第162話 報告と説明


 転移で俺の部屋に戻ると、皆がコタツに入りだした。


「俺達は王様に報告に行ってくるからお前らは休んでろ」


 報告に行く気がこれっぽっちもなさそうな4人に告げる。


「そうするー」

「お願い!」

「…………いってらっしゃい」

「よろしく」


 やっぱり行く気がないようだ。

 まあ、王様に会いたいって思う庶民はいない。


「リアーヌ、行こう」

「はい」


 俺とAIちゃんがリアーヌに触れると、視界が真っ暗になる。

 そして、視界が晴れると、そこはいつもの王様の部屋だった

 王様は席についており、いつものメイドと騎士が控えている。


「……王様って暇なのか? いつもあそこに座ってない?」


 身をかがめると、小声でリアーヌに耳打ちした。


「……いえ、今日、調査が終わり次第、すぐに報告すると言ってありますから待機していたのでしょう」


 リアーヌも耳打ちしてくる。


「何をいちゃつきながら内緒話をしておるのだ?」


 王様が呆れた顔で聞いてきた。


「あ、いえ。ユウマ様がアポなしで来たことを気にされていただけです」

「そんなもんは気にせんでも良いわ。それよりも座れ」

「失礼します」


 王様に勧められたので席につき、メイドが淹れてくれたお茶を飲んだ。


「それでどうだった? ドラゴンと会ったのだろう?」


 早速、王様が聞いてくる。

 すると、リアーヌが俺を見てきたので俺が答えることにした。


「会いました。それですみませんが、戦闘になりました」

「ハァ……そうか。まあ、そうなるんじゃないかと思っていた。ドラゴンはどうした? 倒したのか?」

「いえ、私の大蜘蛛ちゃんといい勝負をしていましたが、途中で誤解も解け、戦闘は終わりました。ドラゴンは聞いていた通り、温厚ですし、争いを好まないようです」


 こう言っておこう。


「うむ。つまりはお互いに無事だったわけだな?」


 無事……だろうか?

 まあ、結構傷付いていたような気もするが……

 でも、ナタリアが治してくれたし、無事でいいか。


「はい。それで対話もできるようになりました」

「それは良かった。して? ドラゴンの目的は?」

「引っ越しらしいです。北の山に住んでいたドラゴンらしいのですが、歳のせいで寒いのが辛くなったみたいです」

「なんだそんなことだったのか……確かに西の地方は雪も降らんし、この辺よりかは暖かいからな」


 それでも寒かったけどな。


「はい。すぐにスヤスヤと寝だしましたね」

「なるほどな。しかし、なんでセリアの町を経由したんだ?」

「ちょっと迷子になったらしいです。年のせいじゃないですかね?」

「嘘くさいが、まあ、そういうこともあるかもしれんな」


 嘘だもん。

 本当はレイラの蛇のせい。


「何にせよ、これで問題ないと思います」

「うむ、わかった。ご苦労だったぞ」


 よし、終わったぞ。


「叔父上、あの山は立入禁止にすべきです」


 ドラゴンがいるとわかったら狙う冒険者がいるかもしれんしなー。


「そうだな……フォールに事情を説明した文を書こう」


 確かにあの辺を統治している伯爵さんに言っておけば問題ないだろう。


「それが良いかと思います」

「リアーヌ、お前はこのことをエルフの里の村長に説明せよ」


 そういえば、それがあったな。

 俺らも行った方がいいんだろうな。


「かしこまりました。すぐに参りましょう」

「頼むぞ。ユウマ、お前もよくやってくれた。依頼料はギルドと相談して決めるからしばし待ってろ」


 ギルドっていうかリアーヌだろ。


「わかりました。リアーヌに託してもらえばいいです」

「うむ。そうする。冬の休み中に大変ご苦労だった。ゆっくり休め」

「はい。そうさせていただきます」


 温泉に行きたい。


「叔父上、私達はこれで……」

「うむ」


 俺達はリアーヌの転移で一旦、部屋まで戻ると、今度はリリーも連れて、エルフの里の近くに転移する。

 そのまま里に入り、リリーの家に行くと、リリーの親父さんと共に村長のところに向かった。

 そして、村長さんに先程、王様に話したことを説明する。


「ふむ……ドラゴンの移住でしたか」


 話を聞いた村長さんが頷いた。


「ええ。特に害があるわけでもありませんし、そっとしておくのが一番かと思われます」

「そうでしょうな。我らもドラゴンと関わる気はありません」

「賢明です。フォール伯爵には陛下に直々に説明してもらいますので」


 手紙でだけどな。


「わかりました。そうして頂けると助かります…………ユウマ殿、この度のことを感謝します」


 村長さんが頭を下げてくる。


「いえ、仕事ですし、たいしたことはしておりません」


 大蜘蛛ちゃんが頑張っただけだ。


「それでも我らは一安心ですよ」

「それなら良かったです。リリーの一族のためなら助力を惜しみません」

「そうですか……立派な方です」


 だろう?


「でしょー?」

「マスターは素晴らしい御方なのです」


 リリーとAIちゃんが誇らしげだ。

 リリーの親父さんは微妙な顔だけど。


「リリー、お前もよくやった」


 村長さんがリリーを褒める。


「ありがとー。でも、私は本当に何もしてないけどね」

「案内をしてくれただろうが。それにやはり森でのお前は心強い」

「そう? そっかー」


 リリーが照れたように頭をかいた。


「リリー、これからも頑張りなさい」


 村長さんが頷きながら言う。


「うん! 頑張る!」


 頑張れ。


「村長。それでは我らはこれで失礼します。急いで戻って報告せねばなりません」


 もう報告は終わっているのだが、転移を言わない以上、こう言うしかない。


「さようですか……歓迎や感謝の宴を考えていたのですが、そういうことなら致し方ありません」

「ありがたいですが、事が事ですので」

「わかっています。この度はありがとうございました」

「いえ、こちらこそ、ご協力感謝します。では、我らはこれで」


 俺達は村長さんの家を出ると、リリーの両親に挨拶をし、里を出る。

 そして、ある程度歩くと、転移で俺の部屋に戻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る