第135話 土鍋と箸を作成


 仕事が休暇期間に入り、数日が経った。

 俺はその間、たまに出かける程度で基本は部屋で過ごしていた。


 今日も朝から部屋で過ごしていると、AIちゃんがナタリアと編み物をしてくると言い、部屋を出る。

 すると、ずっと横になっていたアニーが起き上がった。


「どうした? トイレか?」


 アニーはトイレと食事以外はほぼ横になっている。

 まあ、アリスもだけど。


「いや、ちょっと出かけてくるわ」

「珍しいな」

「まあね。狛ちゃんの散歩にまったく行っていないことに気が付いた」


 いや、あの子、式神だから別に必須ではないんだけど……


「そうか。いってらっしゃい」

「うん。アリス、あんたもたまには出かけないと太るわよ」


 アニーは立ち上がると、そう言って部屋を出ていった。


「…………自分が動く時だけあんなことを言う」

「いやまあ、そうだけど、正論ではあるぞ」


 太る云々以前に不健康だ。


「…………まあね。ユウマ、釣りでも行く?」

「寒くないか? というか、釣れるのかね?」


 海ならともかく、川は釣れない気がする。


「…………海に行こうよ。チビマスに連れていってもらおう」

「あいつ、今日は王都で仕事だぞ。昨日、そう言ってただろ」

「…………言ってたね。こうなったら仕事でも……」


 しゃべっている途中でアリスが黙った。

 何故ならノックの音が聞こえたから。

 誰だろうと思っていると、扉が開かれた。

 すると、元気よくリリーが部屋に入ってくる。


「やっほー! 珍しくアニーが出かけたみたいだけど、どうしたの?」

「狛ちゃんの散歩。最近、行ってなかったことを思い出したらしい」

「あー、なるほど。確かにいつも散歩に行ってたしね」

「それでお前は何か用か?」


 本題に入ることにした。


「あ、そうそう! ユウマ、どうせ暇でしょ? バートのところに行こうよ。準備ができたから土鍋と箸を作ろう!」


 それがあったな。


「そうするか。アリス、付き合え」


 アリスを誘うと、コタツから出て、立ち上がる。


「…………うん」


 アリスも返事をすると、立ち上がった。


「あれ? アリスも行くの? 珍しい」

「…………怠惰は良くない」

「どの口が? まあ、いっか! 行こう、行こう!」


 俺達は楽しそうなリリーに促され、寮を出る。

 すると、一気に寒気が襲ってきた。


「寒っ! もう完全に冬だな」


 この前も寒かったが、この数日で一気に気温が下がっている。

 リリーの予想は当たっていたようだ。


「…………はい」


 アリスがそう言って、俺の背中に触れると、寒気が和らいできた。

 完全になくなったわけではないが、だいぶマシになっている。


「魔法か?」

「…………うん。これがないと凍死する」


 さすがに凍死はしないが、かなり楽になったことは確かだ。

 本当に魔法というのはすごい。


「ありがとな」

「…………いい。それよりも行こう。私も鍋とやらが気になる」


 寒さが和らいだ俺達はバートがいるギルド裏の解体場に向かった。

 解体場に着くと、中では焚火にあたる職人達が見える。

 その中にはバートもおり、入ってきた俺達を見てきた。


「バートー!」

「いや、目が合っただろ……うるせーっての」


 バートは叫んだリリーを嫌そうに見る。


「バート、要らない木材と土をちょうだい!」


 リリーはそう言いながらバートに近づいていったので俺とアリスも続いた。


「……お前、人の話を全然、聞かないのな」

「そんなことないよ」

「ハァ……兄ちゃん、こいつと一緒で疲れないか?」


 バートが聞いてくる。


「賑やかだし、明るくていいじゃないか」

「そうかぁ?」

「…………バート、ユウマに同意を求めてもダメ。この人は女を褒めることしかしない」


 普通、普通。


「あー、そういやそういう奴だったな。それで木材と土って何に使うんだ?」


 バートが再び、リリーを見る。


「箸と鍋を作る!」

