第163話 温泉


 王様やエルフの村長さんに報告や説明を終えると、自室に戻ってきた。


「ユウマ様、私はここで失礼します。王都のギルドに行って、今回のことを報告書に纏めないといけませんので」


 表にはしないが、纏めないといけないわな。


「わかった。夜は来るのか?」

「はい。よろしければ夕食を共にしたいと考えております」

「じゃあ、それで。パメラも連れてきてくれ」

「かしこまりました。では、私はこれで」


 リアーヌはそう言うと、転移した。

 俺はそれを見届けると、コタツに入り、誰かさんの温かい足に足を乗せる。


「あー、終わったなー」

「だねー。もうやることはない?」


 正面にいるナタリアが聞いてきた。


「ああ。報酬は後日になりそうだが、リアーヌが持ってきてくれるからもう王様のところに行くこともないし、他にもやることはないな。本当に休みに入ろう」

「そうだねー、お金もかなり貯まったし、リリーも大丈夫でしょ」


 ナタリアがリリーを見る。


「さすがにね。今年の冬は散財も控えて、ここでゆっくりするよ」

「明日、雪降るぞ」

「え? ホント!? 積もるかな!? 積もるかな!?」


 リリーが楽しそうに聞いてきた。


「そこまでは降らない。でも、そのうち積もるかもな」

「ユウマ、積もったら雪遊びしようよ」


 寒い……


「かまくらでも作ってやるよ」

「何それ?」

「雪でできた家? 穴?」

「よくわかんないけど、作ろう!」


 マジかよ……


「ユウマって絶対に断らないわよね」

「…………そういう人でしょ。逆に断れない雰囲気を作るのも上手」

「あー、そんな感じよね。私を仲間に入れる時もそんな感じだった」

「…………私達のパーティーの乗っ取った時もだよ」


 左右の生首が交互にしゃべるなよ。


「マスター、こんな感じでいいですかー?」


 拾ったドラゴンの鱗を飾っているAIちゃんが聞いてくる。

 何枚もある鱗をずらして重ねるように置き、芸術作品っぽくしていた。


「良いと思うぞ」


 さすがにもう売れないだろうし、そんな感じでいいわ。


「よしよし……」


 AIちゃんは満足したように頷くと、隣に戻ってきた。


「マスター、明日にでもリアーヌさんに温泉に連れていってもらいましょうよ」

「そうするかー」


 リアーヌの都合次第だが、連れていってくれるだろう。


 俺達はこの日は何もせずにコタツに入ったまま休むことにした。

 夜になり、リアーヌとパメラがやってきたので夕食を共にし、一緒に過ごす。

 そして、翌日も朝から同じように過ごしていると、休むと言っていたパメラがやってきた。


「寒い、寒い。本当に雪が降ってるわよ」


 パメラがそう言いながらコタツに入ってくる。

 もちろん、タマちゃんも入ってきた。


「だろうなー。リリーがはしゃいでたぞ」

「あれ? そういえば、リリーさんがいない」

「出かけた」

「すごいわね……エネルギーの塊」


 雪が降ってあれだけはしゃいでいるのを見ると、子供の頃を思い出すわ。


「まあなー。夕食を食べたら温泉に行こうっていう話になっているんだが、お前も行くか?」


 昨日、リアーヌとそういう話をし、仕事が終わった後なら大丈夫と言われたのだ。


「あー、例のやつね。行く行く。寒いし、ちょうどいいわ」

「んー。じゃあ、それまで暇だし、カードゲームでもするか」

「カードゲーム? 私、弱いわよ」


 やったぜ。


「そうかそうか。それは良かった」

「えー……」


 パメラが不満そうな声を出す。


「朝からナタリアさんとやっているんですけど、全然、勝てないんです」


 AIちゃんがハンカチを取り出し、目頭を押さえた。


「よし、やりましょう」

「そうしよう」


 俺達はこの日、カードゲームばかりをし、一日を過ごした。

 なお、負けた。


 夕方になると、リリーが帰ってきて、リアーヌもやってきた。

 皆で夕食を食べると、温泉に行くことにし、準備をする。

