……」
「おそらくは……」
軍を囮に使い、例の鏡で魔物を出したのか……?
軍を総動員と言っていたからスタンピードを防げずに町が崩壊か。
「住民は?」
「かなりの被害が出ています。逃げ伸びた人々は周囲の町に避難しているところです。出撃した海軍は近くの町に撤退し、その間に魔族の軍がトレッタに上陸したとのこと」
これはひどいことになっているだろうな……
「それで?」
「周囲の町が軍を起こし、難民を救助すると共にトレッタ奪還のために進軍を開始しました。そして、叔父上は王都から援軍を出すことを決めました」
「このことは発表するのか?」
魔族は人々のアレルギーがすごいと聞いていたが。
「公表します。もはや隠せないところまで来ていますから。明日、全ギルドに通達し、義勇軍を募ることが先程の会議で決定しました」
アニーが言っていた通りか。
「なるほどね」
「それでユウマ様にお願いがあります」
お願いねー……
「ちょっと待て……AIちゃん、AIちゃん」
スヤスヤと寝ているAIちゃんを揺り起こす。
「んっ……んー? マスターとリアーヌさん…………あっ、お邪魔でしたね。ナタリアさんのところに泊めさせてもらいます。お布団は温めておきましたのでごゆっくり」
AIちゃんは寝ぼけたことを言いながら起きてきた。
「アホ。リアーヌから悲報が届いた。女共を起こしてこい」
「え? あー、そっちですか……わかりました」
AIちゃんが目をこすりながら部屋を出ていく。
「リアーヌ、悪いが、パメラも転移で連れてきてもらえるか?」
「そうですね……パメラにも伝えた方がいいでしょう。では、しばしお待ちください」
リアーヌはそう言って頷くと、立ち上がった。
「ゆっくりでいいからな」
「はい。では」
リアーヌはそう言うと、転移し、姿を消す。
「ハァ……」
想像していたよりもずっとひどいことになっているな……
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