第134話 ばーか
アニーとアリスに今日の仕事の報告を終えると、アニーはすり鉢で何かをゴリゴリと擦り始め、アリスは本を読み始めた。
「ユウマ、さっき私に頼みたいことがあるって言ってたけど、なーに?」
リリーが聞いてくる。
「あー、そうだった。箸と土鍋を作ってくれないか?」
「んー? 箸はわかるけど、土鍋ってどんなの?」
リリーが首を傾げると、AIちゃんが紙を取り出し、絵を描き始めた。
俺達はそれを眺めながら待つ。
「こんなのです。鍋料理と言って、色んな具材を煮込んで食べるための調理器具ですね」
AIちゃんって本当に絵が上手いなー。
土鍋だけじゃなくて、具材まで入った絵を描き上げている。
「へー……まあ、形状を教えてもらえたらすぐにできるよ。バートのところで良い土を分けてもらえる」
あいつのところ、土まであるんか。
「頼むわ」
「土鍋はわかったけど、箸は? どんなのが良い? エルフの伝統工芸の力を見せてあげようか? すごい模様を描いてあげる」
いらねー。
「箸を使うのか?」
「使うよ。ものによるけど、箸で食べることが多いし」
そうなのか……
「模様は任せるけど、作ってくれ」
「わかった! ユウマとAIちゃんの分でいい?」
どうだろうか?
「ナタリアは箸を使えるのか?」
「料理で使うからね。あんまりそれでご飯を食べたことはないけど」
「…………右に同じ」
ナタリアが答えると、本を読んでいるアリスも答えた。
「アニーは?」
「はい」
アニーにも聞くと、箸を持っており、ぱちぱちと箸でものを挟む動作をした。
「なんで持ってんだ?」
「薬を作る時に使う。触ったらマズいやつとかもあるし」
毒でも作ってんのかね?
効かないが、俺に盛るなよ。
「一応、皆の分も作ってくれ」
「わかった! パメラとリアーヌの分も作ってあげる!」
パメラは料理をするらしいが、リアーヌはどうかねー?
「頼むわ」
俺達はその後も話しながらまったり過ごす。
そうこうしていると、夕方になり、ナタリアとリリーはクライブの手伝いをするために部屋を出ていった。
すると、部屋にノックの音が響く。
「どうぞー」
誰が来たのかわかっているので入室の許可を出した。
すると、扉が開かれ、パメラと頭にタマちゃんを乗せたリアーヌが部屋を覗いてくる。
「よう。仕事は終わったか?」
「はい。お、趣のある部屋ですね」
リアーヌが生首2人を見て、感想を述べた。
「そいつらは放っておけ。まあ、入れよ」
「はい、お邪魔します」
「お邪魔します」
「にゃ」
2人と1匹はそう言って部屋に入ってくる。
「これがコタツですか?」
リアーヌがコタツを見下ろす。
「ああ、こんな感じで足を入れるわけだ」
「足……?」
またもや生首を見る。
「そいつらは無視しろ」
「はい。では、失礼して……」
リアーヌは腰を下ろすと、俺の隣に座り、足を入れる。
なお、パメラはとっくに座っており、お茶を淹れていた。
「おー! 確かに暖かいですね…………誰の足だ?」
リアーヌは足が当たったのか、布団をめくり、中を見る。
当然、俺の隣なので俺も中が見えた。
「…………私。チビマス、寒い」
この足はアリスか……
「誰がチビだ、誰が。可愛らしい幼児体型と言え」
それ、誉め言葉か?
それにさすがに幼児体型ではないだろ。
「…………言いづらい」
「というか、お前もチビだろ」
「…………私の方が大きい。訳あって背比べをすることはできない」
コタツから出られないからな。
「リアーヌ様、お茶です」
「うん? あ、すまんな」
リアーヌはパメラが淹れてくれたお茶を飲む。
どうでもいいけど、いつまで頭に子猫を乗せているんだろう?
「ユウマさん、ナタリアさんとリリーさんは?」
呆れながらタマちゃんを見ていると、パメラが聞いてくる。
「クライヴの手伝い。もうすぐ持ってくるんじゃないかな?」
「あー、なるほど」
「それと区長に会ったわ。他所のちょっかいはなくなるってさ」
「それは良かったわね。落ち着いて仕事ができるし」
ホント、そう。
あの【ハッシュ】のサイラスとかうざかったし。
俺達がそのまま話しながら待っていると、ナタリアとリリーが料理を持って戻ってきたので皆で食べることにした。
さすがに食事となると、アリスもアニーも起き上がる。
現在、コタツには8人が入っている。
俺の両隣にAIちゃんとリアーヌのチビ2人が座り、斜め右にはパメラとアリスが座っている。
正面にはナタリアとリリーが座り、斜め左にはアニーだ。
「あー、今年は良い冬になりそうね」
ぼさぼさ頭のアニーが何か言っている。
「お前、マジで起きなかったな」
「トイレの時は起きたわよ」
本当に風邪引くぞ。
あ、でも、回復魔法でどうにかなるのかもしれない。
「ユウマ様、美味しいですね」
リアーヌは笑顔だ。
「そうだな。王都の食事も良かったが、やはりこういうのが落ち着くわ」
「ユウマ様は貴族だったんですよね? 豪華だったのでは?」
それ、聞く?
