第136話 気付くんじゃない


 リリーは一つの木材を手に取ると、魔法を使い、皆の分の箸を作ってくれた。


「これでいい? 他には?」


 すべてを作り終えると、リリーが聞いてくる。


「これで大丈夫。ありがとな」

「いいの! いいの! 暇だから!」


 リリーは明るいなー。


「…………いつ鍋を食べられるの?」


 今度はアリスが聞いてきた。


「そうだなー……まあ、そんなに難しい料理じゃないし、いつでも食べられるんじゃないか? そうだ、ちょっと待ってろ」

「…………待ってる」


 アリスが頷いたのでAIちゃんに念話を繋いでみる。


『AIちゃーん?』

『はいはーい?』


 当たり前だけど、AIちゃんだ。


『何してるんだ? まだナタリアと編み物?』

『そうですね。どうかしました?』

『リリーに土鍋と箸を作ってもらったんだよ。それでアリスがいつ食べられるかってさ』

『いつでも大丈夫ですよ。あとは単純に具材です。買ってもいいですけど、マスターが食べたいと言っていた猪は売ってないと思います。オーク肉なら売ってると思いますけど』


 オーク肉は嫌だなー……


『狩りに行かないか?』

『いいですよー。すぐにそっちに行きます』

『待ってるぞー』


 そう言って念話を切った。


「狩りに行って獲物が獲れたらだな。アリスはどうする?」

「…………行く。たまには付き合う」


 アリスが頷いたので焚火まで行き、AIちゃんを待つことにした。

 そのまましばらく待っていると、AIちゃんが狛ちゃんを連れてやってくる。


「マスター、お待たせしました」

「ナタリアは?」


 一緒にいたのなら来るかと思ったが。


「他の具材や調味料を買いに行くそうです」


 あー、そっちか。


「じゃあ、この4人で行くか。リリー、西の森でいいな?」

「うん、行こう!」


 俺達は解体場を出ると、一度、ギルドに寄り、パメラに西の森に行ってくることを伝えた。

 そして、4人で西門に向かって歩いていく。


 西門を出ると、平原を歩き、森を目指した。


「編み物って何を編んでいたんだ?」


 隣を歩くAIちゃんに聞いてみる。


「マスターの靴下です。足元が冷えますからね」

「そうか、そうか」


 よしよし……

 本当にかわいい奴だ。


 俺はAIちゃんの頭を撫でると、西の森を目指して歩いていった。

 森に到着すると、森の中の道から逸れ、草むらをかぎ分けて奥に進んでいく。


「止まって」


 森の中を歩いていると、リリーが足を止め、俺達を制した。


「どうした?」


 俺の探知では魔物はいないし、AIちゃんが何も言わないということは猪もいないだろう。


「猪は獲れるかわからないから最低限のお肉は確保する」


 リリーはそう言うと、空を見上げた。

 つられるように俺達も空を見上げると、カラスちゃんが空を飛んでいる。


「よし、カラスちゃんは上」


 リリーはそう言って前を向くと、魔法の矢ではなく、普通の矢を取り出した。

 そして、矢をつがえ、弦を引く。

 だが、リリーが矢を向けている方向には何かがいるようには見えない。

 いや、よく見ると、木の枝に鳥がとまっていた。


「よく見えるな……」

「保護色で全然、わかりませんよねー」

「…………ことわざ、町のリリー、森のリリー。意味は人には得意不得意がある」


 リリーでことわざを作るな。

 すごくわかりやすいけど。


「えい!」


 俺達が話していると、リリーが矢を放つ。

 矢はまっすぐ飛んでいくと、見事に木にとまっている鳥に当たり、落ちていった。


「すごいなー」

「さすがですね」

「…………ふっ、私の仲間」

「まあね!」


 俺達が称賛していると、リリーがドヤ顔を見せる。

 正直、かっこいい。


「よーし、次に行くわ!」


 俺達は仕留めた鳥を回収すると、さらに森の中を歩いていった。


「エルフは罠とかは作らないんですか?」


 歩いていると、AIちゃんがリリーに聞く。


「あまり作らないね。エルフはやっぱり弓! これが使えないと一人前とは認められないの!」

「確かにお上手ですね」

「まあね! 私は魔法が不得意だったから特に練習したの!」


 ナタリアと同程度の魔力だし、魔法が不得意とは思えんが、エルフの中ではということだろう。


「エルフってどんな感じなんだ?」


 気になっていたのでこの際だし、聞いてみる。


「どんなって?」

「前にエルフっぽくないって言ってただろ。リアーヌもそう言っていた。でも、俺はお前しか知らんから気になってな」

「あー、そういうこと……まあ、エルフって森に引きこもっているからあまり交流をしないんだ。寡黙だし、大人しい。あと、みーんな、頭が良さげ」


 あー……うん。

 お前っぽくないな。


「俺はお前の明るさが好きだぞ」

「そうですよ。場が和みます」

「…………誰もがっかりエルフなんて思ってない」


 ひでーあだ名。


「ありがと……私は人に恵まれたなぁ……ずっ」


 え? 泣いてる?

 えー……


 ちょっと動揺していると、横のチビ2人が俺を見上げてくる。

 仕方がないのでリリーの隣まで行くと、頭に手を置いた。


「頼りにしてるから。一緒に頑張ろうぜ」

「うん……ありがとう。あの謎の薬は誰にも言わないからね」


 …………こいつ、気付いてやがる。

 というか、口に出すなよ。


「…………謎の薬? 私達が毎晩飲んでいるやつ?」


 アリスが反応した。


「あ、アリスさん、こんなところに綺麗な花が咲いていますよ! 冬なのに咲くんですねー!」


 AIちゃんが誤魔化しにかかる。


「…………それは何とかっていう花だね。アニーに持って帰ってあげるといい。確か、薬の材料になるはず。それで謎の薬って?」


 アリスが何かを察している……


「……しっ! 皆、黙って」


 リリーが俺達は制し、腰を下ろし、地面や周囲の草むらを見る。


「……どうした?」


 何かあったのかと思い、小声で聞いてみる。


「これは猪の糞だね。それに草をかき分けた跡がある…………しかも、新しい。近くにいるかも」


 猪の痕跡を見つけたっぽい。


「AIちゃんのサーチを使いながらゆっくり追おう」

「はい」


 俺達は再び、リリーを先頭にゆっくりと進み始めた。


 いやー、話が逸れて良かったわ。

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