第137話 びっくり仰天


 俺達がリリーのあとを追っていると、リリーは何度か立ち止まったり、周囲をキョロキョロと見渡していた。

 そんな風に進んでいると、AIちゃんが俺の袖を引っ張ってきた。


「……猪を確認。大きいです」


 AIちゃんが小声で報告してくる。


「だそうだが、どうする?」

「ユウマ達は動かないで」


 リリーがそう言うと、上を見上げた。

 俺達もつられて上を見ると、木の枝が見える。

 すると、リリーが音もなく、あっという間に木を登っていき、その枝の上に乗った。


「……猿みたいな身のこなしだな」

「キツネさんにはできませんよね」


 キツネって木を登れるのかね?

 当たり前だが、母上が木に登っているところなんか見たことない。


「…………しっ! リリーが構えたよ」


 アリスが言うようにリリーが弓を引き、魔法の矢を出していた。

 大きい猪らしいし、普通の矢では仕留められないのだろう。


 リリーはそのまま狙いを定めているのだが、あんな枝の上でよく弓を構えられると思う。

 そういう風に感心していると、リリーが矢を放った。

 次の瞬間、矢を放った方向からガサガサという音が聞こえてくる。


「やった! 仕留めた!」


 リリーは嬉しそうに言うと、枝から飛び降りてきた。

 そして、奥に走っていったので俺達も追う。


「見て、見て! 大物!」


 そう言ってはしゃいでいるリリーのそばには確かに大きな猪が横たわっていた。

 その大きさは以前に仕留めた魔物のビッグボアほどではないが、俺が知っている猪よりもかなり大きい。


「大物だなー。それを一撃か」


 すげーわ。


「まあね! これで牡丹鍋とやらが食べられるでしょ!」

「そうだな」

「…………リリー、ナイス」


 どうでもいいけど、俺とアリスって何もしてないな。

 いっつもだけど……


「マスター、これなら十分です。戻りますか?」


 AIちゃんが聞いてくる。


「そうだな。パメラに報告して、バートに解体してもらおう」

「はい。では、戻りましょう」


 まだ昼過ぎだし、他に客もいないようだから解体しても夕方には間に合うかもしれない。


「バートも暇そうだったし、喜ぶでしょ!」


 リリーは本当に嬉しそうだ。

 さっきまで泣いていたくせに感情が豊かな奴である。


 俺達は猪を回収すると、森を出ることにし、上機嫌なリリーを先頭に森の中の道に戻った。

 そして、森から出るために道を歩いていく。


「いやー、やっぱり森はいいなー! いつぞやの遺跡なんかでは全然、活躍できなかったもん」


 結構、活躍してたけどな。

 主に採取で。


「余った猪肉は売れよ。少しは足しになるだろ」


 どれぐらいで売れるのかはわからんが、少なくとも俺達が食べる分以上の肉が取れるだろう。


「…………そうだね。私達は何もしていないし、リリーの報酬でいいよ」

「いいの?」

「…………肉をもらえれば十分だよ。私、運動がてらに散歩に来ただけだし」

「ありがとー。でも、アニーもだけど、アリスは本当に動いた方が良いよ?」


 ホント、ホント。


「…………わかってる」


 俺達は話をしながら森の中の道を歩いていく。


「ん?」


 ふと立ち止まった。


「マスター?」

「どうしたの?」

「…………疲れた?」


 3人が声をかけてくる。


「いや……」


 何だ?

 とんでもない魔力を感じるぞ……

 気のせいか?

 いや、でも……


「マスター、どうかしまし――え!?」

「上か!?」


 俺とAIちゃんが同時に開けている上空を見上げた。

 すると、アリスとリリーも同時に空を見上げる。


「え? 何、何?」

「…………何かいるの?」


 2人が聞いてくるが、とんでもない魔力を秘めた何かがものすごい速度で迫ってきていた。

 すると、次の瞬間、俺達の視界が暗くなる。


「え!?」

「…………何?」


 暗くなっていたが、すぐに元の明るさに戻る。

 何かが俺達の上空を通過していったのだ。


「今のは何だ? 翼と尻尾が見えたが……」


 かなりの大きさでかなりの速度だった。

 でっかい鳥、か?


「あれは……まさかそんなことは……」


 AIちゃんがつぶやく。


「何かわかるのか?」

「あ、いえ。すみません……気のせいだと思います。ですが、かなりの魔力でしたし、何らかの魔物かもしれません」


 まあ、そうかもな。


「あんなのがこの森にいるのか?」

「いえ、いませんよ。通りすぎていきましたし、ただ通過していっただけでしょう」

「ふーん……ちなみに、何だと思ったんだ」

「いやー……あの大きさにフォルム。それに巨大な魔力。99パーセントの確率でドラゴンでしょう。でも、こんなところにいるわけないです」


 いや、99パーセントって……


「じゃあ、ドラゴンとやらだろ」

「まさかー…………マスター、どうしましょう?」


 AIちゃんが我を取り戻した。


「どっかに行ったんならいいんじゃないか? 確かに巨大な魔力だったが、あれくらいならお前の方が上だ」

「…………え? 私、そんなにすごいんです?」


 すごいよ。

 母上だぞ。


「まあ、お前は戦闘がからきしだし、勝てる勝てないで言えば無理だろうな。とにかく、どっかに行ったのなら問題ない。一応、パメラに報告すればいいだろ」

「パメラさん、びっくりするでしょうね」


 ドラゴンとやらは知らんが、そうだろうな。


「ねえねえ、アリス、私、ドラゴンって単語が聞こえたんだけど、気のせいだよね?」

「…………気のせい、気のせい。私も聞こえたけど、絶対に気のせいだよ」


 聞こえてんじゃん。


「お前ら、ドラゴンって知ってるのか?」


 どう見ても知ってる口ぶりだが、有名なのかね?


「知らない人はいないと思うけど……あ、でも、ユウマは転生者か」

「…………ドラゴンっていうのはランクで言えば、不動のAランクにランク付けされている伝説のバケモノだよ。強いんだけど、山の奥とかに住んでいて人里に来ることなんかない」


 ふーん……


「よくわからんな」

「マスター、マスターの世界で言うと、龍です」


 龍……


「え? 竜神様? それとも大蛇おろち?」


 もしくは、レイラの蛇か?


「うーん、どれも違う気がしますが、その中だと大蛇おろちですかね? 空を飛ぶ大蛇おろちです」


 すげー!

 この世界、そんなのいるんだ!

 神話の中のバケモノじゃん!

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