 そして、準備を終えると、リアーヌの転移でドラゴンが住む山にやってきた。


「おー! 確かに温泉が湧いている!」


 パメラが目の前の温泉を見て、喜ぶ。


「昔、使ってたやつみたいだから安全なやつだ。ゆっくり入れ。じゃあ、俺はこっちだから」


 当然、男女は別れるので皆をここに置き、一人で奥に向かった。

 そして、ちょうど良さげな温泉の前に来ると、服を脱ぎ、湯に浸かる。


「あー……良い感じだなー」


 上を見上げると、空が近いからか満点の星空が見える。

 湯の温度もちょうどよく、いつまでも入っていられるような気がした。


『マスター、気持ちいですかー?』


 温泉に浸かり、満足していると、AIちゃんが念話してくる。


『気持ちいいぞー。そっちはどうだー?』

『こっちも良いですよー。それよりもこっちに来ないんです?』


 行くわけねーだろ。


『男女別』

『多分、皆さん、マスターが来られても何も言わないような気がしますけどね』


 そういう問題じゃない。


『温泉を楽しめー』

『ああ……そういう……視界をリンクします? 絶景ですよ』


 何が絶景なのかね?


『アホ。俺は覗き魔じゃないの』


 犯罪者じゃねーか。


 俺はAIちゃんとの念話を切ると、再度、空を見上げる。

 すると、大きな魔力がこちらに近づいてくるのがわかった。


「本当に来たんだな……」


 近づいてきたドラゴンが俺を見下ろす。


「お前と一緒。温泉を楽しんでいる」

「そうか……しかし、なんであれらと別なんだ?」


 ドラゴンが女共がいる方向を見た。


「男女別」

「ふーん……人はよくわからんな」


 トカゲにはわからないだろう。


「お前さー、本当に暖かいところに来たくて引っ越したのか?」

「うん? どうしてだ?」

「いや、何となくそう思っただけ」

「そうか…………まあ、教えてやるか。言っておくけど、逃げてきたわけじゃないからな」


 ん?


「どういう意味だ?」

「ワシは北の山に住んでおった。何故、あそこかわかるか?」

「わからん」

「人が来ない場所だからだ。あそこは人が来れるような寒さではないからな。ワシは人と争う気はない。他のドラゴンもそうだろう。だが、人は時として、身の程を知らずにワシらを襲う」


 金になるからなー。


「つまり人が北の山に来たのか?」

「正確に言うと、来たわけではない。近づいてきたんだ」

「でも、来れないだろ。人が来れるような寒さではないだろ?」


 さっきそう言ってた。

 この時期にそんな寒い山は登れないだろう。


「普通の人ならばな」


 普通?


「普通じゃないのか?」

「ああ。魔族だ」


 魔族……


「お前を殺しに来たと?」

「魔族の考えていることはわからん。だがな。あの数は異様だった。何隻もの大きな船に乗り、北の地域を目指していた」


 …………は?


「おい、待て。魔族は船に乗っているのか?」


 それも大群?


「そうだな。山の上から見えた。私は目も良いからな」


 船?

 魔族は魔大陸という別の大陸にいる……

 そんな魔族が何隻もの大きな船に乗ってこの大陸に向かっている……


『AIちゃん! リアーヌを呼べ!』

『へ? ご指名ですか? 最初は外はやめた方が良いような……』


 何を言っているんだ、この人工知能は……


『魔族が北の地に侵攻しているらしいぞ!』

『え? す、すぐにそちらに行きます!』

『ああ。待ってるから着替えさせて、すぐに来い』

『わ、わかりました』


 AIちゃんとの念話を切った。


「悪いが、詳しい話を聞かせてくれ」

「まあ、それは構わんが……もう一度、改めて言っておくが、逃げてきたわけじゃないからな」


 逃げてきたんだろ。





――――――――――――


ここまでが第4章となります。

おかげさまでここまで書くことができました。

引き続き、第5章もよろしくお願いいたします。

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