第161話 日和る


 動けなくなったドラゴンは悔しそうに大蜘蛛ちゃんを見上げていた。

 すると、大蜘蛛ちゃんが動き出す。


「死ねっ!」


 大蜘蛛ちゃんが動き出すと同時にドラゴンが叫ぶと、ドラゴンを中心に爆発が起こり、周囲が一気に燃え上がった。

 爆風と炎が大蜘蛛ちゃんを襲い、大蜘蛛ちゃんがひっくり返る。


「何だあれ? 魔法か?」

「ですかねー? すごい威力です」


 AIちゃんが言うようにすごい威力であり、鉄よりも固い大蜘蛛ちゃんの足が何本か取れていた。


「ふはは! クソ蜘蛛め! ざまあみろ!」


 ドラゴンの声がしたと思ったらドラゴンが翼を羽ばたかせ、宙に浮いている。

 糸は炎で燃やしたようだが、ドラゴンの身体はあちこちが焦げており、ボロボロだ。


「マスター、あそこに金貨100枚がいっぱい落ちてますよ!」


 ホントだ!

 爆発で取れたんだろう。


「ムカつく人族の子供だな……」


 ドラゴンがAIちゃんを睨んできた。


「お前の相手は大蜘蛛ちゃんだろ」

「ふん、その蜘蛛はもうダメだ」


 大蜘蛛ちゃんはなんとか立ち上がろうとしてくるが、足が何本かないため、無理そうだ。


「マスター、もう無理ーって言ってまーす」

「まあ、そんな感じはするな」


 仕方がないので大蜘蛛ちゃんを消す。

 そして、もう一回護符を投げると、再び、大蜘蛛ちゃんが現れた。


「へ?」


 ドラゴンが変な声を出し、再び出てきた大蜘蛛ちゃんを凝視する。


 再び出てきた大蜘蛛ちゃんはちゃんと足も生えているし、傷一つないのだ。


「そいつは式神だ。いくらでも蘇る。さあ、大蜘蛛ちゃん、敵は弱っているから今度こそちゃんと拘束しろ。あ、あとでクッキーを買ってやるから食べるなよ」

「いえーいって言ってます」


 ノリの軽い蜘蛛だな……


「コホン!」


 ん?


 なんだろうと思い、ドラゴンを見てみると、ドラゴンがゆっくり降りてくる。


「どうした?」

「人の子よ。争いは何も生み出さん。ワシは温厚だし、これまでの非礼を許そう」


 あっ……


「日和った!」

「うるさい! 日和ったわけではないわ! 貴様らの勇気と誠実さは先の戦いで十分に伝わった。これ以上は不要である」


 日和ってるなー……


「ナタリア、回復魔法を使ってやれ」

「え? あ、うん」


 ナタリアが小走りでドラゴンのもとに向かったので大蜘蛛ちゃんを消した。


「クッキーって言って消えましたよ」

「後でやるよ」


 食いしん坊だなー……


 俺が呆れていると、ナタリアがドラゴンを癒し始める。


「すまんの、人の子よ。礼にその辺に落ちている鱗を持っていっていいぞ」

「ど、どうも」


 ナタリアが礼を言うと、AIちゃんが鱗を拾い始めた。


「この小娘……!」


 ドラゴンがAIちゃんを睨むが、AIちゃんはガン無視だ。


「ドラゴン、話を聞きたいんだが……」

「ん? ああ、そうだな。貴様らはわざわざこんな山に何しに来たんだ?」


 逆にドラゴンの方が聞いてくる。


「俺達はお前を追ってきたんだ。ドラゴンが飛んでいたから何かあったのかと思ってな。お前がこの山より向こうに行けば他国だから関係ないが、この国にいるなら問題だから調査せねばならん。お前こそ、何をしているんだ?」

「なんだ……そんなことか。ただの引っ越しだよ。この地には温泉があるし、ゆっくりしようと思っただけだ。ワシも歳だし、寒さがきつくてな」


 しょうもな……


「どこから来たんだ?」

「北の山だな」


 どこだよ……


「マスター、北にある山脈だと思われます。夏でも雪が積もっている山ですね」


 AIちゃんが教えてくれる。


「そこだ、そこ。まあ、寒い。ワシらは寒さにも耐えられるが、暖かい方が良い」

「北ねー……でも、お前、西から来ただろ。なんで町に寄ったんだよ」


 それさえなければ、仕事を受けることもなかった。

 まあ、暇だったし、儲かったからいいけど。


「さっき言っただろ。飛んでいたら挑発する声が聞こえたから寄ったんだ。そうしたら人里だったからやめたんだ。でも、森の中に似たような魔人がいたから文句でも言おうと思ったんだが、弱そうな小娘共が一緒だったからやっぱりやめた」


 あの時はAIちゃん、アリス、リリーがいた……

 うん、俺のせいではないな。

 やはりレイラの蛇だろう。


「レイラの蛇については謝罪しよう。あれは神様だから傲慢なんだ」

「あれのどこが神なんだ? 邪神か何かか?」

「そんなもんだろう」


 知らんけど、ロクな神じゃないのは確かだ。

 まあ、術者に似た可能性がものすごく高いが……


「チッ! やはり関わるんじゃなかったわ。ロクな目に遭わん」

「それは申し訳ない。それでお前はここに住むのか?」

「そうなるな。ここで余生を楽しむ。どうせ人も来ないだろ」


 まあ、かなり標高も高いし、エルフくらいしか来ないだろう。

 それもドラゴンがいるってなったら寄らんくなるな。


「何人かは来るかもしれん。温泉があるし」

「誰が来るんだ?」

「俺ら」

「……まあ、温泉に来るくらいなら良いだろう。寝ているワシを起こすなよ」


 起こさんわ。

 温泉は静かに入るもんだ。

 温泉で泳いで怒られた時にそう教わった。


「はいはい……リアーヌ、そういうことらしい」

「えーっと、とりあえずは問題ないということで良さそうですね。ドラゴンが引っ越しただけ。それでいいですね?」

「それでいい。報告には俺も同行しよう」


 レイラの蛇のせいとかいうと、問題になりそうだし、誤魔化そう。


「では、そのように。帰りましょうか」

「そうだな……じゃあな、ドラゴン」

「帰れ、帰れ。ワシは寝る」


 ドラゴンはそう言うと、その場で丸まるように横たわり、目を閉じる。

 それを見た俺達はリアーヌの転移で帰ることにした。

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