第138話 人それぞれ


 ドラゴンとやらを見かけた俺達は森を出ると、平原を歩いていき、セリアの町まで戻った。

 そして、ギルドに到着すると、タマちゃんをあやしているパメラのもとに向かう。


「よう」

「おかえりなさい。どうでした?」


 パメラが笑顔で聞いてきた。


「寒かったわ」

「でしょうねー。私達も建物の中にいるのに寒いですもん。それで獲物は獲れたんですか? 牡丹鍋とやらは?」

「それそれ。リリーが大きい猪を仕留めたぞ」

「ふふん!」


 リリーが誇らしげな顔で胸を張る。


「それはすごいですね! さすがはリリーさんです。早速、裏に行きますか」

「あ、ちょっと待て。報告がある」

「ん? 報告? 何ですか?」

「えーっとな、森の中でドラ……」


 そこまで言うと、アリスとリリーが俺の服を引っ張り、首を横に振った。


 マズいのかな?

 もしかしたら魔族以上に禁句なのかもしれない。


「ドラ?」


 パメラが首を傾げている。


「あ、いや、すまん。この話は夜にでもしよう。お前も食べるだろ?」

「ええ、ぜひ。多分、リアーヌ様も来られるかと」


 リアーヌにも報告しておいた方が良いだろうな。


「それがいい。じゃあ、裏に行こうぜ」

「はい」

「にゃ」


 パメラとタマちゃんが返事をしたので一度、ギルドを出ると、裏にある解体場に向かう。

 解体場に入ると、バート達が変わらぬ姿で焚火にあたっていた。


「うん? お前ら、もう戻ってきたのか?」


 バートが俺達に気付く。


「バートさん、リリーさんが猪を仕留めたんですって」


 職人達がたむろっている焚火の前まで行くと、パメラが報告した。

 

「猪!? この時期にか!? すげーな、おい! さすがはエルフだな!」


 バートが驚くと、周囲の職人達もざわつく。


「ふふん! すごいでしょ! じゃじゃーん!」


 リリーはそう言いながら空間魔法から仕留めた猪と鳥を出す。

 森の中でも大きく見えたが、広い解体場で見てもかなり大きい。


「でけー! おっ! 鳥もあるじゃねーか!」

「私の弓は百発百中なの!」

「すげー、すげー。よっしゃ、仕事だ」


 職人達はわいわいと賑やかになり、猪と鳥に群がっていく。


「お前らのクランで分け合うとしても余るが、残りはどうするんだ?」


 バートが聞いてきた。


「売却で」

「毛皮とかもいらねーよな?」

「いらん、いらん」

「よっしゃ! じゃあ、解体しておくから夕方にでも取りに来い。その時に精算する」


 夕方だったら夕食には十分に間に合うだろう。


「それで頼むわ」

「おう! いやー、仕事だ、仕事だ」


 バートは嬉しそうに仲間達のもとに行き、仕事に加わった。

 俺達は解体場を出ると、パメラと別れ、寮に戻る。


「ユウマ、肉の受け取りは私がしておくし、準備もするから部屋で待っててよ」

「あ、私も手伝います」


 寮に帰ってくると、リリーとAIちゃんがそう言って階段を昇っていった。

 残された俺とアリスは俺の部屋に戻る。

 すると、アニーがコタツには入り、横になりながら薬を作っていた。


「ただいま」

「…………ただいま」


 俺とアリスはそう言いながらコタツに入る。


「おかえり……冷たい……」

「…………アニーの足、温かい」


 ホント、ホント。

 狛ちゃんの散歩が終わったらずっとコタツに入ってたな。


「外は寒いわ」

「ホントよね。あんたらはどこに行ってたの?」


 アニーが何かの液体と液体を混ぜながら聞いてくる。

 色がヤバいけど、毒じゃないよな?


「リリーが土鍋と箸を作ってくれたんだよ。それで狩りに行ってた」

「へー……じゃあ、森まで行ってきたんだ。獲れた?」

「リリーが鳥と猪を仕留めた。そういうわけで今夜は牡丹鍋」

「あんたが言ってたやつね。それは楽しみ……あんたらは何を仕留めたの?」


 嫌味なことを言う。


「アリス」

「…………はい」


 アリスが空間魔法から例の花を取り出し、渡してくれる。

 俺はその花をアニーの目の前に置いた。


「ほれ」

「あら? 花を贈ってくれるなんて素敵じゃない」

「だろう? やる」

「どうも。腹下しを治す薬の材料なのがロマンチックさを見事に消しているわ」


 素敵じゃないなー。


「そんなものまで作れるんだな」

「まあねー。色々な薬を作れるわよ。何か悩みがあれば言いなさい。作ってあげるから」

「99歳から20歳に若返ったから健康で仕方がねーよ。朝が辛いくらいだわ」


 腰の痛みと頭痛がなくなったのはマジで嬉しい。


「それは私もそうよ。特に最近は起きてからここまで来るのが嫌で仕方がないわ」


 それくらい我慢しろよ。


「狩りとか行かないのか?」

「気が向いたらね。この花もだけど、冬にしか採れない材料もあるからそのうち行く。あんたらも付き合うのよ?」

「そりゃいくらでも付き合う」


 暇だもん。


「…………気が向いたらね。私は釣りが良い」

「それも付き合うよ」


 冬の海ってめっちゃ寒そうだけど。


「釣りのどこが良いのよ……あんたら、釣れないじゃん」

「釣れるわ」


 お前も食べただろ。


「…………この前、ちゃんと釣った」

「一日かけてあれだけって……買えばいいじゃん。普通に働いたお金で何十匹も買えるわよ」

「…………典型的な夫の趣味を理解しようとしない女」

「じゃあ、あんたもナタリアの編み物にでも付き合ったら?」

「…………買えばいい」


 おい……


「人のことを言えないじゃないの……」

「…………ごめん。採取に付き合うよ」


 まあ、お前らはもう少し、外に出るべきだからな。





――――――――――――


いつもお読みいただきありがとうございます。


書影が公開されました。

イラストレーターにはへいろー様が務めてくださり、素晴らしい絵を描いてくださいましたので見てくださると幸いです。


https://www.hagane-cosmic.com/book_data/%e6%9c%80%e5%bc%b7%e9%99%b0%e9%99%bd%e5%b8%ab%e3%81%a8ai%e3%81%82%e3%82%8b%e5%bc%8f%e7%a5%9e%e3%81%ae%e7%95%b0%e4%b8%96%e7%95%8c%e7%84%a1%e5%8f%8c/


よろしくお願いいたします。

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