うーん、毒虫を食ってたことは言わない方が良いだろうな。
「俺の場合は食事が決められていたな。栄養が偏らないようにとか。野菜なんか食いたくないのに」
「あー、なるほど。私も巫女をやっていた時はそんなんでしたね」
坊主の精進料理みたいなものかな?
それは大変だわ。
俺達が会話に華を咲かせながら食事を楽しんでいると、ドンドンという強めのノックの音が聞こえてきた。
「ん? 誰だー?」
扉に向かって声をかける。
『俺、俺。ちょっといいか?』
この声はクライヴだ。
「ちょっと待ってろ」
俺は立ち上がると、扉まで行き、扉を開ける。
すると、そこにはやはりクライヴが立っていた。
「よう…………って、マジで女しかいない空間だな、おい。しかも、多い……お前、本当にすごいわ」
クライヴが部屋を覗いて驚く。
「別に普通だ。それよりも何か用か?」
「ああ。お前に渡すもんがある。ほれ」
クライヴがそう言うと、どこからともなくワインを取り出し、渡してきた。
「なんだ、これ?」
「王都みやげ。王都で会ったお前らに渡すのもなんだが、皆に配っているんだよ」
「おー! 悪いな!」
気の利く奴だ。
「いいってことよ。それとお前らは今後、仕事はどうするんだ?」
「当分は休みだな。遠征はしないと思う」
「了解。一応、それの確認だ。本来ならアニーの役目なんだが……」
そいつはコタツの魔の手に堕ちた。
「頑張れ」
「いやまあ、暇だからいいんだけどな。じゃあ、そういうわけだから。食事中に邪魔して悪かったな」
クライヴはそう言うと、扉を閉めた。
「良いもんもらったなー」
俺はコタツに戻ると、机にワインを置く。
「後で飲みますか?」
AIちゃんが聞いてきた。
「そうだな。明日は休みだし、ちょうどいいだろ。お前らも何かもらったのか?」
4人に聞いてみた。
「私も同じワインをもらったわね」
「…………私も同じ。昼に来たんだよ」
俺らが仕事に行っている時にもらったわけか。
「お前らは?」
ナタリアとリリーを見る。
「私らもだよ。さっき厨房でもらった」
「うん。まとめ買いだって」
全員、酒かよ。
「まあ、食べたら飲むか」
「そうしましょう」
俺達は食事を再開し、食べ終えると、ワインを飲んで楽しんだ。
そして、良い時間になると、お開きとなる。
「ユウマ様、本日はお招きいただきありがとうございました」
リアーヌが笑顔でお礼を言ってきた。
「いつでも来ていいからなー。暇だし」
「ふふっ、そうさせてもらいます。では、これで失礼します。明日は仕事があるので」
リアーヌがそう言うと、コタツの中にいたタマちゃんがリアーヌの身体をよじ登り、頭に乗る。
「ああ。送っていこう」
「いえ、大丈夫です。パメラと転移で帰りますから」
あ、転移があったな。
便利な奴だわ。
「パメラを送ってくれるのか?」
「ええ。一緒の寮ですし」
ん?
「お前、あの寮に住んでるのか?」
「はい。引っ越しました」
そうなのか……
「だからお前、頭に乗っているんだな……」
「にゃ」
タマちゃんが一鳴きする。
「まあ、わかった。じゃあ、またな。パメラもまた」
「はい」
「おやすみ」
2人と1匹はそう言うと、一瞬にして消えていった。
「傍から見ていると、こう消えるわけか」
本当に一瞬だ。
「ユウマ、私も部屋に戻るよ。ほら、リリー」
「うーん……」
リリーは酒がダメだったようで潰れている。
ナタリアはそんなリリーを介抱しながら部屋から出ていった。
「私はお風呂に行ってきまーす」
AIちゃんはそう言って立ち上がると、風呂に行く。
「お前らは?」
残っているアリスとアニーを見た。
「もうちょっと飲むから付き合いなさい。ほら」
アニーがそう言ってワインをグラスについでくれる。
「…………アニー、私も」
「はいはい。あんたも強くないんだからほどほどにしなさいよ」
「…………問題ない。明日は休み。そして、潰れてもここなら寝れる」
「それもそうね。いやー、良いもん作ったわね、あんた」
2人はコタツで盛り上がりながらワインを飲んでいった。
当然、俺もそれに付き合い、風呂から上がって布団で寝始めたAIちゃんを尻目に遅くまで3人で飲み明かした。
翌朝、アニーとアリスは二日酔いで朝食には来なかった……
――――――――――――
いつもお読みいただきありがとうございます。
この度、本作は書籍化することになり、6月14日頃にハガネ文庫様より第1巻が販売されます。
これもひとえに皆様の応援のおかげです。
ありがとうございます。
詳細は随時お知らせしますのでこれからもよろしくお願いいたします。
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