第139話 あの夜を思い出しちゃった(>_<)


 俺達がコタツに入りながらゴロゴロと過ごしていると、夕方になり、パメラとリアーヌがやってくる。

 なお、タマちゃんはすぐにコタツの中に潜っていった。


「お前ら、いつ来ても生首だな……Bランクだろ。少しは働いたらどうだ?」


 リアーヌはアリスとアニーを見て、さすがに呆れる。


「今日は出かけたわよ。それに私はいつも働いている」


 まあ、アニーは薬を作っているしな。

 下手をすると、そっちの方が儲かるっぽいし。


「…………私は森に行った」


 アリスは何もしてないがな。

 俺もだけど……


「気楽でいいのう……」


 リアーヌはそう言いながらパメラと共にコタツに入った。


「忙しいのか?」

「まあ、一時期よりかはだいぶマシになりましたよ。冬前が忙しくて、冬になったら落ち着くのはどこも一緒ですからね」


 あの王都の盛況ぶりは冬前だったこともあるのか。


「忙しくないのなら良かったわ。適度が大事だぞ」

「ええ、そうですね。あ、今日は鍋だそうですね。懐かしいです」


 ん?


「鍋を知っているのか?」

「鍋料理ですよね? 鍋に適当な具材をぶち込むだけの簡単な煮込み料理」


 非常に美味しくなさそうな説明だな。


「まあ、そうだな」

「それなら私がいた世界にもありましたよ。主に魚介類でしたけど」

「それもあったな。今日は猪だ」

「よく獲れましたね。さすがはエルフです」


 エルフってやっぱり狩りが上手い印象なんだな。


「だよなー。ところで、お前は箸を使えるか?」

「使えますよ。そっちの方が得意なくらいです」


 もしかしたらリアーヌがいた世界は俺がいた世界とそう変わらないのかもしれない。


「パメラは?」


 パメラには確認しておこう。


「使えないこともない程度ね。なんで?」

「リリーに箸を作ってくれって頼んだら皆の分も作ったんだよ。何か模様あるやつ」

「へー……模様?」

「ぐにゃぐにゃしててよくわからんが、意味があるらしい」


 文字なのかどうかもわからん。


「ふーん、エルフの文化かな?」

「さあ?」


 わからない。

 エルフってリリーだけだし。


「エルフが親愛の証に贈るやつだと思いますよ」


 リアーヌは知っているらしい。


「知ってんの?」

「ええ。建国記念日にエルフの里から贈ってきますんで。でも、あれって相当な親愛具合じゃないと贈らないやつだった気がしますけど」

「じゃあ、相当な親愛具合なんだろう」

「私にもですか?」


 まあ、お前は付き合いが短いからな。


「リリーはかなりお前に感謝してたぞ。あと、あいつはほら、気さくだから」


 そう気さく。

 あと、人懐っこい。


「まあ、ありがたいことですけど」


 そうそう。

 素直に受け取っておけ。


 俺達が話をしながら待っていると、AIちゃん、ナタリア、リリーの3人が鍋を持ってやってきた。


「お待たせー」


 ナタリアが鍋を机に置くと、横になってたアリスとアニーが起き出す。

 そして、持ってきてくれた3人が席につくと、食べ始めた。


「うん、美味いな」


 味付けも非常に良い。


「猪なのに柔らかいわね?」

「クライヴさんが手伝ってくれたんだよ」

「なるほど……さすがはクライヴ」


 クライヴは良い奴だな。


 俺達はその後も話をしながらわいわいと食べ続けた。

 そして、食べ終えると、すぐに2名ほど横になる。


「そういえば、ユウマさん。ギルドで言っていた報告って何ですか?」


 食事を終え、お茶を飲んでいるパメラが聞いてきた。


「あー、それな。今日、狩りに行った帰りに空を飛んでいるドラゴンを見たわ」

「へー……え? はい?」


 パメラが首を傾げる。


「いや、だからドラゴン」

「えーっと?」


 パメラが首を傾げたまま動かなくなった。


「あ、あの、ユウマ様、何を言っているんですか?」


 今度はリアーヌが聞いてくる。


「だから説明しただろ。俺はドラゴンなんか知らんが、AIちゃんが言うには99パーセントの確率でドラゴンだってさ」

「正確に言うと、99.999パーセントですね。マスターが女たらしな確率と同じくらいです」


 じゃあ、違う可能性も結構あるじゃん。


「………………」

「………………」


 リアーヌとパメラが黙って俺をじーっと見た後に顔を見合わせる。


「私も見たよ。ドラゴンかどうかはわからないけど、翼と長い尻尾があるでっかいのが空を飛んでいた」

「…………私も見た。森の中だったし、速かったからよくわからなかったけど」


 あの場にいたリリーとアリスも証言してくれた。


「…………リアーヌ様、どう思います?」


 パメラがリアーヌに聞く。


「わからん……わからんが、もし、本当なら由々しき事態だぞ」

「でも、ドラゴンって人を襲いませんよね?」

「ドラゴンは頭も良いし、温厚だ。だからこちらから何かをしない限り、何もしてこないはず……だが、ドラゴンがこんなところにいるわけがないし……」


 温厚なんだ。

 じゃあ、放っておけばいいじゃん。


「ど、どうしましょう?」

「私は叔父上に報告する。お前はジェフリーに報告して他に目撃者がいないかを確認してくれ。だが、絶対にドラゴンとは言うな。無理やりにでも大きい鳥ということにしろ」


 そんなでかい鳥がいるの?


「わかりました」


 パメラが神妙な顔で頷いた。


「ユウマ様、私達はこれで失礼します」

「ごちそうさま」


 リアーヌとパメラがそう言って同時に立ち上がると、コタツの中からタマちゃんが出てきて、パメラによじ登っていく。


「もう帰るのか? ゆっくりしていけばいいのに」

「報告は早い方がいいでしょう」


 王様、起きてるかね?

 まあ、まだ起きてるか。


「わかった。またな。あ、明日さー、王都の東の海まで連れていってくれないか? 釣りに行く」

「構いませんよ。では、早朝に迎えにあがります」


 リアーヌはいい子だなー。


「悪いな」

「…………チビマス、ありがと」


 アリスも礼を言った。


「お前はせめて起きて礼を言えよ……」


 リアーヌが呆れながら生首状態のアリスを見下ろす。


「…………ちゃんとチビマスの分も釣ってくるから」


 最低でも人数分だな。

 ダメだったらまた市場だ。


「ハァ……パメラ」

「はい」


 パメラがリアーヌに触れた。


「では、これで失礼します。よ、良い夜を……」

「またね」


 2人はそう言うと、一瞬にして消えていった。


「…………チビマス、なんで最後に赤くなったの?」

「知らね」


 赤くなるところなんかなかっただろ。

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