第160話 トカゲVS蜘蛛


 翌日、朝食を食べた俺達は再び、山の上の温泉にやってきた。


「いる?」


 ナタリアが聞いてくる。


「いるな。完全にこっちを認識してる。お前ら、絶対に俺より前に出るなよ」

「そうする」


 全員が深く頷いた。


「マスター、行きましょう」

「そうだな」


 俺達はさらに進むことにし、歩いていく。

 あちこちから湯気が立っており、視界はあまり良くないが、数百メートル先の大きな魔力を見失うことはない。


「私にも魔力が感じられるようになってきた」

「私もね」

「…………これだけ大きければさすがに」


 リリー、アニー、アリスの魔力探知にも引っかかったらしい。


「わかんない……」

「私も……」


 ナタリアは探知が苦手だから仕方がないだろう。

 リアーヌも転生者で特殊な魔法だしな。


「マスター、あれを」

「ああ」


 俺達の視線の先には湯気に隠れた大きな影が見えている。

 そのまま歩いていると、圧縮した魔力を感じた。

 直後、突風が吹き、周囲の湯気が消える。


 俺達の前には大蜘蛛ちゃん級に大きい銀色に輝く竜が翼を上げて、立っていた。


「ひえ、大きい……!」


 ナタリアが俺の服を掴む。


「やはり追ってきたか、魔人よ」


 ドラゴンが俺を見下ろしながらしゃべった。


「魔人? 魔人って何だ?」


 前にもどっかで聞いたな。


「白々しい……人であり、人でない存在だ」


 たまに人外扱いされるよなー……

 ちゃんと人間なのに……


「知らん」

「やいやい、ドラゴン! 偉大なる如月の当主であらせられたマスターに殺気を向けるとは何事か!」


 AIちゃんが啖呵を切る。


「それこそ知らんわ。あの人里にいた魔人はお前の仲間だろう?」


 誰?

 あ、いや、レイラか。

 あいつも混じりものだからな。


「それがどうした?」

「あの魔人のクソ蛇に散々言われたわ! 雑魚だの、喰ってやるから降りてこいだの戯言を! あのクソ蛇め!」


 やっぱりレイラの蛇のせいだし……


「それでなんで俺に殺気を向ける? あの蛇を襲えよ」

「ワシが人里に行き、争いになれば人に被害が出るし、迷惑になる。ワシはそんな愚かなことはしない。あの魔人は貴様の仲間だろう? あの蛇を連れてこい。逆に喰ろうてくれるわ」


 いやー……お前程度では無理だろ。

 それにしても人里に考慮する辺りは温厚というのもは間違っていないらしい。


「レイラは来ないな。あんな蛇は無視しろ。大人になれ」

「数百年の時を生きるワシに何を言うか。連れてこぬなら貴様を喰ろうてくれる!」


 ドラゴンがそう言って大口を開ける。

 よほど頭に来ているらしい。


「マスター、これは正当防衛です。あんなトカゲ、大金に換えてしまいましょう」


 そういうわけにもなー……

 悪い奴じゃないし、どちらかというと、レイラの蛇が悪いよ。


「仕方がない。大人しくさせるか……行け、大蜘蛛ちゃん! トカゲに捕食者は誰かを教えてやれ!」


 そう言って、護符を投げると、ドラゴンと同程度の大きさの大蜘蛛ちゃんが現れた。


「ぬぅ! 奇怪な!」


 ドラゴンが数歩ほど後ろに下がる。

 しかし、大蜘蛛ちゃんはまったく動かない。


「……何ぃ!? 誰が不味そうだ!」


 何を言っているんだろう?


「美味しくなさそうだけど、食べてやるって言ってますね」


 どいつもこいつも食うことばっかりか。


「大蜘蛛ちゃんは甘党だからなー」


 このドラゴン、絶対に甘くないだろ。


「くらえ!」


 ドラゴンが口を開けると、火球が大蜘蛛ちゃんに向かって飛んできた。

 すると、大蜘蛛ちゃんの顔の前で火花が散り、火球が燃え上がった。


「な、何っ!?」


 ドラゴンが狼狽えていると、大蜘蛛ちゃんが腕を振り下ろす。


「くっ!」


 ドラゴンは後ろに下がって大蜘蛛ちゃんの腕を躱すと、飛び上がりながら大蜘蛛ちゃんに噛みつく。

 しかし、大蜘蛛ちゃんはケロッとしており、払うように身体を振った。

 ドラゴンは噛みつきが効かなかっため、数歩下がる。


「ぬぅ……痛覚がないのか――うおっ!」


 数歩下がったドラゴンを追うように大蜘蛛ちゃんがカサカサと動き、逆に噛みつこうととする。

 しかし、ドラゴンは飛び上がり、宙に浮いた。


「空を飛ぶのが厄介ですねー」

「ホントなー」


 ズルいぞ!


 そう思っていると、大蜘蛛ちゃんが飛んでいるドラゴンを見上げる。

 直後、大蜘蛛ちゃんの口から白い糸が吐き出された。


「うおっ!」


 ドラゴンはびっくりして躱そうとするが、それよりも早く糸がドラゴンの翼に当たった。

 それにより、ドラゴンの翼が動かなくなり、ドラゴンが地面に落ちてくる。


「ぐぬっ、なんだこれ!? 取れん!」


 地面に落ちたドラゴンは翼を必死に羽ばたかせ、粘着性の糸を取ろうとしているが逆に絡まり、翼が動かなくなっていった。


「よし、これで飛べんぞ」

「さすがは大蜘蛛ちゃんですねー」


 ホント、ホント。


「大蜘蛛ちゃん、もういい……」


 止めようと思ったのだが、大蜘蛛ちゃんがさらに糸をドラゴンに向けて吐き出す。

 大蜘蛛ちゃんはどんどんと糸を吐き、ドラゴンを拘束していった。


「くっ! 鬱陶しい!」


 ドラゴンが絡みついていく糸を受け、暴れている。


「もういいってばー」

「食べる気満々ですね」


 やっぱりそう?

 なんで式神って言うことを聞いてくれないんだろ?

 人工知能っていうのも考えものだなー。


「人工知能を持った式神はマスターのために頑張っているんです」


 俺のために女を集めてくれているAIちゃんが答えた。


「そっかー」


 じゃあ、食うなよって思うのは俺だけか?


「く、くそっ! 動けんっ!」


 ドラゴンは完全に動けなくなっている。

 すると、大蜘蛛ちゃんがゆっくりと近づいていった。

 そして、動けないドラゴンのそばまで行くと、見下ろす。


「砂糖をまぶしたいって言ってます」

「ねーよ」


 あるわけないだろ。

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