「あ、そう。今回は普通だな。その辺にあるのを好きに使っていいぞ。あー、寒い、寒い」


 バートはそう言うと、焚火にあたり始めた。


「暇そうだな?」


 俺も焚火にあたりながら聞く。


「まあ、この時期はな。それでもたまに客も来るし、閉めるわけにはいかねーんだ。兄ちゃん達も働けよ」


 解体屋が閉まってたら困るもんな。


「そのうち狩りにでも行くと思うわ」

「おう、行け行け。良いのを獲ってこいよ。ついでにパメラにでも顔を出せよ。寂しがってんじゃねーの?」

「…………バート、パメラならほぼ毎日、ウチに通ってるよ」


 昨日もリアーヌと来たな。

 転移があるからマジで気安く来るようになった。


「あー、もうそんな感じか…………お前、すげーな」


 バートが感心する。

 他の職人達も感心していた。


「…………ふっ、我らがリーダー」


 アリスがドヤ顔をする。


「ねえねえ、ユウマー! 土鍋ってどれくらいの大きさー?」


 いつの間にか端にある作業場に行っていたリリーが聞いてきた。


「あー、行く行く。アリス、行くぞ」

「…………うん」


 俺達は焚火から離れ、リリーのもとに向かう。

 すると、リリーの足元には土がこんもりと盛られていた。


「どうする?」

「8人だからなー。ちょっと大きい方がいいか……このくらい」


 手で円を描いて大きさを説明する。


「ふむふむ。なるほどね。えーっと、形はっと……」


 リリーがAIちゃんが絵を描いた紙を取り出し、確認し始めた。


「すぐにできるのか? 知らんが、焼くんじゃないのか?」

「魔法でできるよ。まあ、焼く方が良いのができるんだけど、時間がかかるからね。私の魔法でパパッと作るよ」


 そんなに簡単に作れるか?

 すごいな……え?


 俺が考えていると、足元にあるこんもりと盛られた土が動き出し、形を変える。


「こんな感じかな? いや、もうちょっと丸いか……」


 リリーが紙を見ながらぶつぶつ言っていると、徐々に形が土鍋に変わっていった。


「すごくないか?」


 土が変わる光景を見ながらアリスに同意を求める。


「…………実際、すごい。こんなのができるのはエルフだけ。リリー、耳だけじゃなかったんだ」

「アリス、ひどい。私だって由緒正しいエルフなの!」


 由緒も何も耳を見ればわかるよ。


「さすがだなー」

「えへへ、そうでしょ? じゃじゃーん! ほらできた!」


 リリーは地面に置いてある土鍋を手に取ると、かけ声と共に掲げる。


「すごいなー」

「…………リリー、優秀」

「まあね! さてと、次は箸だね。えーっと……」


 褒められて胸を張っていたリリーがまたもや紙を取り出して見だした。


「何だそれ?」

「…………箸に図面がいる?」


 俺とアリスはリリーが持っている紙を見てみる。

 すると、紙には7つのにょろにょろとした謎の模様が描かれていた。


「えーっと、模様?」

「そう! 箸に描くやつ!」


 要らないんだけど……


「…………リリー、別に模様はいらなくない?」


 アリスも同じことを思ったようだ。


「いるの! これはちゃんと意味があるの!」

「意味って何だ?」

「うん? まあ、想いを込めている感じ? これは親愛だね!」


 そういう伝統的なやつか。

 じゃあ、まあ、受け取った方がいいだろう?


「…………親愛?」

「そう親愛! 恥ずかしいからあまり言いたくないけど、この模様は『いつもありがとう』だね」


 リリーがそう言って、一つの模様を指差す。


「誰の奴だ?」

「言わない! 恥ずかしい!」


 まあ、わからんでもないな。


「…………ちなみに、明らかに模様が他とは違うこれは?」


 アリスが指差したやつは確かに周りとはちょっと違う。


「え? あ、うん。ま、まあ、良いじゃん。同性と異性に贈るのは一緒じゃないし、そういうもん」

「…………あー、そういうの……なるほど」


 お前は口角を上げて、こっちを見るんじゃない。

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