第133話 報告しよう
俺とAIちゃんが話をしながら歩いていると、区長の屋敷が見え、いつもの門番が寒そうに門の前に立っていた。
「よう」
「あ、戻っていらしたんですね。王都はどうでした?」
「人が多かったわ。お前、こんな寒いのに大変だな……」
ずっと外は寒いだろうに。
「もう慣れましたよ……少々、お待ちください。区長に聞いてきますので」
門番はそう言って、屋敷の方に走っていく。
そのまま待っていると、すぐに門番がいつもの若いメイドを連れて戻ってきた。
そして、メイドに案内され、区長の部屋に向かう。
区長の部屋に着くと、ソファーに座るように促され、メイドがお茶を淹れてくれた。
「無事に戻ってきてくれてまずはほっとしているよ」
メイドが退室すると、区長がお茶を飲みながら言う。
「勧誘はされたが、そこまでではなかったな。お前やパメラの手紙が効いたのかね?」
「そうかもね。でも、君は私の想像以上だったよ……ハァ」
区長がため息をついた。
「どうかしたか?」
「どうもこうもないよ。君が王都に残らなかったのは良かったけど、代わりに厄介なのを連れてきたね」
「リアーヌか?」
「ああ。王都のギルマスで王族……非常に厄介だ」
こいつらにとってはそうだろうな。
「あいつ、何かしたか?」
「そりゃもう。この町に介入し始めたよ」
「そんなことができるのか?」
「はっきり言うけど、無理だね。この町がものすごく複雑なんだ」
王様もそう言ってたな。
色んな派閥の貴族が関わっていて、王様でも無理らしい。
「じゃあ、良いだろ」
「良くないよ。単純に仕事が増える。しかも、本気で介入する気はなく、目的がはっきりとしているね」
「目的はわかっているから説明しなくてもいいぞ」
わかってるからお前もAIちゃんも俺をガン見するな。
「ハァ……まあいい。こちらとしては君の流出を阻止できるわけだからね」
そもそも別にどこも行かんがな。
「他の区の連中は?」
「これで大人しく引き下がるだろう。おそらくだが、君の勧誘は一切、なくなると思う。リアーヌ様の思惑はそれだ」
介入しない代わりにってところか。
「ウチの寮の周りをウロついてた連中がいなくなるわけだな」
いつも誰かが見張っていた。
カラスちゃんが屋上からずっと見ているからわかるのだ。
「こっちはそれを知らないけど、そうだろうね」
「問題がないなら良かった。リアーヌはよくやってくれている」
「君、すごいね……政治に関わらずに王家の後ろ盾だけを得た」
偶然だよ、偶然。
「お前らの足の引っ張り合いなんか知らんわ」
区長の前では言えんが、こんな町はさっさと解体して一つにした方がいいと思う。
「そうだろうね。まあ、後は冒険者でもしながら落ち着いて過ごしてくれればいい」
「そうする。もう冬っぽいし」
「冬か……今年は早いな。君達は遠征とかの予定は?」
「特にないな……あ、遠征で思い出した。区長に借りた馬車だが、王都に置いてきたわ」
これの報告をしないといけなかった。
「リアーヌ様から聞いているよ。そのうち戻ってくると思うし、問題ない」
「悪いな。それとおみやげがあるぞ」
そう言って、AIちゃんを見る。
すると、AIちゃんが空間魔法から木箱を取り出し、テーブルに置いた。
「わざわざ悪いね。パメラに渡せばいいのに」
「パメラにはもう渡した」
「……さすがだね。これは何かな?」
区長は呆れていたが、すぐに木箱を手に取る。
「スプーンだ。何でも毒物に反応し、変色するらしいぞ。立場ある人間だし、気を付けろ」
これも結構高かった。
「……ありがとう。君が使ったほうが良いんじゃないか?」
「俺に毒は効かないからいらん」
「あ、そうなんだ………いや、悪いね。使わせてもらうよ」
使え、使え。
パメラの親父が毒殺とか嫌だわ。
「じゃあ、俺はこれで帰る」
「ああ、お疲れ様。何はともあれ、無事に謁見が終わって良かったよ。当分は休んでくれ」
「そうだな。では、失礼する」
俺達は区長への報告を終え、屋敷を出た。
◆◇◆
屋敷を出て、寮に戻ると、玄関の前でナタリアとリリーとばったり出会った。
「あれ? もう買い物は済んだのか?」
「うん。買うものは決まっていたしね」
「私は節制しないとだから見るだけ」
なるほどね。
女の買い物は長いが、そういうことならすぐだろう。
俺達は寮に入ると、ナタリアとリリーを連れて、自分の部屋に向かう。
すると、今朝とまったく変わらない位置で顔だけを出しているアリスとアニーがいた。
「うわっ、本当に変わってない」
リリーが生首状態の2人を見て、呆れる。
「…………おかえり」
「どうだった?」
2人は俺達が帰ってきてもコタツから出る気はないらしく、顔だけをこちらに向けた。
「森は微妙だな。リリーが言うにはもう冬に入っているらしい」
そう言いながら俺もコタツに入る。
AIちゃん、ナタリア、リリーもコタツに入り、冷えた身体を暖める。
ちょうど足元にある誰かの足が温かい。
「そっかー、残念。私は冬ごもりには入ることにする……冷たい。誰の足?」
「俺。お前らはもう冬ごもりに入ってるだろ。お前、ずっとここにいる気か?」
「うん。これでも薬は作れるし」
アニーの枕元には何かの作業をした跡が見える。
「…………私もここにいることにする」
ダメな奴ら……
「ずっと入ってて暑くないんか?」
「…………暑くなったら冷たいジュースを飲むか氷菓子を食べる。最高」
「わかるわー。すっごくわかるわ-」
もう放っておこう。
こいつらはペットの猫だ。
「勝手にしろ。それとリアーヌというか、王家からの依頼があった」
「依頼? どんなの?」
「スタンピードの現地説明だな。森の奥まで行ってきた」
「それはお疲れ様。良い依頼料だったでしょ」
アニーも想像がつくようだ。
「金貨60枚だった」
それを三等分して、一人金貨20枚。
「すごっ……リリー、良かったじゃん」
「リアーヌって本当に良い人だよねー」
「良い人ではない気がするけどね。まあ、あんたに配慮してくれたんでしょう。これで大丈夫?」
「うん! 多分ね!」
多分という言葉が余計なんだよなー……
「まあ、どうとでもなるか……当分は休みでいい?」
アニーが聞いてくる。
「そうだな。王都にも行ったし、当分は身体を休めよう」
「そうする……あ、もうちょっと上に足を置きなさい。そう、そこ」
「…………ナタリア、私も。ひんやりして気持ちいい」
どうやらナタリアもアリスの足に足を置いていたらしい。
「いや、暑いなら出ろよ」
「嫌」
「…………嫌」
2人はそう言って顔を引っ込めた。
こいつら、亀かカタツムリみたいだな……
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