第159話 Aランクかー


 転移で部屋に戻った俺達は昼食を食べ始める。


「温泉があるなんてすごいね」

「…………この辺にはないもんね」

「私も入りたい!」

「リアーヌ、頼むわよ」

「はいはい……」


 女性陣は昼食を食べながら温泉で盛り上がっていた。


「良いところを見つけましたね。私達しか知りませんから他の人も来ません」


 AIちゃんも嬉しそうだ。


「そうだなー。眺めも良かったし、ゆっくり入れそう」


 酒でも持っていくか。


「ですね。暇な冬の良い癒しができました」


 ホント、ホント。


 俺達は温泉の話をしながら昼食を食べ終えると、食後のお茶を飲む。


「さて、温泉の話はここまでにしよう……俺の魔力探知であの時のドラゴンを捉えたぞ」


 そう言うと、皆が俺を見てきた。


「ユウマ様の探知は500メートルでしたか?」


 リアーヌが聞いてくる。


「ああ。そのくらいで魔力を感じた。西の森で感じた魔力と同じだな」

「ということはドラゴンが山を越えなかったというわけですか……」

「そうなるな」

「では、依頼はこれで完了でいいでしょう。叔父上に報告します」


 完了か……


「それなんだがな、ちょっと待て」

「何かありましたか?」

「向こうも俺達に気付いていた。しかも、生意気に殺気を飛ばしてきていた」

「それは……」


 リアーヌが言い淀む。


「西の森で会った時に近づいてきたし、どうも俺か式神に反応しているな」

「どうしますか?」

「どうせ王様に報告してもお前が何とかしろって言うだけだろ。ちょっと行ってみる」

「まあ、他に対処できる方がいませんしね…………すみませんが、お願いします」


 Aランクの冒険者を出して、欲を出されると困るからな。


「それにしても殺気ですか……話を聞いてくれますかね?」


 AIちゃんが聞いてくる。


「ドラゴンって話ができるのか?」


 空飛ぶトカゲじゃないの?


「出来ますよ。知性を持った種なんです」


 ますます殺しにくくなったな。

 でもまあ、話ができるなら説得もできる。


「人畜無害なナタリアを前に出してみるか?」

「泣いちゃいますよ。まずは翼を落とし、逃げられなくしてから対話を試みましょう」


 いや、それ対話か?


「あのー、ユウマ様、やっぱり叔父上に報告して指示を仰いでからでもいいですか?」


 リアーヌが不安そうに言う。


「まあ、ここまで来て、焦ることもないからな。ドラゴンと戦闘になるかもしれないことを考慮すると、午後から休んで明日に行ったほうが良いかもしれん」


 別にそこまでの相手ではないが、無理をするところでもないし、焦る時でもない。

 暇だもん。


「では、私は叔父上のもとに行って参ります」


 リアーヌはそう言って、箸を置いた。

 どうやら昼食を食べ終えたようだ。


「わかった。王様に伝えとけ。たいした相手じゃない。あの大盗賊のルドガーもといオットーの方が強いくらいだ」

「伝えておきます。では、私はこれで。また夕方に戻ってきますので」


 リアーヌはそう言うと、転移した。


「午後からは休みってことでいい?」


 話を聞いていたナタリアが聞いてくる。


「そうなるな。暇だし。パメラのところに行って、これまでの精算をしてくるわ」

「それもそうだね。私も行くよ」


 ナタリアがついてきてくれるらしい。


「私は弓のメンテをしないと」


 リリーは来ないようだ。


「私はパス」

「…………私も」


 知ってる。

 もう生首だし。


 俺達は残っているご飯を食べ終えると、寮を出て、パメラのもとに行くことにする。

 AIちゃんとナタリアの3人で寮を出ると、ひゅーという風の音共に強い寒気が襲ってきた。


「寒い……」

「完全に冬ですねー」

「あ、手袋をあげるよ」


 ナタリアが俺とAIちゃんに手袋をくれたので装着してみる。


「おー! 暖かいです!」

「ホントになー。これも編んだのか?」

「うん。上手くできてる? 男の人と小っちゃい子の手袋を編んだのは初めてだから自信ない」


 そうは言うが、普通にぴったりだし、暖かい。


「お上手ですよー」

「ああ。ありがとうな」

「だったら良かった」


 ナタリアがニッコリと笑った。


「よし、行くか」


 俺達は寒い中を歩き、ギルドに向かう。

 ギルドに着き、中に入ると、冒険者は誰もおらず、いつもは3人いる受付嬢も2人しかいなかった。


「少ないなー……」

「しょうがないでしょ。寒いのよ」


 受付にいるパメラが頬杖をつく。


「受付も2人か?」

「3人もいてもやることがないの。規定で2人以上いないといけないから私達がいるけど、朝からお客さんは数人だけよ」


 本当に暇のようだ。

 いつもは仕事の時は敬語のパメラが普通にしゃべってるし。


「こう寒いと休みにするわな。ちなみに、明日はもっと来ないぞ」

「なんで?」

「雪が降る」


 積もるほどではないが、そこそこ降る。


「そういえば、ユウマさんって天気を占えるんだったわね……明日は休みにしよ」

「そうしろ。それで精算を頼むわ」


 そう言うと、AIちゃんとナタリアが魔石を受付に出した。


「はいはい。えーっと…………」


 パメラが魔石を見ながら精算を始める。


「お前、温泉好きかー?」

「まあ、好きかな? あんまり行ったことはないけど、お風呂は好きだし」


 まあ、嫌いな奴はあまりいないか。


「そうか、そうか」

「何? 連れていってくれるの?」

「リアーヌが連れていってくれるぞ」

「へー……いや、どこよ、それ?」


 山。


「まあ、今回の仕事が終わってからだな。明日には終わると思う」

「うーん……まあいいか。はい、料金」


 パメラは精算が終わったようで金貨を受付に置いた。

 俺達はそれを受け取ると、寮に戻る。

 寮に戻ってナタリアとカードゲームをしていると、リアーヌが戻ってきた。


「どうだった?」


 リアーヌがコタツに入ったので聞いてみる。


「相手次第ですけど、なるべく手荒なことは避けて欲しいそうです。あと、殺すなら確実に仕留めろとのこと」


 まあ、そうだわな。


「報酬は出るの?」

「解決したら出るそうです。もちろん、ギルドからも出ます。そして、ユウマ様はAランクです」


 Aランクって簡単になれるんだな。


「まあ、わかったわ。じゃあ、明日にでも行こう」

「そうしましょう」


 俺達はその後、夕食を食べ、身体を休めた。





――――――――――――


新作も投稿しております。

読んでもらえると幸いです。


https://kakuyomu.jp/works/16818093081433008062


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